太田述正コラム#2452(2008.3.28)
<マケイン?!(その2)>(2008.5.4公開)
弱みの第二は、マケインの識見に疑問符がついていることです。
まず安全保障問題についてですが、先週訪問先のヨルダンで、記者達に向かって、「イランはアルカーイダをイランで訓練し、イラクに送り返していることはよく知られている」と述べたのです。イランとアルカーイダは敵対関係にあるというのに、です。耳打ちされて彼はただちに発言を訂正したのですが、その前夜にラジオでのトークショーに出た時にも同じことをしゃべっているので、とちったわけではないことははっきりしています。
ちょうどオバマ候補に関し、オバマの所属している教会の前主宰者で、オバマと個人的に親しい関係にある黒人牧師の「反米的」言動が大騒ぎになっていた時期なので、このマケインの失言は余り大きな話題にならずに済みました。
しかしこれで、安全保障問題の専門家であるとのマケインの自称には大きな疑問符がついたと言えるでしょう。
次に経済問題についてです。
こちらについては、マケイン自身がよく知らないことを認めています。
(以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/03/25/AR2008032502294_pf.html
による)。
このようにただでさえトロいのではという感なきにしもあらずで、しかもロートルときているのですから、いくら若い時にお国に尽くしたと言っても、果たして大統領が勤まるのか、という懸念が今後次第に高まって行かないという保障はありません。
弱みの第三は、共和党がガタガタになってしまっていることです。
世論調査をすると、民主党員ないし民主党シンパは51%、共和党員ないし共和党シンパは37%と14%も差がついています。つい4年前には差は3%でしかなかったのですが、急速な共和党離れが起こっているのです(
http://www.csmonitor.com/2008/0328/p01s05-uspo.htm
。3月28日アクセス)。
また、共和党党組織が保有する資金は約500万米ドルでしかないのに対し、民主党党組織が保有する資金はその8倍近い3,800万米ドルに達しています。
無党派、ヒスパニック、都市郊外居住住民、30歳未満の若い層、といった最も人口増加率の高いセグメントで共和党は後退を続けているのです。
これは共和党が、移民に対する厳しい姿勢でヒスパニック、富裕層への減税政策で都市郊外居住住民、同性愛者同士の結婚反対といった社会問題での硬直した保守的姿勢で若い層の離反をそれぞれ招いたためです。
それに冷戦が終わり、テロリストの脅威は到底かつてのソ連の脅威には及ばない、ということも共和党には不利に働いています。
(以上、
http://www.nytimes.com/2008/03/30/magazine/30Republicans-t.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print
(3月27日アクセス)による。)
なお、米国在住の作家の冷泉彰彦氏は、オバマが民主党大統領候補になることを前提に、これまで共和党の強力な支持勢力であったキリスト教原理主義者達は、マケインのリベラル寄りの姿勢に反発して本選では投票せず、棄権するであろうとし、オバマの圧勝を予想するコラムを日経の電子版に寄せています(
http://netplus.nikkei.co.jp/forum/kosaten/t_230/e_1069.php
。3月28日アクセス)。
しかし、既に約2ヶ月前のニューヨークタイムスの記事は、マケインが今ではブッシュの減税政策支持に転じていること等から、キリスト教原理主義者達のマケイン再評価現象が見られるとしており(
http://www.nytimes.com/2008/02/01/us/01conservatives.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print
。3月28日アクセス)、これに照らしても、根拠薄弱だと思います。
4 展望
マケインは、リベラル的印象を薄め、オバマやクリントンとの違いを印象づけるため、26日、包括的な政策演説を行いました。
彼は、安全保障に関しては、(イラクからの撤退を唱えるオバマやクリントンとは違って)目的を達成するまではイラクから撤兵しないと改めて表明するとともに、経済に関しては、自由放任的なスタンスを明確に打ち出しました。
(以上、
http://blog.washingtonpost.com/the-trail/2008/03/26/on_war_and_the_economy_mccain.html?hpid=topnews
(3月27日アクセス)による。)
しかし、金融界の中からも、サブプライム問題への反省から、少なからず、規制強化の声が挙がっているというのに、マケインは規制強化に反対する姿勢を崩さなかったために、やはりマケインは経済問題ではダメだという声が出ています(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/03/25/AR2008032502294_pf.html前掲)。
こうなれば、民主党大統領候補が一本化さえすれば、民主党員や民主党色の有権者がマケインに投票するという心配をする必要はなくなったのではないでしょうか。
民主党の大統領の誕生、しかもオバマ大統領の誕生はほぼ間違いない、と私には思えてなりません。
(完)
マケイン?!(その2)
- 公開日:
MLでの冷泉彰彦さんの記事に、「「ライト師の問題」について、「どうしてこの時期に?」という疑問が出ていたのですが、それは「本選になってからこの問題が噴出すれば良かったのに、こんな時期に出したら11月までにはネタ的に風化してしまう」という意味だというのですが、共和党側のホンネはそんなところにあるのかもしれません。」は当たっていると思いますが、そう簡単にアメリカの原罪が忘れ去られるとも思えないのです。とはいえ選挙はわからない部分が多いのですが、日本人が考えているほどオバマ氏が強いとは思えないのです。