太田述正コラム#2708(2008.8.4)
<皆さんとディスカッション(続x211)>
<安保>
 移民導入政策には絶対反対だ。
3日付の産経新聞朝刊の記事(
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080803-00000036-san-int&kz=int
)です。
 旧東欧諸国が欧州連合(EU)に加盟してから、ルーマニアからの労働者を筆頭に多数の外国人労働者がイタリアに押し寄せ、ついに正規登録の外国人居住者は369万人に達した。これはイタリア全人口の6.2%に相当する。
 このほか、不定期労働者として働く不法入国外国人が70万人以上に上る。こうした増加に伴って外国人が起こす犯罪件数も急増し、銀行強盗の6%、市民の財産を脅かす窃盗・強盗の51%、スリ・ひったくりの70%が外国人による犯罪だ。
 ベルルスコーニ内閣は、選挙公約の一つ「治安強化」の手始めとして、これまで野放しにされていた住所不定の流民の実態調査のため「指紋採取」を始めることにした。だが、早速EU当局をはじめ人権擁護団体から「人権侵害、人種差別だ」と反対の声が上がった。
 この結果、イタリア政府は外国人と自国民との差別をなくすため、急遽2010年から全国民のパスポートに指紋登録を義務づけることを決定した。・・・
(以上、引用終わり。)
 私は日本国に住む全ての日本人、及び在日外国人、日本に入国する全ての人に10指の指紋押捺することを義務付けることに大賛成です。
<太田>
 イタリアはマフィアに牛耳られた国家と言っても決して大げさではありません(コラム#2560)。
 そんな国が外国人による犯罪を云々するなどブラックユーモアに近い話ですねえ。
 ただし、DNA登録の全国民への義務化となると、躊躇するけれど、指紋押捺の全国民への義務化程度なら、私は必ずしも反対ではありませんが・・。
 
<安保さんに同意する一読者>
≫一、太田さんご自身の隣近所が、韓国朝鮮人移民、中国人移民、アフリカ系移民、イスラム系移民の集団居住区になっても素直にそれを受けれることができますか?太田さん本人はさておき、ご家族の心境は如何なものだと思いますか?その他の日本人の心境を太田さんは想像してどう思われますか?≪(コラム#2702)
 という安保さんのこの質問は遠回り過ぎます。
 太田さん自身がおっしゃっていますが、単純労働者の移民は、いいとこ取りできないから仕方なく受け入れられるのです。
 移民受け入れの悪い面が、単純労働者の受け入れです。なぜ悪いところなのかといえば、欧米で起きているように治安悪化などを招くからでしょうね?
 だから質問は、太田さんが欧米にあるようなスラムに暮らすことになっても、素直に受け入れられますか?という質問であるべきではないでしょうか。
 エリートの多国籍集団と、単純労働者の多国籍集団とは、違います。
 秩序と無秩序の違いです。
 日本人でもかまいません。そもそも単純労働者の暮らしをどのくらいご存知なのでしょう?「学がない」ことがどういうことか、想像もつかないのではありませんか?
<naka> 投
もうすぐ世界恐慌になって、欧米エリート社会(特にフランス)は崩壊するでしょう。
 下層階級を3Kなどと呼んで馬鹿にすることもなくなるし、ダボス会議はダボ(関西弁で小物)会議と呼ばれる事になるでしょう。
 日本の大衆社会がグローバルスタンダードになる新しい時代の変革が訪れる。
 移民議論はそこで終焉を迎える。
 今はこの大切な日本の大衆社会を守っていかねばなりません。
 長くは待たせません、5年もあれば結論が出ます。
 それまでは、移民について結論を出すべきではないと思います。
<安保さんに同意する一読者>
単純労働者の移民に対して、「いいとこ取りできないから受け入れる」という太田さんの主張は、人の道に外れていると思います。
 いやいやながらに受け入れられる移民です。歓迎されない人たち、「避けられない社会的コスト」などと表現される人たちを、政策によって人為的に生み出すことは、非人道的です。
 他人をそのような扱いにすることで、どんな厄災を生み出すか、もう目に見えて欧米が結果を出しています。日本だけが違う結果を出せるという保障はどこにもありません。
 欧米にみるような厄災を子孫に遺さないようベストを尽くすべきではないですか。
 結果がわかっているのに、エントロピーがなんだとかいって手をこまねいて、というか「どんどん来い!」というなんて、私にはできません。
 私は中韓の反日がどうとかいうのではなく、人の道に外れているから移民に反対しています。単純労働者の移民は、現代の奴隷貿易です。
 単純労働者の不足については、別の方法を模索するべきです。それこそ頭のいいエリート官僚が、何かいい方法を考え付いてくれないと困ります。
