太田述正コラム#2504(2008.4.23)
<ロシアの体制(その1)>(2008.5.27公開)
1 始めに
 ロシアの現在の体制をどう見るべきか、最近上梓されたルーカス(Edward Lucas)の’The New Cold War: Putin’s Russia and the Threat to the West’と、フェルシュティンスキー(Yuri Felshtinsky)及びプリビロフスキー(Vladimir Pribylovsky)の’The Age of Assassins: The Rise and Rise of Vladimir Putin’の2冊を手がかりに考えてみましょう。
 (以下、この2著両方をとりあげた書評である
http://www.telegraph.co.uk/arts/main.jhtml?xml=/arts/2008/03/22/boluc122.xml
)、及びルーカスの本をとりあげた書評である
http://www.telegraph.co.uk/arts/main.jhtml?xml=/arts/2008/02/10/boluc111.xml
http://entertainment.timesonline.co.uk/tol/arts_and_entertainment/books/non-fiction/article3328525.ece
http://www.bbc.co.uk/blogs/newsnight/2008/02/the_new_cold_war_by_edward_lucas.html
(ただし、ルーカス本人によるもの)、
http://www.prospect-magazine.co.uk/article_details.php?id=10094
http://www.popmatters.com/pm/books/reviews/57152/the-new-cold-war-by-edward-lucas/
http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/books/reviews/the-new-cold-war-by-edward-lucas-779038.html?service=Print
(以上、すべて4月23日アクセス)、並びにフェルシュティンスキーらの本の書評である
http://books.guardian.co.uk/reviews/politicsphilosophyandsociety/0,,2274982,00.html  
(4月20日アクセス)、
http://entertainment.timesonline.co.uk/tol/arts_and_entertainment/books/article3503559.ece
http://www.cnbceb.com/articles/2008/april/41/reading-books.aspx
(どちらも4月23日アクセス)による。)
 なお、ルーカスは英エコノミスト誌のロシア・東欧問題担当記者であり、フェルシュティンスキーはロシアの著述家、プリビロフスキーはロシアの複数の人権団体主宰者です。
2 ルーカスの指摘
 (1)ルーカスの指摘
 モスクワで殺害されたジャーナリストのポリツコフスカヤ(Anna Politkovskaya)とロンドンで殺害されたリトヴィネンコ(Alexander Litvinenko)(コラム#1518以下)は、クレムリンの新冷戦がいかなるものかを象徴している。
 それは、片や無法なロシアのナショナリズムに対するに、法治主義の西側の多国間主義(multilateralism)、の間の冷戦だ。
 しかし、この冷戦が始まっていることに気付かないでいるうちに、早くも西側は敗北しつつある。
 資本主義は自由よりもカネを尊ぶシステムであると誤解している人間が西側に多いため、自由を全く信じないロシアは、カネを用いて、いいように西側に攻撃をしかけてきているのだ。
 ロシアは、ロシアの国策会社であるガズプロム(Gazprom)の天然ガスの供給を通じて欧州に影響力を行使しつつ、バルト3国に対して恫喝、サイバーテロ、歴史の歪曲、エネルギー政策等を駆使して西側陣営から引きはがそうとしているし、グルジアに対しては恫喝によって西側陣営加入を妨げようとしている。
 ロシア国内においても、ちっぽけな人口60万人のマリ(Mari)の人々の文化再興運動を、恐らくマリがエストニアに接近することを心配してだろうが、ひねりつぶした
 私は、プーチンが大統領になった頃、エコノミストのモスクワ特派員をしていたが、プーチンのロシアの将来に強い懸念を表明したものだ。ところが当時、ブッシュ米大統領もブレア英首相もプーチンに大きな期待を寄せていた。
 私の方が正しかったわけだ。
 エリティン(Boris Yeltsin)から大統領職を引き継いだ、KGBの後継機関の長たるプーチンは、既にエリティンの下で、西側恐怖症にかかった元諜報機関員達によって運営されるところの、私企業の統制によって金持ちになることをめざす、民主的諸制度を蔑ろにするロシア、の構築にとりかかっていた。
 大統領に就任したプーチンは、全TV局を国家統制下に置き、政治的動機に基づいて司法機関をして企業を攻撃させ、これら企業の資産を国有化し、地方における首長選挙を廃止し、小さい野党を権力から遠ざけるべくこれらの政党の存立を事実上不可能にする選挙法を施行し、反体制派を妨害しデモを罰するための法律を制定したり法律を枉げて適用したりし、恐らくは上記2人の殺害にも関与し、ソ連時代の体制批判者に対する強制的精神治療制度まで再導入した。そして、新しい教員用マニュアルを策定し、スターリンを若干の厳しい決定を行わざるを得なかった偉大な指導者として教えよという内容をこれに盛り込んだ。
 そして今やロシアにおいて、外国からの投資が盛んに行われており、生活水準は向上し、プーチンの支持率は常に80%を超えている。
(続く)