太田述正コラム#2559(2008.5.20)
<米国経済の憂うべき現状(その2)>(2008.6.24公開)
米国のエネルギー政策の失敗、というよりエネルギー政策の不在、はやがて訪れる石油生産のピーク・・米国内の石油生産は1971年にピークに達した(太田)・・を前にして米国を脆弱にし(注1)、世界の石油経済によって支えられているところの米ドルの一層の弱体化をもたらした。
米国は、石油の輸入に毎年2,000億ドル費やしているが、石油問題を解決をするという目的もあったイラクでの愚行(注2)のせいで、過去5年間に石油価格は5倍(バーレル26米ドルから5月12日現在126米ドル(太田))に値上がりし、米国はもはや石油をコントロールする基盤を失うに至っている。
(注1)1973年には米国は石油の33%を輸入していたが、現在では60%になっており、2020年までには70%に達する可能性がある。また、米国の交通システムはほぼ完全に石油に依存している。(太田)(
http://www.ft.com/cms/s/0/9dda5012-203a-11dd-80b4-000077b07658.html
。5月13日アクセス)
(注2)米国が対イラク戦を起こした目的の一つに石油の確保があったというと陰謀論だと切り捨てられたものだが、最近、グリーンスパンが、更にマケインまでがそう示唆し始めた。(太田)(同上)
世界の石油埋蔵量の五分の四は13カ国の国営会社によってコントロールされているが、彼らの間での米国の存在感は急速に薄れつつある。
弱体化するばかりのドルに石油価格をペッグさせることを止め、彼らはユーロや諸通貨バスケットへのペッグに切り替えるかもしれないし、彼らの国の国家ファンドに米国内の資産の購入を止めるように促すかもしれない。
近い将来、恐らくは今年中に、原油価格はバーレル150ないし200米ドルに達することだろう。
ここで、もう一度米国における債務の増加問題に戻ろう。
2001年から2007年にかけてだけで、国内金融債務は8兆5,000億ドルから14兆5,000億ドルに増加し、住宅抵当債務は4兆9,000億ドルから10兆ドル近くまで102%も増えた。
昨年8月に住宅抵当債務危機が起こったことはご承知の通りだ。
住宅抵当債務が膨らんだのは、もともと私的債務が増えてきていたところへ、9.11同時多発テロの後、ブッシュ大統領が債務を負うことを「奨励」し、連邦準備制度理事会議長のグリーンスパン(Alan Greenspan)が利子率を下げ、更に、債務格付け機関が軒並み疑わしいローンに安全のお墨付きを与えたからだ。
ブッシュ時代の経済成長の約40%は金融界における証券化と不動産バブルによるものだが、住宅抵当債務問題は、住宅価格の15~20%の下落を引き起こし、米国に不況をもたらしつつあるように見える。
経済が農業、工業、運輸業よりも金融業中心になって空洞化してしばらくして、スペインは17世紀に、オランダは18世紀に、英国は20世紀初頭に衰亡し始めた。
米国もまたその轍を踏みつつある。
上述したことを直視しているように見えるのは、現在の大統領候補の中ではオバマだけだ。
4 終わりに
米国がどんなに所得格差の大きい国になってしまったかは、以前にも(コラム#2052で)申し上げたところです。
その結果、米国はその伝統的な根本的価値観が崩れつつあります。
大多数の人々は誰でも金持ちになれるという米国の夢を信じなくなりつつある一方で、金持ちは罪の意識に苛まれているのです。
現在の米国の大富豪達の大部分は大衆の目を恐れて、切り離された場所でひっそりと生きており、そうしないビル・ゲーツやウォーレン・バフェット等の大富豪は、社会の余りの不公正さに批判の声を挙げ始めています。
また、この二人のように、慈善事業に多額の寄付をする大富豪は例外であるだけでなく、寄付をする場合、脚光を浴びることを好んだり、寄付にヒモを付けたりする大富豪が多くなっているのです。
(以上、
http://www.guardian.co.uk/world/2008/apr/20/usa.subprimecrisis
(4月20日アクセス)による。)
米国の所得格差の拡大は、とんでもない現象を引き起こしています。
米国人の平均寿命は1933年の61年が2005年には78年まで延びました。
しかし、1983年から1999年にかけて、深南部、ミシシッピ川流域、アパラチャ地域、プレイン南部、そしてテキサス州の多くの郡で、特に女性の平均寿命が縮んだのです。
すなわち、米国の全3,141郡のうち180郡で女性、11郡で男性の平均寿命が縮んだのです。これ以外にも、統計的に意味のないレベルではありますが、783郡で女性、48郡で男性の平均寿命が縮みました。
こんなトンデモ現象は、他の先進諸国では見られないのであって、米国の異常な所得格差の拡大が原因であると考えられているのです。
(以上、
http://www.nytimes.com/2008/04/27/weekinreview/27sack.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print
(4月27日アクセス)による。)
現在の米国は、社会崩壊と急速な衰亡のとば口に立っています。
しっかり目を見開いて米国を見つめましょう。
そしてオバマ候補に声援を送りましょう。
(完)
米国経済の憂うべき現状(その2)
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