太田述正コラム#2687(2008.7.24)
<北京五輪と抗議ゾーン>(2008.9.4)
1 始めに
7月24日付けの日本の主要メディアの電子版は、「日米平和・文化交流協会」専務理事の秋山直紀容疑者の逮捕を一斉に報じましたが、中共のあるニュースについては、全く報じませんでした。
ところが、このニュースは、私が毎日読んでいる英米の主要メディアでは、ガーディアンとファイナンシャルタイムスの電子版こそ報じなかったものの、BBC、ワシントンポスト、ニューヨークタイムス、クリスチャンサイエンスモニター、ロサンゼルスタイムス、CNNの電子版が足並みを揃えて報じました。
そのニュースとは、中共が北京五輪の期間中、北京市内に抗議ゾーンを設けるというものです。
2 抗議ゾーンについて
中共の現行法(1989年10月成立)では、市民は地方公安当局に、5日前に抗議活動の申し込みをしなければなりません。
そしてその際、主催者の名称、演題、スローガン、デモ参加人数を届けでなければなりません。
当該地域の永住権や長期在住権を持っていない者は参加できません。これはチベット・シンパ団体や立ち退きをくらった人々、そしてホームレスの人々を抗議活動から排除するのがねらいであることは明白です。
しかも、国家統一・主権・整合性(integrity)や社会的安定に危害を及ぼす懼れのあるもの、民族的分離主義を扇動するものは禁止されています。しかも、この条項は拡大解釈されがちであり、殆どの抗議活動は承認されてきませんでした。
さて、2週間ちょっとで北京五輪が開幕しますが、この五輪の安全部長の劉紹武(Liu Shaowu)は23日記者会見を行い、北京市内の三つの公園(Ritan Park, World Park and Purple Bamboo Park。いずれも五輪会場から離れている)に抗議ゾーン(注1)を設けると発表したのです。
(注1)ソルトレークやアテネでの五輪では抗議ゾーンが設置された。また、最近、種々の国際会議の際に抗議ゾーンが設けられるようになっている。
とはいえ、社会秩序の脅威たりうる外国人を排除しようとする中共当局の意思は固く、チベット問題活動家や人権擁護運動家で問題を起こしそうな人物は、しばらく前からビザの発給を拒否されてきたところです。
このため、抗議ゾーンで抗議の声を挙げようとする外国人は大して現れないのではないかと考えられています。
また、現れて、チベット、台湾、天安門事件等をとりあげようとしても、届け出が承認されることはありえないだろう(注2)し、それでも強行しようとすれば逮捕されるだろう、という声も出ています。
(注2)抗議ゾーンで抗議の声を挙げようとする人も、上記法律が適用されるのかどうかは明らかにされていない。
それに、承認されたとしても、外国の報道陣にタイミング良く写真や映像を撮らせて報道してもらえるかどうか、保証の限りではありません。
それなら、一番効果的なのは、天安門広場で米TV局のNBCのカメラを構える記者のすぐ後ろでゲリラ的にプラカード類を掲げる方が確実に報道されるし、中共の警官も何百万もの視聴者が見ている以上は手出しはしないだろう、という声も出ています。
なお、上記抗議ゾーン三箇所に具体的に言及した部分については、インターネットに掲載された、上記記者会見の記録から削除されており、中共当局がどれほど本件について神経質になっているか、分かろうというものです。
なお、支那人で抗議ゾーンで抗議の声を挙げようとする人は、上記三箇所中の、五輪会場から一番離れている一箇所でしか、認められない、という未確認情報もあります。
劉紹武自身、「これはインチキ・ショー(fake show)でも進歩の兆候でもない。単に五輪にやってくるたくさんの外国人のうちの少なからぬ者が抗議の声を挙げようとするかもしれないという可能性に対処するためにとられる臨時措置である」と述べたところです。
(以上、
http://www.nytimes.com/2008/07/24/sports/olympics/24china.html?ref=world&pagewanted=print、
http://features.csmonitor.com/olympics08/2008/07/23/beijing-offers-protest-pens/、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-china24-2008jul24,0,6861980,print.story、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/7521321.stm、
http://edition.cnn.com/2008/WORLD/asiapcf/07/23/beijing.protests.ap/index.html、http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/07/23/AR2008072302693_pf.html
(いずれも7月24日アクセス)による。)
3 終わりに
いくら臨時措置だと言っても、一度でもこのような、前例なき抗議活動が首都の真っ只中で行われれば、それが良かれ悪しかれ、中共の人々の脳裏に強く刻まれるであろうことは間違いありません。
やはり、日本の主要メディアの電子版が、このニュースにほおかぶりしたのは問題だと思います。
北京五輪と抗議ゾーン
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