太田述正コラム#2692(2008.7.27)
<皆さんとディスカッション(続x204)>
<大阪の川にゃ>
–韓国は属国に先んじて核武装するか?–
1、あんまり暑いので、エアコンのきいた部屋で暇つぶしにブログタイトルを考えました。
「政権交代で天下り廃止を。核武装議論で属国から独立国へ」
「現代の石原莞爾。元防衛庁局長の国富論と近現代史論」
「非核の日本は米国の属国ですよ、知らなかったの?」
「天下りを拒否した極貧の元防衛庁高官が説く日本の自立。」
2、イラクでの「友好」の記念写真です。左右の自衛隊員と真ん中の韓国軍兵士です。
韓国軍兵士の掲げる字幕「独島は大韓民国の領土である。」
(写真は、太田述正掲示板No.1204参照)
<VincentVega>
>「天下りを拒否した極貧の元防衛庁高官が説く日本の自立。」
天下りをしていない点のアピールは一般に好感度高そうで良いですね。
それにしても、自衛隊員は砂漠の任務なのに緑色のウッドランド迷彩服を着ているのはなんででしょうかね。
<海驢>
MS様、ご質問ありがとうございます。以下、当方の愚見です。
≫もしこの分野でイデオロギー的でない書籍をご存知でしたら教えてください。≪(コラム#2690。MS)
これは、わりと難しいご質問です。
当方の認識では、我が国の文献は戦前・戦中までかなり実証的であったと思われますが、戦後の反動・左傾化で総懺悔あるいは先人糾弾の坩堝となってしまい、そうでないものは全て右傾化しているように見えるため、判断が難しいです。
一方、韓国側の文献は、反日のカタマリか、そうでなければ母国の偏向ぶりを徹底的に批判するものとなっていて、振幅が大きすぎるように思います。
というわけで、イデオロギー的でない書籍としてはイマイチ思い当たらないのですが、なるべく実証的なものの中から、日本に批判的なものと好意的なものの両方を選択してみる、というのが消極的ながら対策になるかと思います。
■日本に好意的なもの
「歴史再検証 日韓併合」崔基鎬著 祥伝社黄金文庫 平成19年刊(安価で、それなりにデータも出典付きで入っています)
>また、訳者である保坂さんの考えが著者と同じかどうかは自明ではないですよ。
これは仰るとおりです。
が、翻訳本の宿命として、どうしても訳者の解釈の影響を受けてしまいますよね・・・。
>私自身がとりあえずこの本に書かれている『数字を見て』思ったことは、
>
> 1. 植民統治化における朝鮮民族は、不平等感を抱いていたと思われる。
これはある意味仕方のないことだと思います。たとえ完全に平等であっても、受け取る側がどう感じるかですので。
異なる歴史・文化を持つ国同士が融合するには、30数年は短すぎると思われます。
>2. 植民統治化の遺産は大部分が引き継がれなかった。
この点は、日本の敗戦・無力化に乗じて反体制派が反日イデオロギーをもって権力を握ったこと、最も工業化が進んでいた朝鮮半島北部を共産主義者が握ったこと、また、内戦によって徹底的な破壊と殺戮が行われたことが要因であって、日本の責に帰するのは筋違いかと思います(韓国では、「朝鮮戦争は日本のせいで起こった」などということが普通に言われているところがまた恐ろしいところですが・・・)。
>日本統治が制度上民族の間で差別をしていたという直接的な証拠としての資料は、私の目には発見できませんでした。
ご紹介した書籍に、待遇面における極端な差別の例も載っています。
※以下、引用
(前掲書 p.158)朝鮮総督府は、1910年の併合以来、日本の優秀な公職員を招聘する方法として、「出向手当」という制度を設け、その平均は、棒給額の60%から120%にのぼった。
(同 p.160)またこの制度は、日本人の場合、その子も孫も出向手当の特恵があったのにひきかえ、たとえ朝鮮人が日本内地の小・中・師範、大学を卒業して朝鮮に赴任し、同じ公職に就いても出向手当が出なかった。
>最終的な判断は読み手にゆだねられているわけですから。
