太田述正コラム#2565(2008.5.23)
<ミヤンマーに人道的介入?(続々)(その1)>(2008.6.27公開)
1 始めに
サイクロン大災害に見舞われたミャンマーへの人道的介入問題がその後どうなっているのか、ご報告しましょう。
2 その後の人道的介入論議
(1)ASEANに対する批判
ASEAN諸国が行っている、ミャンマーに対する建設的関与(constructive engagement)なるものは、近隣国の大災害につけ込んで火事場泥棒的に投資を行い、天然資源をせしめるためのイチジクの葉っぱであり、例えば19日、タイはミャンマーと、被災地域から遠く離れた場所に港湾を造りパイプラインをひく取引に合意した、と米クリスチャンサイエンスモニターは論説で、ミャンマー近隣のアジア諸国を批判しています(
http://www.csmonitor.com/2008/0520/p01s19-woap.html
。5月20日アクセス)。
(2)ミャンマー軍政当局の望み通りの進行?
米タイム誌の記者は、ある英国人記者と自分が、今次大災害を勝手に報道したとして国外追放処分をくらったところ、自分達が昨年9月に僧侶等のデモの弾圧を報道した時にはセーフだったとし、軍政当局は、今次大災害について報道される方が、デモの弾圧について報道されるよりはるかに好ましくないと考えているに違いないと指摘しています(
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1807994,00.html
。5月21日アクセス)。
英ガーディアンのコラムニストのジェンキンス(Simon Jenkins)は、「<ミャンマー>当局にとっては、報道されることと、それによって援助が入ってくるであろうことの方がハリケーンそのものよりも大きな災厄なのだ。」と指摘した上で、「世界とそのメディアは、<ミャンマーや中共の>独裁者のゲームに乗っかってしまっている。彼らは中共当局が欲する通りのこと、ミャンマー当局が欲する通りのことをやってしまっている。彼らは、四川省の倒壊した学校の生徒達の話を不必要に過剰に報じる一方で、200万人のミャンマー人の話を無視しているのだ。・・・現代における外交政策の真実は、それが人道的必要性に応えるのではなく、イラクにおいてそうであったように、国内政治と国家安全保障に関する幾ばくかの歪んだ認識に応えるというところにある。人道主義は、大惨禍が居間にいる人々にメディアを通じて届けられて不快感を呼び起こした限りにおいて一定の役割を果たすだけなのだ。・・・われわれは中共で人命を救うことはできないけれどミャンマーではできる。ところが、人道的熱意を呼び起こすところの報道をミャンマー当局が成功裏に封殺したため、われわれは人命救助をしないことを選んだのだ。」と嘆くのです(
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/may/21/naturaldisasters.cyclonenargis
。5月21日アクセス)。
(3)一定の効果をあげた対軍政当局威嚇戦術
クリスチャンサイエンスモニターは、もう一つの論説で、欧州の指導者達は、ミャンマー軍政当局のサイクロン大災害に際しての援助受け入れに対する頑なな態度は、人道に対する罪を構成するとの非難を繰り返し、ミャンマーに対する人道的介入をちらつかせたのは、軍政当局に人命救助を促すための戦術であったことを明かした、と記しました。
すなわち、フランスのクシュネール外相がまず先鞭を切って「人道に対する罪」に言及し、後には、国連安保理が何も行おうとしないことを臆病者呼ばわりし、やがて英国のブラウン首相が、軍政当局の対応ぶりは非人道的であると述べ、スペインやフィンランドの閣僚達が「人道に対する罪」に言及し、EUのソラナ「外相」が、「ことが進展しないようなら、国連憲章は援助物資搬入目的で必要な何らかの措置をとることを認めている」と述べたのは高等戦術だったのだというのです。
そして、この脅しが功を奏し、軍政当局は、最近ついにその態度を軟化させ、近隣諸国から拠り多くの人道的支援を受け入れることに同意し、国連事務総長も22日からミャンマー訪問することになったというのです。
(以上、
http://www.csmonitor.com/2008/0521/p07s02-woeu.html
(5月21日アクセス)による。)
(4)ミャンマーへの人道的介入の可否
ではそもそも、ミャンマーへの人道的介入の実行可能性はあったのでしょうか。また、依然ミャンマーに人道的介入が行われる可能性はあるのでしょうか。
アナン(Kofi Annan)国連事務総長(当時)の呼びかけに応え、カナダ政府は、2000年9月に人道的介入に関する国際委員会(The independent International Commission on Intervention and State Sovereignty)を設立し、一年後、報告書’The Responsibility to Protect(R2P)’をとりまとめ、同事務総長に提出しました。
この報告書は、人道的介入が許されるための6つの条件を提示しています。
合理的理由(just cause)、正当な意図(right intention)、他に手段がないこと(last resort)、比例的措置(proportional means)、合理的展望(reasonable prospects)、正当な根拠(right authority)、です。
英ガーディアンのコラムニストでもあるアッシュ(Timothy Garton Ash)は、米ロサンゼルスタイムス掲載コラムで、今次ミャンマーに関しては、このうち、正当な根拠、他に手段がないこと、合理的展望、の三つの条件をクリアすることは容易ではない、と指摘します。
その上でアッシュは次のように続けます。
今回、国連安保理決議は得られないので、コソボの時のような「非合法だが正統的な(illegal but legitimate)」人道的介入の可能性しか残されていないことになるが、コソボの場合は大部分の近隣諸国ないし世界の民主主義諸国の支持があったところ、今回は世界最大の民主主義国家であるところの隣接するインドからして人道的介入を支持していない。
(続く)
ミヤンマーに人道的介入?(続々)(その1)
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