太田述正コラム#2447(2008.3.26)
<皆さんとディスカッション(続x95)>
<くらよし>
桜テレビを見ました。
 <太田さんが「ソ連の脅威」ならぬ>「極東日米軍の脅威」<について語っていたのを見て、ミグ25(ベレンコ中尉亡命)事件
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%B3%E4%B8%AD%E5%B0%89%E4%BA%A1%E5%91%BD%E4%BA%8B%E4%BB%B6
http://www.geocities.jp/GL_Hobby/Zatsugaku/JAJ-Jiken-Jiko/JAJ-MIG25-Belenco.html についてのTV番組を見た時のことを思い出しました。>
 当時の関係者などのインタビューを交えて、その時<戦闘準備をした>対応の判断は正しかったのかと視聴者が個々に考えさせるような内容で構成されていました。
 当時の司令官や亡命パイロットもそろえて「<ミグ25の>機密漏洩を防ぐ為、<ソ連は>必ず攻撃してくる(はずだった)」という趣旨の答弁がなされていました。
 <しかし、>じゃあなぜソ連が実力行使をしなかったのかが、評論家も含めて一切触れられていませんでした。
 双方にいろんな課題を残した出来事でしたが、ソ連側が、極東での自国の戦力事情や、日米の戦力を独自に分析していたあらわれだと思います。
 当時、誰かは言ってたのかもしれないけど、逆の立場からの考え<を述べた人>は太田さん以外見たことがありません。
 桜テレビで、色んな方が、自衛隊や北朝鮮問題なんかで、<日本人の安全保障や自衛隊に対する意識は>大きく変わり良くなったとおっしゃられていました。
 良くなったとの<彼らによる>連呼で催眠術にかかってしまった<ような状態のわれわれです>けれども、<太田さんのように、>別の角度から考え、国民に対し、然るべき問題提起をすれば、<日本人の間で>実質的独立を望む意識がめばえるのかなあ、とちょっびり望みがでました。
 <とにかく、国政選挙に>いつも参加しない人達<も参加し、独立を望む>意思を示してほしいものです。
<太田>
 「当時は、縦割り行政が今よりもひどく、自衛隊の立場は低かった。警察によって封鎖された現場には、陸上自衛隊員すら管轄権を盾に締め出され、軍事に関わる事項にもかかわらず一切の情報収集・警護に関する立案ができなかった。当時の陸上自衛隊函館駐屯地司令は、目の前で起きた軍事的な事案から締め出され、道南の防衛を担任する自分がテレビからの情報しか得られない苦悩を、後に公表された手記で明かしている。」(上記ウィキペディア)
 あたごの衝突事故の後の海保と海自の関係(コラム#2445)を見ていると、それから32年も経ったというのに、「大きく変わり良くなった」なんてウソっぱちであることがよく分かりますよね。
<ケンスケ2>
 –秩禄処分–
 コラム#2355「天下りについて(その1)」を読みました。
 明治維新で,武士階級が俸禄を放棄して債権を押しつけられた。
 彼らの生活設計は全て崩壊した。
 しかしこのことによって初めて、日本は近代国家建設の源資を手に入れた。
 時代遅れの官僚機構を清算するとき,やむ得ない選択なのかも知れません。
 ただ批判するだけで<変革ができる>・・とは思いません。
<太田>
 今回の「くらよし」さんや「ケンスケ2」さんの投稿は、読解するのがいささかホネでした。投稿前に、一度は読み返してくださいね。
 民主党が選挙で政権を奪取した場合、幕末当時の薩長と違って、軍隊を含む自前の官僚機構を持っていないのに、旧政権から江戸城(霞ヶ関/市ヶ谷)を明け渡され、さあ統治してみろと言われたような状況になるわけです。
 そんな状況で版籍奉還(1869年)・廃藩置県(1871年)・秩禄処分(1876年)を一挙にやったとすれば、薩長政権は一ヶ月と持たなかったことでしょう。
 天下り廃止はやらなければならないのだけれど、天下り官僚の「俸禄を放棄」させて、しかも秩禄処分の時のように形だけではあっても「金録公債」を与えることすらせずに彼らを失職させるのは、版籍奉還・廃藩置県・(金録公債授与抜きの)秩禄処分を一挙に行うようなものであり、現役官僚はそんな命令を実施に移すことに抵抗するだけでなく、官僚OBともども画策して民主党政権を瓦解に追い込むに違いありません。
<読者OS>
 日本国の多くの組織の長や副は(株式会社の会長、副会長、etc, 何とか協会の長、次長、理事など)70歳以上の方です。これではこれらの組織において、まともな運営が期待出来る筈はありません。本当は組織の邪魔になっているのではないでしょうか。
 これらの地位は、官僚の天下りポストと同一の位置を占めている様な気がします。
 これら(一般化した)天下りポストについた人は日本の貴族階級であり、実際は日本の活力を奪っていると思います。(議員という地位も、あらゆる分野からの天下りポストに見えます。芸能界やスポーツ界、官界に学会、経済界に報道機関などの。)
 この事実を多くの方に知らせたいと思います。
 太田さんどう思われますか?