>要はデータとそれに典拠がついているかどうかです。
まさにそのとおりです。だからこそ、読み手に見識と判断力が求められる所以でもあります。
仮に、10件のデータを総合的に判断して初めて答えが導ける事象があったとき、敢えてそのうち5件のみを提示してそれに基づく結論が下されていたら・・・。
10件のデータが存在することを知っていれば、結論が間違っていることを判断できますが、知らなければ受け入れてしまうかもしれません。
また、ちょっと前まで、総理府の意識調査で「8割が中流」なんて結果が報道されていたりしましたが、そのカラクリは、意識調査(アンケート)の回答選択肢にありました。
選択肢は(1.上 2.中の上 3.中の中 4.中の下 5.下)となっていて、中流に回答が集中しやすいようになっていました(今は、それでも8割が「中の下」以下と回答しているようですが)。
このようなことがあるので、データを判断するにも慎重さが必要なのだと思っております。
<MS>
海驢様、ご回答くださり、ありがとうございます。
>>もしこの分野でイデオロギー的でない書籍をご存知でしたら教えてください。
>これは、わりと難しいご質問です。
>当方の認識では、我が国の文献は戦前・戦中までかなり実証的であったと思われます… (中略 by MS)…
>一方、韓国側の文献は、反日のカタマリか、そうでなければ母国の偏向ぶりを徹底的に批判するものとなっていて、振幅が大きすぎるように思います。
そうですか。第三国の研究者の書いた文献をあたるのもいいかもしれませんね。
以下のCDに西側の言語で書かれた文献の目録が大量に収録されているようです。
—————————————————————————-
http://www.amazon.co.jp/Harvard-Korean-Studies-Bibliography-References/dp/0674002393
The Harvard Korea Studies Bibliography : 80,000 References on Korea (CD)
(Harvard Univ. Pr. ISBN-10 067400 2393, ISBN-13 978-0674002395)
—————————————————————————-
>というわけで、イデオロギー的でない書籍としてはイマイチ思い当たらないのですが、なるべく実証的なものの中から、日本に批判的なものと好意的なものの両方を選択してみる、というのが消極的ながら対策になるかと思います。
>■日本に好意的なもの
>「歴史再検証 日韓併合」崔基鎬著 祥伝社黄金文庫 平成19年刊
>(安価で、それなりにデータも出典付きで入っています)
ご紹介くださり、ありがとうございます。今度チェックしてみます。
>>また、訳者である保坂さんの考えが著者と同じかどうかは自明ではないですよ。
>これは仰るとおりです。
>が、翻訳本の宿命として、どうしても訳者の解釈の影響を受けてしまいますよね・・・。
さすがに学者が勝手に原文の意味を変えると思えません。
そんなことをしたら追放されますよ。
>>1. 植民統治化における朝鮮民族は、不平等感を抱いていたと思われる。 (MS)
>これはある意味仕方のないことだと思います。たとえ完全に平等であっても、受け取る側がどう感じるかですので。
>異なる歴史・文化を持つ国同士が融合するには、30数年は短すぎると思われます。
これに関しては、歴史・文化とともに、合併前の民族間の経済、教育格差が融合の大きな障害になったのではないかと想像しています。
経済格差に関しては、「植民地朝鮮…」では、1910年から1960年における『朝鮮と韓国の一人当たりの国内総生産(GDP)』が載っています。
しかし、残念ながら日本本土における一人当たりGDPとの比較した図が見当たりませんでした。
「歴史再検証…」にはそのような比較をした記述があったら教えてください。
また、教育格差に関する記述もありませんか?
