太田述正コラム#2754(2008.8.27)
<皆さんとディスカッション(続x233)>
<ライサ>
≫・・・日本人の心暖かさは失われなかった一方で、敗戦によって日本人が自信喪失に陥ったからにほかならない。日本人が、不条理なことには毅然と対処する気概を取り戻しさえすれば、新たに移民を受け入れても二度と翻弄されるようなことはあり得ないだろう。≪(コラム#2752。太田) 
 気に入りました。太田さん素敵!
≫・・・毅然と対処する気概を取り戻しさえすれば・・・≪(同上)
 これが一番やっかいですね。どうしたら取り戻せるのでしょうか。
 やはり、民主党ですか!大丈夫かなー? 中を見ると民主党でも駄目かもね。
 やはり最終的には個人の問題に行き着いてしまうんでしょうね。
<新規有料購読申し込み者>
 ベーコン、ニュートン、ダーウィン、ロック、JSミルを生んだアングロサクソンとは何か。永年の疑問に大いに参考になりました。
 多くの朝鮮人と関わってきた経験から移民はご容赦を。
 人口減少でも「最大多数のささやかな幸福」を、覇権よりも日本人の身の丈にあった独立自尊の美しい国を志向する議論を期待します。
<コバ>
 コラム#2679「シークレット・サンシャイン鑑賞記(その2)」を読みました。
 知り合いの中国人(吉林省出身)の方は、中国から韓国と、日本に近づくにつれ、慣習や文化が日本に非常に似てくると言っていました(北朝鮮は勿論わかりませんが…)。中国では家族や親族のしがらみが非常に濃厚らしいのですが、それも韓国、日本の順で薄まってくるようです。中国にも日本の人間主義は通用し得るのか、興味深いところです。
<ライサ>
 バグってハニーさん。
>こんな議論の仕方じゃその答えになるのは当たり前じゃないですか。(コラム#2752)
>・・みなさんに確認したいのですが・・・今回のロシアの軍事行動は正当だとお考えなのですか?つまり、ロシアが「安全保障上の重大な地域の一つ」に「脅威」を感じれば、主権を持つ隣国に軍隊を進め、占拠し続けることが正当化されると考えているのですか?(同上)
 「みなさんに確認したい」と言う貴方の思い入れは理解できますが、また貴方に反論するわけではありませんが、こういう問いかけ方では、議論が進むとは思えません.。
 勿論、私も偉そうなことを言えないのは重々承知しておりますが。
 誰も、一般論で、これだけを聞かれれば、「それは、正当化できないよ!」って言うに違いありません。しかし、ロシアは、見え透いていようがいまいが「脅威」以外の理由があることを何度も言っています。
 だから、おっしゃるとおり、脅威云々を1つだけ理由として取り上げて言えば、「それは、正当化できないよ!」となりますが、他の理由、例えば「ロシア系の住民やオセチア人などの救命のためだ」と言われていて、それに基づいて「正当化されると考えているのですか?」と問われれば、一概に「それは、正当化できないよ!」って言いきれるものでしょうか。
 ロシアにはロシアにとっての正当な理由があり、それを我々が「正当だ」とか「正当でない」とかの判断を下すのは非常に難しいと思います。ただ主張することは出来ますが。 日本では北方領土や竹島、尖閣諸島、東シナ海油田問題等いろいろありますが、それらだって、貴方は単純に自分の言い分だけで、つまり持ち出した1つの条件に基づいてだけで「正当化される・されない」と決めつけることは出来無いと思いますが。 生意気言ってすみません。
<海驢>
 バグってハニーさん。
 すでにライサさんからコメントがあったようですが・・・。
 コラム#2748で<読者KY>さんが仰った「・・・ロシアや支那みたいな野蛮国がのさばる世界なんて、・・・心底勘弁願いたい。・・・要するに自分の「裏庭」と勝手に思っている所が相手だと、相手の国家主権を一切尊重しない。ロシアって国は過去現在未来そんなものだろうと思っています。主権国家相互の尊重というのは、近代の外交の基本だろうと勝手に思っているのですが、そういう考え方が一切無いのがロシアです。」というご意見は、当方も完全に同意するものです。
 また、個人的には、日本が組むべき相手は英米(もっといえば英国)が最も望ましいと思いますし、ロシアとは領土(南樺太・千島)・拉致(シベリア抑留)等の問題解決がない限り、まともに付き合うべきではないと思います。
 しかし、だからといって事実関係を正確に把握しなくてもよいことにはならない、ということが当方の主張です。
