太田述正コラム#2623(2008.6.21)
<イラン攻撃準備完了のイスラエル(その1)>(2008.8.14公開)
1 始めに
 もう二年も前になりますが、私は、「直接手を下すのがイスラエルか米国かは依然はっきりしないものの、対イラン武力攻撃に向けて、ファイナルカウントダウンが既に始まっている、と言っても良いのではないでしょうか」とコラム#1219(2006.5.7)で指摘した挙げ句、その4ヶ月後には「私自身、イスラエルないし米国によるイラン核施設等への武力行使がいよいよ目前に迫ってきたという認識から、イランが核開発放棄へと舵を切ったのではないか、と見ています。」とコラム#1406で記し、指摘をトーンダウンさせたことがあります。
 (以下、特に断っていない限り
http://www.nytimes.com/2008/06/20/washington/20iran.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print
http://latimesblogs.latimes.com/babylonbeyond/2008/06/iran-neocons-sa.html
http://www.csmonitor.com/2008/0620/p07s04-wome.html
(6月20日アクセス)、及び
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/7465170.stm
http://www.guardian.co.uk/world/2008/jun/21/israel.iran
http://www.nytimes.com/2008/06/21/washington/21diplo.html?_r=1&oref=slogin&ref=world&pagewanted=print
(6月21日アクセス)による。)
2 イラン攻撃準備完了のイスラエル
 (1)背景
 その時もそうだったのですが、問題は、イランの核計画の進捗状況がはっきりしないことです。
 ブッシュ政権自身、昨年の12月にイランが2003年末に核計画を中断していたと公表し、世界を驚かせたくらいです。
 ただし、その公表にあたって、イランがその後核計画が再開されたかどうかはっきりしないこと、イランがウラン濃縮と弾道弾の研究を続けていることが付け加えられていました。
 イスラエルは、イランは核計画を一貫して追求してきていると主張してきました。
 どうやらイスラエルの方が正しかったようです。
 今年5月、IAEAまでもが、イラクの核計画疑惑は深刻な懸念対象であるとし、イラン政府は十分な説明を行わなければならないとしたくらいです。
 (2)イスラエルの大演習
 今月の第一週、イスラエルは3日間にわたって、イラクの核施設(と長距離ミサイル基地)を空爆することを想定した大演習を実施しました。ニューヨークタイムスの6月20日付の米国防省を情報源とするスクープです。
 この記事が出たとたん、石油は値上がりしました。
 この演習は、100機以上の F-16 と F-15 戦闘機が参加し、東地中海とエーゲ海上で行われ、空中給油機や撃墜された戦闘機の操縦士を救出するためのヘリコプターは1,400km (870マイル)以上飛行しました。この距離は、イスラエルからイランのナタンツにあるウラン濃縮プラントまでの距離にほぼ匹敵します。
 この演習は、これまで夏期に毎年実施されてきた類似の演習(ただし、救出訓練を伴わない)よりはるかに大規模に、これ見よがしに行われたことからして、米国やイラン等に、イスラエルの決意を見せつけるところにもあったと考えられています。
 振り返ってみれば、イスラエルの首相のオルメルト(Ehud Olmert)は6月4日にイランが核兵器を取得することを止めさせるために抜本的(drastic)措置が必要だと警告し、副首相であるモファズ(Shaul Mofaz)元国防相は、6月6日、「イランが核兵器開発計画を継続するならば、われわれは攻撃する。・・これは不可避だ。」とまで述べています。
 イスラエルの意思は明確であると言うべきでしょう。
 今週、EU諸国はイランに対して新たな制裁を行うことに合意し、ブッシュ米大統領は、イランがその核計画に対する国際社会の意思に沿わないならば、より深刻な措置・・おそらくは軍事攻撃・・をとることを示唆しました。
 欧米諸国とイスラエルとの足並みが揃った感があります。
 この関連で、19日にイスラエルと(イスラエルが決して交渉することはないと言い続けてきたところの)ハマスとのガザにおける休戦がなったこと、イスラエルが8年ぶりにシリアとの交渉を(トルコを通じて)行っていること、レバノンのヒズボラとの捕虜交換合意が成立寸前であると報じられていること、イスラエルがレバノン政府との直接交渉をよびかけたこと、が注目されます。
 これら異例の動きは、イランの核施設攻撃のための環境を整えているとの見方があるのです。
 以上から、イスラエルのイランの核施設攻撃はいつ決行されても不思議ではない状況であると言うべきでしょう。
 (3)イランの対応
 イランは、以前から核施設への軍事攻撃を受ける可能性を考慮して、対抗措置の整備に余念がありません。
 先日も、バグダッドからテヘランに向かっていたイラクの民間航空便に対し、イラン空軍のF-4がスクランブルをかけたところです。
 また先般、ロシア製の2基の高性能レーダーシステムが最近イランに引き渡され、イランの低空侵入機探知能力が向上しました。
 しかも、ロシア製のSA-20地対空ミサイルの引き渡しも近いとされています。
 また、イスラエルがイランの核施設を爆撃しても、多くの施設は地下深くに設けられており、壊滅させることは困難だと考えられています。それに、すべての核施設をイスラエルが把握していない可能性もあります。しかも、何波も繰り返し爆撃を行う必要があります。
 こういったことから、イランの核施設攻撃はイスラエルの軍事能力を超えているとする見解が少なくないのです。(ここから、SA-20が配備される前にイスラエルは攻撃を決行するのではないかとする見方も一部に出ています。)
(続く)