太田述正コラム#2662(2008.7.12)
<北朝鮮での韓国人銃撃事件>
1 始めに
 北朝鮮での韓国人観光客殺害事件について、国内の主要新聞の電子版は、東京新聞を除いてベタ記事扱いです(1400現在)。
http://www.asahi.com/international/update/0712/TKY200807120111.html
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080712/crm0807121231007-n1.htm
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2008071202000114.html
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2008071202000122.html
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008071201000337.html
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20080712AT2M1201112072008.html
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20080711-OYT1T00520.htm
(いずれも7月12日アクセス。以下同じ)
 朝鮮日報日本語電子版により、この事件をまとめておきましょう。
 (以下、特に断っていない限り、
http://www.chosunonline.com/article/20080712000026
http://www.chosunonline.com/article/20080712000015
http://www.chosunonline.com/article/20080712000015
http://www.chosunonline.com/article/20080712000016
http://www.chosunonline.com/article/20080712000018
http://www.chosunonline.com/article/20080712000024
http://www.chosunonline.com/article/20080712000019
http://www.chosunonline.com/article/20080712000022
http://www.chosunonline.com/article/20080712000023
http://www.chosunonline.com/article/20080712000010
http://www.chosunonline.com/article/20080712000021
による。)
2 事件のまとめ
 11日早朝4時30分。まだ完全に夜も明けていない時間帯。金剛山観光にやって来た主婦のパク・ワンジャさん(53)が観光特区内にある金剛山ビーチホテルの入口を出る様子がホテルの監視カメラに映っていた。知人3人と共に2泊3日の日程で金剛山観光にやって来たパクさんは、前日10日には内金 剛を観光し、この日はソウルに戻る予定だった。
 現代峨山の説明によると、パクさんは1キロほど歩いて全長1.6キロほどの海水浴場に到着し、その後海水浴場の東から西に設置された高さ2メート ルの鉄製フェンスがある地点に到達したものと推定される。このフェンスは観光客がそこから先に行けないようにするためのものだというが、立入り禁止の表示 はなく、フェンスを監視する北朝鮮兵もいなかったと現代峨山は説明した。ある関係者は「フェンスは砂浜の終端部に設置されている上に、当時は引き潮の時間帯だったことから、パクさんは何の疑問も持たず立入り禁止区域に入ったのだろう」と語った。
 パクさんの写真は
http://www.chosunonline.com/article/20080712000010
 フェンスを通り過ぎたパクさんは、海水浴場の北側にあるキーセン岩の地点まで1.2キロほどさらに進入してきた、と北朝鮮側は主張している。午前5時を少し過ぎたころ、突然パクさんの前方にある軍の監視所から「止まれ」という命令が聞こえ、続いて銃声が鳴り響いた。北朝鮮兵が威嚇射撃を行ったのだ。パクさんは命令に従わず、反対方向に向かって走り始めた、と北朝鮮側は主張する。その後パクさんの背後から銃撃が浴びせられ、その中の2発が背中と尻を貫通したことからパクさんは砂浜に倒れ込んだようだ。
 パクさんの遺体が発見された場所は海水浴場から200メートル ほど離れた場所だ。およそ1キロも走って海水浴場を目前にした場所で死亡したことになる。北朝鮮兵は逃亡するパクさんを追跡し、照準を合わせて銃撃を行った可能性が高いというのが専門家の分析だ。現代峨山の関係者も「距離を考えると、監視場所から銃撃を行ったのではなく、逃走するパクさんを追跡しながら照 準を合わせて銃撃を行ったようだ」と語った。
 しかし北朝鮮が説明した事件発生時間である午前5時ごろが正確かどうかは分からない。パクさんがホテルを出た時刻が4時30分で、北朝鮮が主張す る事件発生時刻は5時。わずか30分でパクさんが3.8キロも歩き、再び1キロも走って戻ってきたとすれば、女性の足としてはあまりにも早過ぎる。ソウル大学体育教育学科の金善進(キム・ソンジン)教授は「時速8キロなら一般人が運動前のウォームアップのために軽くジョギングを行う速度。早朝に目覚めたば かりの50代女性が、このスピードで砂浜を通過したとは考えられない」と述べた。
