太田述正コラム#2637(2008.6.28)
<北朝鮮テロ支援国家指定解除へ(続)>(2008.8.19公開)
1 始めに
 北朝鮮テロ支援国家指定解除問題の余震が続いているので、再度取り上げてみましょう。
2 ブッシュの勝利
 前回(コラム#2635で)「オバマは・・・必要があればいつでもテロ支援国家の指定や対敵国通商法の適用を復活させると言っているわけです。・・・他方、北朝鮮の方は、2007年の初期から、ゆっくりとではあっても、寧辺の原子炉の解体を続けてきており・・・これを再組み立てするといっても容易なことではありません。勝負の結果は明かですよね。金正日の敗北です。」と申し上げたところです。
 面白いことに、米タイム誌は、「北朝鮮との交渉でブッシュが勝利(Bush Wins in North Korea Deal)」という記事を掲げました。要するに金正日が敗北したというのですから、私と同じことを言っているわけです。
 この記事は、1994年にクリントン政権が北朝鮮と合意したのは、寧辺の核施設の検証付きの活動停止に過ぎなかったのに対し、ブッシュ政権は同核施設の解体(無能力化)を勝ち取るという成果を挙げたこと、そしてそのことの象徴として、北朝鮮に、27日、同格施設の冷却塔を爆破させ(注1)、同核施設の、まだ解体されていない部分についても、国際モニターの監視の下(注2)で解体することを約束させたことは画期的であると指摘しています(注3)。
 (注1)冷却塔の爆破については、27日時点では、北朝鮮国内で一切報道されていない(
http://www.nytimes.com/2008/06/28/world/asia/28nuke.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print
。6月28日アクセス(以下同じ))。
 (注2)北朝鮮は、81ポンドのプルトニウムを生産したと申告したが、米国は110ポンド生産したのではないかと見ている。この点についても、国際モニターが現地調査を含む検証を行うことに北朝鮮は同意している(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/06/27/AR2008062700542_pf.html)。
 (注3)冷却塔は1ヶ月もあれば再建できるが、残りの寧辺の核施設を再組み立てするには少なくとも18ヶ月かかる(
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-nkorea28-2008jun28,0,1108637,print.story)。
 そして、その見返りとして北朝鮮が得たものは、テロ支援国家指定(注4)解除が主なものですが、北朝鮮は1987年の大韓機爆破事件を最後にテロをやっていない以上、そもそも北朝鮮がこのリストに載せられ続けてきたのは、北朝鮮との核交渉の取引材料としてだけの目的であるとし、指定解除は象徴的な意味しか持たないと同記事は指摘しています。
 (注4)第一次世界大戦の時にできた敵国通商法(Trading With the Enemy Act)による措置。北朝鮮がテロ支援国家指定を解除されることになった結果、リストに残るのはキューバだけになった(
http://www.nytimes.com/2008/06/27/world/asia/27nuke.html?pagewanted=print)。
 もとより、指定解除によって、北朝鮮が世銀等の国際機関からカネを借りようとした時に米国政府がこれに反対する法的義務はなくなるものの、米国は、もし望むなら、これら国際機関が北朝鮮にカネを貸すことに政策的に反対することはできる、というのです。
 (以上、特に断っていない限り
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1818813,00.html
による。)
 しかも、米国企業が北朝鮮で事業を行うことは依然禁止されていますし、これまでの命令に基づいて米国内で凍結されている北朝鮮資産の凍結解除も行われていません(ニューヨークタイムス上掲)。
3 終わりに
 こうなると、金正日が、哀れにさえ思えてきますね。