 先の大戦では、「同盟国は嘘をつかない」というナイーブさから日本が道を誤った部分もありますし<参考:大島浩 - Wikipedia  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%B3%B6%E6%B5%A9
>、英米もスターリン@ロシアと組むという暴挙に出た挙げ句、ヤルタ密約によって満洲・南樺太・千島を勝手にロシアに献上した過去があるわけですから(日露の領土・拉致問題は、もともと英米によって引き起こされたと言っても過言ではないのでは? 例によって後で自己弁護・正当化を抜かりなくやっていますが)。
※参考:Wiki-極東密約(ヤルタ協定)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%AB%E3%82%BF%E5%8D%94%E5%AE%9A#.E6.A5.B5.E6.9D.B1.E5.AF.86.E7.B4.84.EF.BC.88.E3.83.A4.E3.83.AB.E3.82.BF.E5.8D.94.E5.AE.9A.EF.BC.89
 同盟国(日米が同盟国とは言えないと思いますが)とはいえ、それは情勢に応じて移ろいやすいものなので、「一途にあなたを信じます」ではなくて、嘘は嘘・悪いことは悪いことだと分かった上で、それでも協力するよという姿勢が必要ではないかと。そうでなくては「同盟」など成立しないのでは?
>私が「ロシア側の陰謀論がない」と書いたのは、日本人の間では様々な米国陰謀論が人気なのに対して、ロシア陰謀論を唱えている「日本人」がほとんどいない、という現状を憂えているのです。
 今般のグルジア・ロシア紛争について言えば、英米メディアの情報量は圧倒的で、その内容は大部分「ロシア悪玉論」、ついでに米国は日本の『同盟国』なのですから、敢えてロシアの陰謀論を挙げずともネタは十分足りているはずです。
 ご心配なさらずとも、マスメディアから情報を得ている大部分の日本人は、事実かどうか疑うこともなく「親欧米の小国グルジアを悪辣な大国ロシアが攻撃した」「ソ連・帝国主義の復活だ」と思っているのではないですか。
 しかし、そんなステレオタイプで一面的な話は、マスメディアで垂れ流す分にはよくてもネット上ではウケない(議論する対象にならない)ということでしょう。「先の大戦の経緯に由来する強い潜在的反米意識」というほど大仰なこととも思えません。
 個人的な感想を申し上げれば、ロシアは今回の紛争で事前予想以上の得点を上げたと思います。もともといつ火を噴くかという状態だったにせよ、北京五輪開幕日に侵攻するハメになって西欧メディアにさんざん叩かれましたが、「最初に手を出したのはグルジア側」「コソボと同様、民族浄化(虚実はともかく)というフォーミュラを利用」「ソ連崩壊後初の対外軍事行動を事前準備どおり遂行」「グルジア側軍事リソース除去に成功」「アブハジアでの脅威も除去」「グルジアのNATO加盟と外国からの投資を凍結」「NATOの不干渉と有利な停戦条件を取得」などなど、ずいぶん得点しています。挙げ句にサーカシヴィリ大統領を国際軍事法廷に送り込んで親露政権を立てようというのですから、ロシアの手腕たるや恐るべしという感があります。
 それに比べ、米国はポーランドへのMD配備を手に入れましたが、「ロシア悪玉論」もゴリで世界中に醜態をさらしたサーカシヴィリ大統領が旗手ではどこまで定着するか不明ですし、大陸欧州諸国は引いてしまってますし・・・ロシアが思った以上に「やる」ので、あまり得点できなかったように思います。この失態が米国(ひいては保護国・日本)の決定的な凋落に結びつかなければよいと願っていますが・・・
>・・・みなさんに確認したいのですが、コソボの例が盛んに取り上げられてますけど、今回のロシアの軍事行動は正当だとお考えなのですか?つまり、ロシアが「安全保障上の重大な地域の一つ」に「脅威」を感じれば、主権を持つ隣国に軍隊を進め、占拠し続けることが正当化されると考えているのですか?
 もちろん、正当化されるべきことではありません。ロシアと同様、英米にとっても。
逆に、「ボスニアやアフガニスタンやイラクにおける英米の軍事行動は正当だとお考えなのですか?つまり、英米が「安全保障上の脅威」を感じれば、主権を持つ「遠く離れた」国に軍隊を進め、占拠し続けることが正当化されると考えているのですか?」なんて質問されたら、どうします?