 現場の略図は
http://www.chosunonline.com/article/20080712000011
 パクさんが通り過ぎたとみられる統制区域のフェンスにも、「ここからは統制区域であ るため、立ち入ってはならない」という立て看板はなかったことが、現代峨山側によって確認された。金剛山観光地区の範囲があまりにも広いため、統制区域と の境界線上に立て看板を立てるのも容易ではない、と説明しているが、事件が起こった海岸のように観光客が容易に近付ける場所には表示板があってしかるべき だ、と専門家たちは指摘している。
 事件が起こった金剛山海水浴場は、事件発生前日の10日にオープンしたことが分かった。
 パク・ワンジャさんが死亡後、内部の過程を経て北朝鮮が現代峨山に通知するのに4時間20分かかったのだ。韓国国家安保戦略研究所のイ・ギドン責 任研究委員は「北朝鮮の金剛山担当者たちは自分たちだけで処理できず、ホットラインで平壌に報告、平壌の当局が検討し、指示するのにそれくらいの時間がかかったのだろう」と話す。高麗大学の南成旭(ナム・ソンウク)教授は「こうした事案なら、100%金正日(キム・ジョンイル)総書記のサインをもらってい るだろう」と推測している。
  金剛山特区内で韓国人女性観光客が北朝鮮の警備兵に銃撃され死亡するという事件が発生したにもかかわらず、金剛山観光ツアーを運営する現代峨山は11日、 いつもと同じようにツアーを実施し、「観光客の安全を無視している」という批判が巻き起こっている。さらに、銃撃事件の発生が明らかになったこの日午後、 金剛山へ向かった観光客に対し、銃撃事件が発生したことを知らせていなかったことも分かった。
 現代峨山は観光客が銃撃を受けた事実を北朝鮮から午前9時20分に知らされたが、統一部に報告したのは同11時半だったという。緊急事案を大統領府に報告し、大統領に伝わるまで2時間以上かかった。企業が商売に血眼になる余り何も目に入らず、政府も事態の判断能力自体が停止状態だったと言っても過言ではなかろう。
 ク・ワンジャさんが銃撃され死亡したという話は、韓国政府が発表する1時間前の午後3時ごろ、メディアの知るところとなった。パク・ワンジャさんの死体を安置した江原道の束草病院から通報を受けた同道高城警察署を通じ、明らかになったのだ。
 統一部の金浩年(キム・ホニョン)報道官はこの日午後4時に会見を開き、「金剛山観光に出かけたソウル市蘆原区のパク・ワンジャさん(53)が 11日早朝4時30分ごろ、宿泊先のビーチホテルを出て海水浴場周辺を散歩していたところ、午前5時ごろチャンジョン港の北朝鮮側区域内にあるキーセン岩 と海水浴場の中間地点で北朝鮮の哨兵から銃撃を受けて死亡した」と発表した。
 李明博(イ・ミョンバク)大統領が11日、金剛山で50代女性観光客が銃撃を受けて死亡した事実について報告を受けながらも、北朝鮮に対して全面的な対話を提案するという内容の国会演説を強行したことが問題となっている。何よりもまず国民の生命と安全を守るべき大統領が、国民が銃撃を受けて死亡したその日に、それも事件の真相も究明されていない状態で、このような内容の演説を行うのは問題だということだ。
 事件の原因についてしっかり検証すべき点が幾つかある。
 まずは、北朝鮮の哨兵がどれくらいの距離から銃を撃ったのか、ということ。パクさんを最初に検死したソウル束草病院はこの日、「パクさんは、胸部と臀部(でんぶ)に各1発ずつ、計2発の銃弾を受けていた。直接の死因は、銃弾が背中から右胸にかけて貫通し肺に血が溜まったことによる呼吸困難」と発表した。北朝鮮軍は、有効射程距離300メートル前後のAK‐47「アー カー歩銃」を使用している。また同日北朝鮮側が行った韓国側への通報には、「パクさんが哨兵の停止要求にも関わらず逃走し…」という内容がある。総合する と、北朝鮮の哨兵は、人の声が聞こえる近距離から銃を撃った、という結論に至る。調査結果によっては、「故意」もしくは「過剰」の如何をめぐり大きな批判が起きる可能性がある部分だ。
 また、当時の時間帯や周辺に観光地があるという点などを考慮すると、北朝鮮側の哨兵は「無断侵入者」を韓国の観光客と認識できた、という指摘もある。
 政府の発表によれば、事件が起きた時刻は(11日)午前5時ごろ。江原道地域の軍関係者は、「この日、東海岸地域の日の出時刻は午前5時12分 だった」と語る。だとすると、午前5時ごろには、かなり遠くからでも人の輪郭はもちろん、男性なのか女性なのかを識別することができる。軍関係者は、「日の出の40分くらい前の時刻をBMNT(beginning morining nautical twilight、第2黎明時刻・航海薄明開始時刻)と呼ぶが、この時、太陽はまだ水平線の下にあるものの日は照っており、人の輪郭は認識できる」と語った。加えて当日の月光(旧暦6月9日)はかなり明るく、海水浴場周辺だったことを考えると、人の姿がはっきり見えたはずだ。
 パクさんが哨兵の要求を無視して逃げ出したというが、民間人に向け銃を撃つ行為はひどいのではないか、という点も取り上げるべき部分だ。ある軍の 専門家は、「韓国軍であれば、軍事地域に進入し逃走する民間人に発砲しなかったはずだ。
3 感想
 韓国世論の動向いかんによっては、南北関係は決定的に悪化する可能性があります。
 そうなれば、金正日は一層窮地に立つことになるでしょう。
 それにしても、李明博大統領も頼りない限りですね。
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太田述正コラム#2663(2008.7.12)
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