太田述正コラム#2480(2008.4.11)
<英サウディ不祥事(続)(その1)>(2008.5.17公開)
1 始めに
英武器メーカーのBAEがらみの英サウディ不祥事(コラム#1799~1801、1809)が新展開を見せました。
(以下、特に断っていない限り
http://www.guardian.co.uk/world/2008/apr/10/bae.armstrade2、
http://www.guardian.co.uk/world/2008/apr/10/bae.armstrade1、
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/apr/11/bae.baesystemsbusiness1、
http://www.guardian.co.uk/world/2008/apr/11/bae.armstrade1、
http://www.guardian.co.uk/world/2008/apr/11/bae.armstrade3、
http://www.guardian.co.uk/world/2008/apr/11/bae.armstrade、
http://www.guardian.co.uk/world/2008/apr/11/bae.armstrade4、
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/apr/11/bae.baesystemsbusiness、
http://www.ft.com/cms/s/0/eee36ac6-06e4-11dd-b41e-0000779fd2ac.html、
http://www.ft.com/cms/s/0/bbcf45ce-0734-11dd-b41e-0000779fd2ac.html
(いずれも4月11日アクセス)による。)
収賄追求市民団体と武器輸出反対市民団体が英政府の重大不正捜査局(Serious Fraud Office=SFO)の局長を訴えていた裁判の一審判決が地裁(high court)によって下され、政府側が敗訴したのです(注1)。
(注1)この判決を下した主任裁判官(このほか陪席裁判官1名)は、かねてより政府に厳しい有名判決を次々に下してきているモーゼス卿(Lord Justice Moses)だ。
英国の司法がいかなるものか、この判決を通じてさぐってみましょう。
(本件について予備知識のない方は、せめて後で上記シリーズ等をお読みになることをお奨めします。)
2 判決をめぐって
(1)判決要旨
サウディアラビアの現皇太子の息子で、前駐米大使、現サウディ情報局総裁のバンダル王子(Prince Bandar bin Sultan bin Abdul Aziz of al-Saud)・・彼が10億英ポンドの賄賂をBAEから受け取った容疑がSFOの捜査の核心部分だった・・は、英首相官邸を訪れ、首席首相補佐官に向かって、捜査を続けるのであれば、英国からの新しい戦闘機(70機以上の Eurofighter Typhoon)輸入話は進められなくなるし、情報面での協力も続けられなくなると脅した。同様の脅しをバンダルは、駐サウディ英国大使に対しても行った(注2)。
(注2)バンダルは、首相官邸を訪れた足でパリに飛び、フランスからこの戦闘機を買う交渉をこれみよがしに行った。また、BAEやBAEの工場を選挙区に持つ国会議員達が、職が失われると捜査中止を政府に働きかけた。(太田)
刑事司法システムへの介入は、英国人であれ外国人であれあってはならないことだ。
バンダルが英国人であれば、かかる介入について、訴追されていても不思議ではない。
にもかかわらず、ブレア首相は法制局長官(attorney general。検事総長も彼の指揮下)に捜査の中止を指示し、長官はしぶしぶこれを受け入れ、長官は今度はSFOの局長に中止を指示し、結局2006年12月に捜査は中止されるに至った。
タテマエ上は安全保障上の理由によるが、それは口実であり、ホンネは商業的ないし外国的理由だった。
これは司法過程への政治の介入であり、法の支配と司法過程の独立(independence of legal process)を犯すものであって問題だ。
(地裁が、SFOの捜査の中止を違法とするにとどめるのか、それとも無効とするところまで踏み込むのかは、一両日中に明らかにされることになっている。)
(2)コメント
SFO側は、この判決を控訴することができますが、控訴を断念する可能性も囁かれています。
ちなみに、2003年からSFOの局長を勤めてきたワードル(Robert Wardle)は4月中に退任することになっていますが、地裁で、「<捜査を中止することは>私の検察官としてのあらゆる本能に反することだった」と証言しています。
また、警察/SFO関係筋は、「これは見事に書かれた記念碑的判決だ。米国の最高裁が下したかのような原理原則の再表明だ。」という感想を漏らしています。
この判決を受けて、ブラウン政権がどうするのか、先週ロンドンで英国の官僚達に2002年に英国が加入したOECDの国際賄賂禁止条約違反ではないかとクレームをつけたOECD官僚達や、英国が捜査を中止した後英サウディ不祥事を追及し始めたスイス(ここの、バンダル父子友人名義の銀行口座に賄賂が振り込まれた)と米司法省の捜査官達・・米英相互司法共助条約に基づく捜査資料引き渡し要求を英国が拒否している・・らが固唾をのんで見守っています。
(続く)
英サウディ不祥事(続)(その1)
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