太田述正コラム#2492(2008.4.17)
<オバマ大頭領誕生へ?(続x6)>(2008.5.24公開)
1 始めに
コラム#2488で、オバマ大統領誕生について弱気なことを書きましたが、どうやら杞憂だったようです。
2 最新の世論調査
(1)意外な世論調査結果
4月11日のオバマの「失言」を挟む10~13日に実施されたワシントンポストの世論調査によれば、民主党支持者中のオバマとクリントンの支持率は51%対40%(5週間前は50%対43%)、誰が大統領に当選する可能性が高いかはオバマ52%、クリントン31%(同42%、47%)、好印象か悪印象かについてはオバマ56%・39%、クリントン44%・54%、マケイン53%・40%、オバマ対マケインは49%対44%、マケイン対クリントンは48%対45%でした。
また、ロサンゼルスタイムスの世論調査によれば、次のペンシルバニア州での予備選について、クリントンが大幅に有利とされてきたというのに、オバマは差を5%までつめ、その次のインディアナ週ではオバマが5%のリード、北カロライナ州ではオバマが13%のリードという結果が出ました。
(2)ガーディアン記者の当惑
ガーディアンのアメリカ版編集者たる記者は、自分はオバマが大統領候補者として一番マシだと思っているのでこのような世論調査結果には満足だが、何でこんなにオバマに有利な結果が出たのか訳が分からない、と率直な感想を記しました。
そして、(自分も含む?)エリート達が、大衆の気持ちが分かると称して行った議論は机上の空論であって、実際の大衆は、オバマの「失言」によってさして傷ついてなんかいなかったのではないか、と自嘲したのには思わず嗤ってしまいました。
(以上、
http://commentisfree.guardian.co.uk/michael_tomasky/2008/04/mixed_up_confusion.html
(4月17日アクセス。以下同じ)による。)
嗤ってばかりはおれません。
大衆が一層オバマ贔屓になった謎を解く鍵になりそうな、(「失言」した)オバマ弁護論を二つご紹介した上で、私の考えを申し上げましょう。
3 オバマ弁護論
(1)エリート主義批判のナンセンス
クリントンもマケインも、オバマの「失言」は、オバマがエリート主義者、つまりは大衆の気持ちが分からず大衆を見下していることを示している、と批判した。
確かに共和党のブッシュは、2000年に民主党のゴアを、そして2004年には同じく民主党のケリーをエリート主義者だと批判し、大いに得点を稼いだ。
だが、3億人の米国人の中で自分が一番大統領になるのがふさわしいと思うような人間は、理の当然としてエリート主義者であるはずではないか。
更に言えば、米国ではエリートは大金持ちと相場が決まっているが、クリントンとマケインは大金持ちだがオバマはそうではない。
また、クリントンとオバマは、どちらもエリート・クラブの最たるものの米上院の議員だし、それぞれエールとハーバードというエリート校の卒業生でもある。クリントンはオバマをエリート主義者などと言える立場ではないのだ。
(以上。
http://www.cnn.com/2008/POLITICS/04/16/elitism/index.html
による。)
(2)黒人差別臭のするオバマ批判
「エリート主義者」とは「傲慢」ということであり、「生意気(uppity)」ということでもある。この最後の言葉は、自立的な黒人に対して投げつけられてきた言葉だ。
また、「~の気持ちが分からない」とは、黒人は、主流の端っこにいて、全体から隔離されているところの「よそ者(others)」であるという伝統的観念と符合している表現だ。
出る杭的な黒人は、白人であればプラスに評価されることでもマイナスに評価されてきたものだ。白人の「自分の主張を曲げない(assertive)」が黒人では「攻撃的」とされるし、白人の「断固たる(resolute)」が黒人では「ごり押しの(pushy)」とされるし、白人の「包み隠しのない(candid)」が黒人では「感情を逆なでするような(abrasive)」とされるし、白人の「独立独歩」が黒人では「チームプレヤーでない」とされる。
「まだ準備不足だ」もよくオバマに投げかけられる批判だが、これは黒人が昇進にあたってしばしば投げかけられてきた常套句だ。
クリントンはまた、オバマは言葉は流暢だがその言葉の中身はないと批判したこともあるが、これはジェファーソン(Thomas Jefferson)の語った「<黒人は>ふしや時間に係る正確な耳を持っていることから音楽では一般に白人より天分があるが、ユークリッドの学理を学び理解する能力を持つ者はほとんどいない」を思い出させる。つまり、黒人は見栄えはするかもしれないが実態は伴っていない・・リズムがよく踊りがうまく跳んだりはねたりはたくみだが、知性は劣っている・・という中傷を思い出させるのだ。
(以上、
http://www.latimes.com/news/opinion/la-oe-shipler16apr16,0,3786473,print.story
による。)
4 私の考え
この二つのオバマ弁護論を踏まえれば、米国の大衆は、クリントン(やマケイン)のオバマ批判のうさんくささにダメ出しをした、と考えるのが一番自然でしょう。
しかし、私としては、米国の大衆がガーディアンの記者を含めたこの三人以上に賢明である可能性がある、と思いたいのです。
米国の大衆は、「米国に蔓延する銃フェチシズム、キリスト教原理主義的偏向、・・黒人差別、ヒスパニック差別、そして保護主義的傾向」は好ましくないと思っており、また、「米国のこれまでの歴代政権の経済政策<を>・・弱者に厳しい<と>・・批判」的に見ているのではないか(括弧内はコラム#2488より)、そして大衆は、かくのごとくオバマのホンネを的確に理解した上でそのホンネに共感した可能性がある、と思いたいのです。
そんなに大衆が賢明ならば、どうしてまた長年にわたって、彼らはよくないことにうつつを抜かし、弱者たる彼らに厳しい経済政策をとってきた歴代政権を支持してきたのかね、と反論されそうですね。
この反論に対するお答えは、宿題にさせてください。
オバマ大頭領誕生へ?(続x6)
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