太田述正コラム#2615(2008.6.17)
<フランスの新防衛政策>(2008.8.11公開)
1 始めに
 英国やフランスは、日本同様の自由民主主義先進国であって、防衛費の大きさもほぼ同じくらいであることから、日本の今後の防衛政策を考えるに当たって、英国やフランスの防衛政策の動向には関心を持ってしかるべきでしょう。
 今回はフランスの新防衛政策をご紹介したいと思います。
2 フランス軍の憂うべき現況
 「・・・戦車“ルクレール”346台のうち、稼働可能な状態にあるのは142台だけで、ヘリコプター“プーマ”のうち飛行可能なのは半数以下であることが分かった。今年4月にはフランス特殊部隊がソマリアの海賊に拉致されたフランスの豪華ヨットを救出し称賛されたが、・・・特殊部隊の隊員を 乗せた護衛艦2隻はエンジンが故障し、海賊を追いかけた対潜哨戒機「アトランティック2」もエンジンの故障でイエメンに緊急着陸していた。2002年には予算不足でフランス軍ヘリコプター戦力の50%、空軍戦力の 40%、海軍戦力の50%<が>運用でき<ない状態に陥った。>・・・」(
http://www.chosunonline.com/article/20080612000054
。6月13日アクセス)
 「・・・フランスは1997年から2015年まで、3段階に分けて国防改革を推進している。第1段階(1997‐2002年)では、まず兵力を削減し、徴兵制の代わりに志願兵制を導入する措置を取った。ところが、新型武器を 導入するための国防予算増額はままならず、新型兵器の導入はもちろん、既にある武器の維持にも困難を来たすようになったのだ。短期間の無理な兵力削減 (50万人→35万人)で歩兵の戦闘力が大きく損なわれ、志願兵制導入による人件費増加のため戦力増強もさらに難しくなった。・・・」(
http://www.chosunonline.com/article/20080612000055
6月13日アクセス)
 フランスは、冷戦終焉後、防衛政策の切り替えに適切性を欠いたために、フランス軍はこのような憂うべき状況に陥ってしまったわけです。
 (朝鮮日報を引用しなければならないことが残念でなりません。日本の主要メディアがいかに防衛問題に関心がないか、お分かりいただけるでしょう。)
3 フランスの新防衛政策
 当然、何とかしなければならない、ということになります。
 こういう背景の下、フランスのサルコジ政権は、以下のような新しい防衛政策を打ち出しました。
 
 まず、在来型の軍事的脅威は隅に押しやられ、疫病、テロ、サイバー戦争、ミサイル攻撃、といった複雑なグローバル化した諸脅威が主役に躍り出ました。
 アフリカ等の旧フランス植民地30数カ国と結んでいる二国間同盟条約は見直しないし廃止され、この種二国間同盟条約に基づく、独裁者等のための怪しげな軍事活動よりもEU諸国やNATO諸国、あるいはアフリカ連合(African Union)諸国との多国間共同作戦が重視されます。
 そして、サルコジ大統領は、NATOの加盟国の増大とNATOのコソボやアフガニスタン等における平和維持活動の実施を踏まえ、就任早々、EU独自の防衛・安全保障政策及び能力の形成と平行してフランスをNATOの統合軍事機構へ復帰させる意向を表明していましたが、それが公式の政策となりました。
 ただし、フランスの核戦力はNATOの統合軍事機構へ供出されず、平時においてすら、フランス軍が外国の将校の指揮下に恒久的に入ることはない、としています。
 また、今後6~7年かけて現在330,000人のフランス軍の総兵力が54,000人削減されます。
 こうしたことによる人件費等の削減によって、2008年現在で300億ユーロ(GDPの2.3%)であるフランスの国防費の総額は物価上昇分を除いて2012年まで据え置かれ、その後2014年まで年率1%ずつ増やされるだけですが、そのうちの装備調達経費は、現在の毎年155億ユーロが2009年から2020年の各年は180億ユーロへと16%以上増額され、スパイ衛星、巡航ミサイル、輸送手段に重点的に費やされることになっています。また、軍の諜報活動は一本化され、諜報経費は倍増されます。
 なお、28億ユーロかかるとされる二隻目の原子力空母を建造するかどうかの決定は2011年まで延ばされ、そのほかの大規模な調達プログラムも延期されたり規模を縮小されたりする可能性があります。
 (以上、
http://www.nytimes.com/2008/06/17/world/europe/17france.html?ref=world&pagewanted=print
http://www.ft.com/cms/s/0/90a29448-3bcb-11dd-9cb2-0000779fd2ac.html  
(どちらも6月17日アクセス)による。)
4 終わりに
 日本は、冷戦終焉後も第二次冷戦以前の骨董品的防衛政策を「堅持」して現在に至っているところ、以上ご紹介したフランスの新しい防衛政策は、私が思い描いている日本のあるべき防衛政策とほぼ同じです。
 もちろん、日本が米国から自立を果たさない限り、そんなものは絵に描いた餅ですが・・。