<太田>
 どこをどう読み違えられたかは知りませんが、私は積極的な単純労働者受け入れ論者であり、仕方ないから単純労働者を受け入れろと申し上げているのではありません。
 そもそも、初期のアングロサクソンやスコッチ・アイリッシュ等の多くを除けば、(そして奴隷として連れてこられた黒人を除けば、)次々に英領植民地や後の米国に移民してきた人々の大部分は単純労働者として社会の最底辺を形作り、その後次第に社会の上層部へよじのぼって行ったのです。
 これは、ユダヤ人の場合にすらあてはまることです(コラム#486)。
 なお、忘れてはならないことは、故郷を捨てて新天地に移民してくる人々は、故郷に残った人々に比べて平均的に見て進取の気性に富んでおり、今日の米国を含むアングロサクソン社会の活力は、このような移民を継続的に受け入れてきたことによるところが決定的に大きいのです。
 イタリアを含む欧州諸国は、文明論的理由から、このようなアングロサクソン社会の懐の深さを持ちません。
 そのことが、ナチスドイツによるホロコースト等の惨劇をもたらしたのです。
 排外主義的ヒステリーは、まさに欧州諸国の宿痾と言えるでしょう。
 エントロピー的な移民受入不可避論を所与のものとした上で、日本がアングロサクソンと欧州のどちらに学ぶべきかは明白である、と私は思います。
<MS>
 雅様、李承晩政権下での経済政策の追記です。
 『光復』後から朴政権の開始時までの韓国経済に関する記述を抜粋しました。
『3. 現代の経済成長と資本主義の発達
<8・15光復と新しい経済秩序の形成>
 8・15光復は私たちの手で国家を樹立し、日帝支配の残滓の清算と各種改革の実施および制度整備などを遂行する出発点だった。しかし南北分断と政治混乱で経済的困難はさらに厳しいものとなった。
 光復直後、主に日本資本によって運営されていた多くの企業が原料や技術、資本不足で工場を閉鎖しなければならなかった。さらに米軍制化で物価が高騰し続け、生活必需品の深刻な不足が広がり、経済が苦しくなった。また、北韓の電気供給中断により、韓国の軽工業中心の経済はかなりの打撃を受けた。
 政府樹立以後、農地改革と貴族財産の払い下げが始まり、資本主義経済体制が徐々に定着し始めた。農地改革は土地改革への社会的要求を受け、政府樹立後のうち改革法が制定され、実施された。有償買収、有償分配を原則とした農地改革によって小作制度が廃止され、土地を耕す人が土地を所有する原則が樹立され、日帝強占期以来高い小作率によって苦痛を被っていた農民に希望を与え、近代農業経済発展の基盤を与えた。
 米軍政が接収していた帰属財産を民間に払い下げる政策も推し進められた。これにより、1950年代半ばになると相当数の企業が民間に譲り渡され、個人所有の企業に変わり、産業資本形成に寄与するようになった。
<6・25戦争の被害と援助経済>
 1950年に起きた6・25戦争は韓国経済に深刻な打撃を与えた。道路、鉄道など物流交通施設が破壊され、製造業も生産施設の半分近くが破壊された。戦争中はもちろん、戦後の復興期間にもアメリカは多くの経済援助を提供したが、援助は主に食料品、農業用品、被服、衣料品など消費財と綿紡績、製糖、製粉工業の原料に集中した。
 アメリカの援助物資として食料や生活必需品が大量に供給されることで物資不足が解消され、消費財工業も成長した。しかし小麦や綿花のような農産物が安く入ってきて、当時の農村経済は打撃を受けた。
 1950年代後半にアメリカの経済援助が借款に転換され、援助に依存していた韓国経済は苦汁をなめた。工場の稼働率が落ち、多くの中小企業が倒産し、庶民の生活は困難を極めた。
<経済開発計画の推進と高度成長>
 4・19革命以後、政府は自立経済建設を目標として経済開発5カ年計画を樹立した。しかし本格的な経済成長は、5・16軍事政変以後新しく樹立された第一次(1962~1966)、第二次(1967~1971)経済5ヵ年計画により推し進められた。….』(p.197-199)
そのほか、興味深いデータとしては以下の内容のグラフがありました。
『分断が経済構造の不均衡に及ぼした影響(朝鮮銀行調査部 『朝鮮経済年報』1948)
     北   南 (単位%)
——————————–
重工業  79 21
軽工業 70 30
鉄 0.1 99.9
無煙炭 2.3 97.7
コメ 31 69
綿花 23 77
発電 92 8
——————————–』(p.197)
以上 『』内は、「韓国の高校歴史教科書 高等学校国定国史 三橋広夫訳 明石書店」
よりの抜粋。
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太田述正コラム#2709(2008.8.4)
<中共のスポーツ事情>
→非公開