「植民地朝鮮…」の『第四章近代教育と技術の発展』には、
——————————————————
<表4-6> 民族別・学歴別人口 (1944年5月)
不就学率 2.6%(日本人)、97.4%(朝鮮人) (表からの抜粋 by MS)
——————————————————
というデータをもとに民族間教育格差の証拠とされています。
しかし、母集団が朝鮮半島にいる全日本民族、全朝鮮民族となっており、植民統治前に生まれた人や教育制度の拡充に時間がかかることを考えると、著しくバイアスのかかったデータの見せ方といわざるを得ません。
依然拡充の途中であったことは、同章<図4-1>普通学校と書堂の朝鮮人在生徒数(グラフ)から読み取りました。
というわけで、民族間教育格差に関する問題点についても私の持っている本ではいまいちよく分からないところです。もしいい資料がありましたら教えていただけるとありがたいです。
教育格差は経済格差に結びつくため、この辺は朝鮮民族が当時もっていた不満を考える上で非常に重要だと思います。
「植民地朝鮮…」でも、統計分析に基づいて、
『したがって朝鮮人の場合は学歴が等しくても、平均2.25年間(-0.081/0.036)の経歴を日本人より長く積めば民族差から発生する昇進上の差別を払拭することができ、0.47年間(-0.081/0.174)の高等技術教育をさらに受ければ民族差から発生する昇進確立上の不利益を克服することができた。まさにこの点で当時の朝鮮は学歴主体の社会であったと考えてもよいだろう。』
と述べられています。
>>2. 植民統治化の遺産は大部分が引き継がれなかった。(MS)
>この点は、
>一、日本の敗戦・無力化に乗じて反体制派が反日イデオロギーをもって権力を
> 握ったこと、
>二、最も工業化が進んでいた朝鮮半島北部を共産主義者が握ったこと、
>三、内戦によって徹底的な破壊と殺戮が行われたことが要因であって、
>日本の責に帰するのは筋違いかと思います
「植民地朝鮮…」では、二と三の記述はありましたが、一のかわりに、四、軍需経済崩壊による工場の操業率の著しい低下が挙げられていました。
一がどのように、遺産の断絶につながったか教えていただけるとありがたいです。
>(韓国では、「朝鮮戦争は日本のせいで起こった」などということが普通に言われているところがまた恐ろしいところですが・・・)。
普通(一般的の意?)かどうか、は議論の余地があるのではないでしょうか?
典拠をおしえてください。
>>日本統治が制度上民族の間で差別をしていたという直接的な証拠としての資料は、私の目には発見できませんでした。 (MS)
>ご紹介した書籍に、待遇面における極端な差別の例も載っています。
>
>※以下、引用
>(前掲書 p.158)朝鮮総督府は、1910年の併合以来、日本の優秀な公職員を招聘する方法として、「出向手当」という制度を設け、その平均は、棒給額の60%から120%にのぼった。
ありがとうございます。ご指摘の内容は「植民地朝鮮…」にも一部のっていました。
ただし、『60%から120%』という数字ではなく、職級に応じて40%ないし60%とのことでした。
しかも、
>(同 p.160)またこの制度は、日本人の場合、その子も孫も出向手当の特恵があったのにひきかえ、たとえ朝鮮人が日本内地の小・中・師範、大学を卒業して朝鮮に赴任し、同じ公職に就いても出向手当が出なかった。
の記述はありませんでしたので、『歴史再検証 日韓併合』のほうが日本に対して手厳しい感じがします。
ご紹介の本の著者のほうが、より公平なのかもしれません。
>>最終的な判断は読み手にゆだねられているわけですから。
>>要はデータとそれに典拠がついているかどうかです。
>まさにそのとおりです。だからこそ、読み手に見識と判断力が求められる所以でもあります。
>仮に、10件のデータを総合的に判断して初めて答えが導ける事象があったとき、敢えてそのうち5件のみを提示してそれに基づく結論が下されていたら・・・。
>10件のデータが存在することを知っていれば、結論が間違っていることを判断できますが、知らなければ受け入れてしまうかもしれません。
>また、ちょっと前まで、総理府の意識調査で「8割が中流」なんて結果が報道されていたりしましたが、そのカラクリは、意識調査(アンケート)の回答選択肢にありました。
>選択肢は(1.上 2.中の上 3.中の中 4.中の下 5.下)となっていて、中流に回答が集> 中しやすいようになっていました(今は、それでも8割が「中の下」以下と回答しているようですが)。
>このようなことがあるので、データを判断するにも慎重さが必要なのだと思っております。
同意。
<太田>
海驢さん、MSさん、大変勉強になりました。
MSさん、本件についてでなくても結構なのですが、コラムお書きになりませんか。
既に、パワーポイント作成も担当していただいておりますので、コラムによるご貢献は、カンパ扱いにさせていただきますが・・。
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太田述正コラム#2693(2008.7.27)
<FTによる五輪後の中共の展望(その2)>
→非公開
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