<太田>
 要するに、日本の大企業や公法人のほとんどが政官業の三位一体的癒着構造の一翼を担っているということなのです。
 さもなきゃ、老害の大企業なんてとっくの昔につぶれているはずです。
 この癒着構造を瓦解させるためには、まずもって自民党を政権の座から引きずり下ろさなければなりません。
 それなのに、橋下氏に続いて、今度は樺島郁夫前東大法学部政治学教授が自民党に推されて熊本県知事に当選しました。
 樺島氏は二大政党制の実現が必要だという持論を持っておられたと承知しており(典拠省略)、しかも彼の場合、その年齢を考えれば、読者OSさんおっしゃるところの天下りであるとさえ言いたくなるだけに、橋下氏の場合以上に許し難い思いがします。
<田吾作>
 「ル・モンド・ディプロマティーク」に以下のような記事があります。
リスボン条約も国民投票にかけるべきだ
http://www.diplo.jp/articles07/0712-3.html
欧州構想をめぐる左翼の迷走
http://www.diplo.jp/articles05/0505-2.html
<読者MN>
 先日は台湾総統選に関してのメールにコラム#2423でレスをつけて下さりありがとうございました。
 ニュースリリースに関する鮮やかなご高察、感銘いたしました。
 加盟申請に関する国民投票は有効投票率に達せず無効と相成ったようで、台湾国民(民族)はもとより、東アジアの人々にとっても問題は先送りにされた感があります。
 私はアングロサクソン及びスコッツに詳しい太田メルマガの啓蒙によりEUでは「国民国家」と「民族」を巡り、我々東アジア人などよりもよほど進んだ議論が行われていることを知りました。
 そして、その析出とも言うべきリスボン条約についてコラム#2444(未公開)を配信していただくに及び、非才ながら一筆差し上げた次第です。
 偶然かつ個人的な話なのですが、同コラムにおけるウェッブの論考の引用部分において先生もご記述の通り、本条約が蘭仏で否決されたEU憲法の衣替えバージョンであることを昨年6月に聞く機会がありました。
 ある大学で行われたACU(アジアカレンシーユニット)に関するシンポで、日本の教育関係者のほかEUからも人が出ていました。
 リスボン条約に関しては、すこしウェブを引くだけでも色々と記事が読めるのですが
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E6%86%B2%E6%B3%95
http://www.diplo.jp/articles07/0712-3.html
http://www.mmjp.or.jp/gyoukaku/toron/199907.htm
http://www.jetro.be/jp/business/eutopics/eu99-2.pdf
http://www.jetro.be/jp/business/eutopics/eu103-4.pdf
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/300/3638.html
(全て本日午前アクセス。)
 最後のリンク(NHK解説委員室)の記事に出てくる”ミニ条約”という言葉について、シンポでEU職員の方が語っておられたことが印象深かったので、当時のメモを頼りにすこし文に起こしてみようと思います。
 同時通訳がついていたものの、なんとか頑張って英語(英国人のスピーチでし た)で聞き取ろうとあがいていたため、文面に至らぬ点がありましたらご容赦下さい。
☆  ☆  ☆
<EU職員 M.G氏>
「『投票方法の変革』『多数決の多用』『議長国の各国持ち回り制から欧州議 会での投票による選出制』『各国国内法に対するEU法の優先』等を骨子とする EU憲法が2005年にお蔵入りになってしまったことを受け」
(小生:これらの変化がEU議会への権力の委譲と集中を生み、そこからEU軍や 各国政府を超える権限をもつEU政府が生まれることで、国民=民族(現在議論 中)の権利が損なわれる、という意見が蘭仏で同条約批准が退けられた大きな要因と考えている)
「仮に憲法がお蔵入りになってもそれらが必要であるという信念は欧州委員会 にとって不変であるということが確認された。これらを実行するため、現在は 「憲法」という表現をやめ、『ミニ条約』という表現を使い鋭意交渉中である」
「つまり、あらゆる項目を1つにまとめた憲法をそれぞれの国に持ち帰ってもらい、その上で国民投票に諮って批准するのではなく、各項目それぞれについ て『ミニ条約』を各国―欧州委員会(あるいは相互国間?このあたりちょっと 不明確で申し訳ありません)で批准し、最終的にはEU憲法にほぼ相当する法的 拘束力を持つ法体系を構築していく。『憲法』と異なり『ミニ条約』は条約ひとつひとつを批准することが必要で、交渉及び法体系の作成には大変な労力が かかるが国民投票に諮らずとも各国の議会の批准で発効させることができる」
「それらを推進するため、EUでは『安定成長協定』を取り決め、これを達成することをめざして各国との交渉、及び新規加盟国との交渉にあたる。その駆動力となるのが世界第二位の基準通貨となったユーロである」