>日本にとってロシアは隣国であり、日本にとって米国が同盟国である以上、日本人が取るべき態度なんて決まりきっていると思いますけどね。今、米国以外にドイツとスペインのフリゲート艦がグルジア目指して黒海に入りました。私にとって西側同盟諸国が今回の事態を自分の問題として受け止めている証左なのですが、大方の日本人にとってはこれも米国の陰謀なんでしょうね。
 大方の日本人は、「米国の陰謀」なんて想像もしていないと思われますが、日本にとっては米国も隣国であって、ロシアと同様、かつて安全保障上の脅威となった(今も?)ことを除外してはいけません。
 しかし、それよりも「紛争勃発当日、新聞のほとんどが谷亮子選手の「銅」をトップニュースとした」という日本のボケぶりの方が憂慮すべき事態だと思います。
※参考:グルジアも終戦の日も掻き消したマスコミの五輪報道狂騒|週刊・上杉隆|ダイヤモンド・オンライン
http://diamond.jp/series/uesugi/10041/
<ライサ>
 海驢さんへの感想です。
>先の大戦では、「同盟国は嘘をつかない」というナイーブさから日本が道を誤った部分もあります・・・)。
–日本が道を誤った–
 ナイーブの意味に、「無責任」という意味、また「自分たちにとって都合の悪いことは起こりえない」と言う意味での旧陸軍・現官僚的意味が含まれているとすればその通りだと思います。
>もちろん、正当化されるべきことではありません。ロシアと同様、英米にとっても。
逆に、「ボスニアやアフガニスタンやイラクにおける英米の軍事行動は正当だとお考えなのですか?つまり、英米が「安全保障上の脅威」を感じれば、主権を持つ「遠く離れた」国に軍隊を進め、占拠し続けることが正当化されると考えているのですか?」なんて質問されたら、どうします?
–「ボスニアやアフガニスタンやイラク・・・–
ボスニア・ヘルツェゴビナ
北大西洋条約機構(NATO) 国際連合保護軍
アフガニスタン
当初作戦名「無限の正義作戦 (OIJ: Operation Infinite Justice)」有志連合諸国間での悪評により、「不朽の自由作戦 (OEF: Operation Enduring Freedom)」と改名
イラク
国連決議
東欧・北欧・旧ソ連諸国・極東アジア・東南アジア・大洋州諸国・中南米等・アフリカを除く(?)全世界的規模での派遣
 先付けの理由か後付の理由かは分かりませんが、それぞれ、もっともらしい理由と、擬似的民主主義的発想による、それに賛同した国が有る・った、のは確かです。
 一方、断定は出来ませんが(詳しくは知らないので)、今回のロシア介入には賛同する・した、国は有ったのでしょうか。
 これは、上記3紛争を、私が正当化していると言うことではありませんので、念のため。
<バグってハニー>
 –正当な軍事力行使とは–
(事実関係については記憶モードで典拠は省略しますが、要望があれば探してきますので言ってください。)
 私は嘘をつくような同盟国を選んだ時点で間違ってたと思いますけどね。ちなみに私にとっての「A級戦犯」は松岡洋右、白鳥敏夫、大島浩の三バカトリオです。反米感情で国を誤らせた好例ですね。
>英米もスターリン@ロシアと組むという暴挙に出た挙げ句、ヤルタ密約によって満洲・南樺太・千島を勝手にロシアに献上した過去があるわけですから(日露の領土・拉致問題は、もともと英米によって引き起こされたと言っても過言ではないのでは?
