太田述正コラム#2446(2008.3.25)
<イギリスと欧州・日本と米国(その2)>(2008.5.1公開)
もう一つ押さえるべきは、一本目の朝鮮日報の記事の反米的トーンです。
この関連で思い出していただきたいのは、コラム#2426でご紹介した、朝鮮日報の反中共的論説です。
ここで大胆に総括すれば、韓国は親日、そして反米反中へと向かいつつある、という気がするのですがいかがなものでしょうか。
(2)米国に急接近する台湾
これに対し、親米親中、そして反日へと正反対の方向に向かいつつある気がするのが台湾です。
馬英九(Ma Ying-jeou。1950年~)は、支那本土出身の中国国民党中級幹部たる父の唯一の男の子として香港で生まれ、1歳の時に家族と共に台湾に移住しました。1972年に台湾大学法学部を卒業してから米国に留学し、ニューヨーク大学ロースクールで法学修士号を、更にハーバード大学ロースクールで法学博士号を取得しました。
ハーバード大学留学中に結婚し、1981年に台湾に戻ります。
つまり馬は、20歳台から30歳台初めにかけて足かけ10年、米国で過ごしたわけです。
馬には二人の娘がいますが、二人の名前はLesley W. Ma (Ma Wei-chung=馬唯中) と Kelly Ma (Ma Yuan-chung=馬元中)であり、これは台湾や香港の住民にはめずらしくないとはいえ、二人のファーストネームが欧米名、というか米国名であることに注目しましょう。
総統選挙中、民進党側は馬が米国の永住権を持っているのではないかと攻撃しましたが、どうやら彼も彼の妻も永住権を持っているらしく、その上、彼の姉妹達や長女は米国籍を持っているのですから、馬の親米ぶりが窺えるというものです。
いや、私はむしろ、馬の意識は漢人系米国人であると見ているのです。
そして私は、馬の対中共政策は、米国、より端的には米国政府の傀儡としてのものであると認識しているわけです。(コラム#2440、2442(未公開)参照。)
このように考えれば、中台の法的関係は現状維持しつつ、対中軍事力を整備し、その一方で経済的交流関係を深める、ただし中共の人権問題は厳しく批判する、という馬の対中政策の説明がつくと思いませんか。彼の親中とは、このようなものなのです。
そして、台湾国民は、このような政策をひっさげた馬に立法院での絶対的多数と総統職を与えたことになります。
他方、馬の「反日的」スタンスは気になるところです。
馬のハーバード大学ロースクールでの博士論文は、尖閣諸島(釣魚列嶼=Diaoyu Islands)とが台湾領だというものでしたし、2005年4月に当時台湾の与党の一角をなしていた台湾団結連盟の蘇進強主席らが靖国神社に台湾の政党トップとしては初めて参拝した時、当時台北市長であった馬は同連盟に謝罪を求めました(
http://www.news.janjan.jp/media/0504/0504070457/1.php
。3月25日アクセス)。
私は、前者は馬の個人的研究に過ぎない一方で、後者は、父親譲りの、伝統的な中国国民党員的発想から来ていると見ています。
とはいえ、このような馬の「反日的」スタンスの支持者が漢人系米国人の間で多く、また台湾においても少なからず存在することもまた事実なのでしょう。いずれにせよ、このスタンスが、馬の総統選勝利の妨げにならなかったことをわれわれは肝に銘じる必要があります。
馬が米国政府の傀儡としての立場を優先させ、総統就任後、彼のイニシアティブでこれらの問題を持ち出して日台関係を混乱させるようなことはしないことを祈るばかりです。
(以上、特に断っていない限り、事実関係は
http://www.nytimes.com/2008/03/24/world/asia/24taiwan.html?ref=world&pagewanted=print
(3月24日アクセス)、及び
http://en.wikipedia.org/wiki/Ma_Ying-jeou
(3月25日アクセス)による。)
この関連で私がむしろ心配しているのは、米国の今後の対東アジア政策の動向です。
(続く)
イギリスと欧州・日本と米国(その2)
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