「ユーロ信認の根拠は通貨価値安定を重視する金融政策、対外収支の均衡、欧州委員会と協力して各国が『安定成長協定』の遵守に努めることである。特に 新規加盟国に対しそれらを支援するためにCSF(Community Support Framework)があり、2004-6の3年間にポーランド、構造基金と結合基金を合計 して128億ユーロ、ハンガリーには同様に(二基金計で)31億ユーロ、チェコに は構造基金だけで15億ユーロ、スロバキアにも同様で7億8千万ユーロの支援」
「この構造基金と結合基金は新規EU加盟国に対し、共通農業政策(CAP)
http://www.deljpn.ec.europa.eu/union/showpage_jp_union.afs.agriculture.php
と同クラスの資金規模で構造改革支援をしています」
☆  ☆  ☆
 まったく、今書き起こしてみてEUの手並みの鮮やかさにはため息がでます。
 本シンポはあくまでACU構想とそのメルクマールとしてのEUROの発展の歴史について拝聴する、というものでした。個人的には政治組織が文化を組織化しながら包含しつつある(スポーツ、文化遺産など)一方で多くの国民は文化的とはあまり言えない暮らしをし(私を含め日本人もEU人も十分テレビの見すぎです)政治的にも孤立を深めている昨今、蘭仏での否決はむしろ意外でした。そんな背景もあってこのあたりはテキトーに聞いていたのですが先生のコラム配信と、それに続いて田中宇氏のコラムでも言及があったので驚いている次第で す。これから大手メディアでも取り上げられるかもしれませんね。
ついでに田中氏のメルマガからも引用しておきます。こちらは先生のコラム配信と違って(失礼!!)アナウンスメント効果の方が大きそうです(笑
>>イラク戦争後、EUは軍事・政治統合を加速している。05年には「EU憲法」の草案が加盟各国で国民投票や議会決議にかけられ、フランスとオランダの国民投票で否決され、一時は葬り去られたかに見えた。しかしその後、昨年になって、EU憲法とほとんど同じ内容のものが、今度は「リスボン条約」として検討され、昨年12月にポルトガルのリスボンで、EU加盟諸国の代表がこの条約に署名した。すでに多くの国の議会がリスボン条約を批准しており、05年に国民投票で否決されたフランスでも議会が批准決議を通した。
http://tanakanews.com/f0611EU.htm
http://www.conservatives.com/tile.do?def=news.story.page&obj_id=142045&speeches=1
 05年の「憲法」とは異なり、今回のは「条約」なので、国民投票は不要で、各国の議会での批准決議だけで発効できるのがポイントである。憲法と条約は、形式こそ違うが中身はほとんど同じで、EUに大統領と外務防衛大臣のポストを作り(すでにある名目的なポストを、実質的なものとして強化する)、これまでEU各国が個別に保有していた外交と軍事に関する国家主権を、EUに統合していこうとするものである。
 今の速度で進むと、EUは今後数年以内に、統合的な外交軍事戦略を持つようになる。EU軍の創設も進むだろう。すでに軍事統合の準備事務局のようなものが、ブリュッセルのEU中央にできている。実体的な兵力を持ったEU統合軍が立ち上がってきたら、もはや欧州にはNATOは必要なくなる。
<<引用終わり。[ 田中宇:イギリスの孤立 ]より。昨日配信。
 先生のスコットランドへの考察を読むにつけ、欧州での民族問題と、アジアの欧州たる中国における民族問題、とりわけ台湾とチベットにおいて、同時期に注目を集めたものの、台湾の公民投票は無効、チベットにおける泥仕合の様相、とても欧州にはかなわんなと思う次第であります。
PS 欧州憲法につきウェブにあたっていると、
「デロゲーション」だの「リコメンデーション」なる言葉が目に付きました。
http://usui.asablo.jp/blog/2007/01/31/1155014
 なんだか政治学に出てきそうな言葉ではあるのですが、もしかしたら将来邦訳 されて普遍的な言葉になるような気がして・・・先生は何かご存知ではありませんか?
<太田>
 田吾作さん、MNさん、貴重な情報をありがとうございました。
 上記ブログの筆者は、
 「たくさんのデロゲーションなる抜け道が盛り込まれる<ことで、>EUの環境立法は、ますますソフト化していくだろう。・・リコメンデーションという法的拘束力のない文書<もよく用いられる>。EU研究の業界用語では、これをCo-Regulation(共同規制)という。あたらしいガバナンス様式の一種である。」
という文脈の中でご指摘の二つの言葉を使っています。
 リコメンデーション(recommendation)は字義通り「勧告」でしょうが、デロゲーション(derogation)は余り聞き慣れない言葉です。「(名誉・品格を)傷つける」という意味のderogatoryはよく用いられる言葉であり、筆者自身が「抜け道」と意訳されていることを併せ考えれば、何となくイメージはつかめますね。
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太田述正コラム#2448(2008.3.26)
<台湾総統選挙余話>
→非公開