 プーチンが敬愛するスターリンは北方四島だけでは飽き足らず、日本降伏後に北海道の半分をトルーマンに要求してきたのは知ってます? もちろん、トルーマン大統領は断固拒否しましたけどね。日本は北方四島だけで済んで、ドイツのように分割統治されなかっただけでも私はトルーマンに感謝したいです。米国はソ連と違って人命を湯水のように使うわけにはいかない、日本に着上陸作戦なんかできればしたくないわけで、ちっぽけな島で済むのなら自分達の代わりにソ連が戦ってくれるというのは、米国にとってはおいしい話でしょう。
 あんまり無節操に議論を広げたくないのですが、このロシアによるグルジア侵攻は米国のグレナダ侵攻、パナマ侵攻、1973年のチリ・クーデターに対する介入、ピッグズ湾事件などになぞらえることができると思います。「裏庭」で発生した安全保障上の脅威を取り除く、ということですよね。でも、ロシアと米国の行動には決定的な違いがあります。プーチンやメドベージェフの帝国主義に対して、米国には軍事行動によって領土を拡張する意図はまったくないですよね。南オセチアとコソボを決定的に違うものにしているのも同じことであって、コソボに対する米国の軍事介入はコソボを米国領土にするための企みではないのです。
 かつては米国にも今のロシアのようなところがあったんですよ。米西戦争とか米墨戦争でキューバや太平洋の島々、メキシコ割譲地を手に入れてますよね。でも、力ずくで領土を分捕ってくるという理屈は19世紀、せいぜい20世紀初頭までのことですよ。21世紀にそれをやるロシアはアナクロも甚だしい。メドベージェフが南オセチアとアブハジアの独立を承認しましたよね。ロシアの次の布石が見てとれるようです。海驢さんの仰るとおり、ロシアの「陰謀」ははたから見てわかりやすいですね。
 それで、ある軍事行動が正当であるかどうかを判断する基準はいくつかあります。
 たとえば、それが正規の命令系統を経た行動であるのかとか、正当な軍事目標に対する攻撃であるのかとか、目的に対して用いた軍事力が適正であったかどうか(過剰な軍事力行使ではないか)、といったことです。つまり、用いた手段が目的と釣り合っているのかどうか、というのが大事なわけです。それで、たとえば太田コラム#2749(未公開)を例にとると、太田さんはグルジアとロシアの特定の軍事行動が正当であるかどうかを以上のような観点からざっくりと検討しています。
・グルジアは、ティンヴァリ攻略を行った際の無差別砲撃による南オセチア人一般住民の死傷は、一般国際法違反とまでは言えないでしょう。
 グルジア軍の目的は南オセチア「政府軍」によるグルジア攻撃を止めさせることで、ターゲットはその軍事拠点ですよね。それに対して無差別砲撃が手段として釣り合っているのかどうか、ということを太田さんは検討しているわけです。どの記事だったか忘れましたが、ツヒンバリ砲撃に用いた武器は本来は野戦用で市街地で用いれば一般市民が巻き添えになる可能性が高くなる、と米陸軍の人だかが証言していました。しかしながら、一般市民ではなく軍事目標に向けて撃っているのだから、とか、グルジアに対する同様の攻撃を止めさせるための砲撃であるのだから、などといった理由で正当化できるのではないか、と議論されているのだと思います。次にロシア軍の軍事行動に関して
・緩衝地帯を設ける軍事的必要性も全く認められません。
 ロシア軍の目的は名目上「南オセチアの人々の安全を守ること」となっています。ターゲットとなっている緩衝地帯が設けられたのは、南オセチアとアブハジアの境界線の外側、つまりグルジア領内です。要するに問題になっているのは「南オセチアの人々の安全を守る」ためになぜ緩衝地帯が必要なのか、もともとの境界線ではどんな不都合があるのか、といったことですよね。軍事的にそんなの理由なんてないから正当な軍事行動とはいえない、ということですよね。
 我々に必要なのはロシアの軍事行動をいちいち書き出してそれが「南オセチアの人々の安全を守る」という目的と釣り合っているのかどうかを検討することではないですか?たとえば
・ゴリの占拠
・南オセチアからはるか離れた港町ポチの占拠
・グルジア海軍のフネを沈めたこと
・グルジア軍の武器・弾薬を持ち去ったこと
・停戦後もなかなか撤退しなかったこと
・なおかつ勝手に設定した緩衝地帯に未だ居座っていること
などといった手段が「南オセチアの人々の安全を守る」という目的に対して過剰かどうか、ということですよね。こういう風に考えてみると南オセチア「だけ」を守りたいのであれば、ここまでする必要がないのは明白であって、つまり、ロシアの軍事行動は過剰であり、とても適正だとはいえないと思います。
<太田>
 次のコラム(非公開)で書きますが、南オセチアとアブハジアの独立をロシアが認めたことで、今次グルジア「戦争」は、ロシアにとって、(ソ連ならぬ)ロシアの早期没落、解体をもたらした自殺的愚行であった、ということになりそうです。
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太田述正コラム#2755(2008.8.27)
<グルジアで戦争勃発(その11)>
→非公開