太田述正コラム#2551(2008.5.16)
<ミャンマーと中共の大災害(その2)>(2008.6.20公開)
3 中共の四川省大震災
(1)注目事項
ア 情報を公開
既に耳タコになるほど報じられているように、中共当局は、24万人(一説には27万人)以上の死者が出たとされる1976年の唐山(Tangshan)大地震の時は十分な救援活動を行わず、情報も隠蔽したものの、その後の通信手段の発展等により、2003年のSARS(Severe Acute Respiratory Syndrome=重症急性呼吸器症候群)事案の時も、そして最近のチベット騒擾や大雪被害の時はなおさら、情報の隠蔽が困難になってきていたところ、5月12日に起こった今回の四川大地震に関しては、内外向けに被災状況と救援状況について、積極的な情報公開を行っています。
また、中共当局は、即日共産党政治局会議を開催するとともに、温家宝首相を現地に派遣し、救援活動の陣頭指揮をとらせました。
(以上、
http://www.ft.com/cms/s/0/5f447a10-211d-11dd-a0e6-000077b07658.html
(5月14日アクセス)による。)
イ 援助要員を受け入れ
中共当局は、更に15日に、日本、次いで台湾、そして16日にはロシア、韓国、シンガポールからの救援隊の受け入れを決めました。これはほとんど前例がないことです。
このうち日本と台湾の救援隊・・ただし、台湾の救援隊は赤十字と仏教団体二つでいずれも民間団体の救援隊・・の受け入れは、特段の政治的配慮に基づいて行われたことを中共当局筋は隠そうともしていません。
(なお、胡錦涛主席も16日、現地入りしました。)
(以上、
http://www.nytimes.com/2008/05/16/world/asia/16china.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print
(5月16日アクセス)による。)
ウ 高い国内諜報能力
「・・・四川省を中心とした大地震の被災者数は、・・・1ケタの数字まで発表されている。・・・同省政府の関係者の話によると、被災者の数は、省内の対策本部で各地からの報告を集計している。(1)死亡した人(2)生き埋めになっている人(3)行方不明の人(4)救助されて治療中の人――の四つに分ける。データに基づき食料援助や救助隊派遣の計画をたて、毎日夕方に「不完全統計」として発表するという。同省では5年ごとに省、市から、末端行政区域の郷・鎮だけでなく、地区単位の「村民委員会」「小組」まで、各家族の構成や人数を確認しているという。その統計をもとに、例えば、500人収容の学校と150人が勤務する会社が倒壊した場合、65人の生存が確認できれば「585人が生き埋めになった」と報告する。現場の医師や救助隊が遺体を確認した場合は「死亡」▽学校や会社など人数を把握しやすい建物内にいたと思われる人は「生き埋め」▽そのほかの場所にいたと思われ、実際に連絡が取れない場合は「行方不明」――にそれぞれ数えるという。」(
http://www.asahi.com/international/update/0516/TKY200805150310.html
。5月16日アクセス)
恐るべく高い国内諜報能力です。
ただし、中共当局が中共全土をこれだけの精度で把握しているわけではない可能性もあります。
というのは四川省は、山間部に例のチベット族が居住するだけでなく、後述するように、核物資や核弾頭貯蔵施設が集中している、という特殊事情があるからです。
エ 中共国民が多額の寄付
中共の国営企業、民間企業、個人から争って寄付が行われています。
これは、同情やナショナリズムに加えて中共当局による国民動員のたまものであると見られています。このほか、台湾の政府や企業、中共に拠点を有する国際企業、更には諸外国からも多額の寄付が次々に寄せられています。
うち、中共国民個人からの寄付だけで、3日間で1億9.200万米ドル相当に達しており、かつては政府が一切合切国民の面倒を見ることが当然視されていた国、しかも、まともな慈善団体が存在せず、政府から独立したNGOが存在しない国で、いくら国民動員があったとはいえ、これだけの寄付旋風が巻き起こったのは注目すべきことです。
これは、都市部で中産階級が増えたからこそでしょう。
もっとも、国内で寄付しても、きちんと使われるかどうか懸念を抱く人が多く、中にはわざわざ香港の赤十字等に寄付する人もいるようです。
(以上、
http://www.ft.com/cms/s/0/372b3b82-22a2-11dd-93a9-000077b07658.html、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/05/16/AR2008051600181_pf.html
(どちらも5月16日アクセス)による。)
(2)民の声
ア 序論
支那には、天変地異が起きるとそれは政府のせいだとする古来からの俗信が今でも生き残っているとされていますが、唐山大地震が起こったのは1976年7月28日であったところ、その6週間後の9月2日に毛沢東が死去したこともあり、トウ小平の手で中共が共産主義からファシズムへと大転換した、というか大転換せざるをえなかったことは記憶に新しいところです。
中共当局としては、上記俗信を含むありとあらゆる俗信が、中共における近年の宗教の復興に伴いって力を得つつあることから、今年はオリンピックを控えていることもあり、今回の大震災にあたって、国民の怒りが当局に向けられないように、あらゆる対策を講じる必要があり、上述したような、情報公開、援助要員の受け入れ、寄付工作等を推進していると考えられます。
(以上、
http://newsweek.washingtonpost.com/postglobal/pomfretschina/2008/05/the_earthquakes_chinese_meanin.html
(5月14日アクセス)による。)
(続く)
ミャンマーと中共の大災害(その2)
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