太田述正コラム#2774(2008.9.6)
<皆さんとディスカッション(続x239)>
<遠江人>
海驢さん(コラム#2773)、ありがとうございます。頭が沸騰しそうになりながら情報の整理をした甲斐がありました。
太田さんのアングロサクソン論は初めて知ると、なるほど、すごいと思う(少なくとも私はそうです)かもしれませんが、言われてみれば、そうだよなぁという感じで、コロンブスの卵的なところがある?ように思うので、一旦世に出れば、広まるのも浸透するのも早いのかもしれません。その時から日本の変革が始まる・・・とかになればいいなぁなんて。
<読者SK>
太田様、遠江人さん、海驢さん、皆さまコメント有り難うございます。
(私だけイニシャルなので、ペンネームを考えた方がいいかな?)
ハイエクの著書は「隷属への道」の他、渡部昇一氏の解説本も読んだりはしているのですが、今ひとつ理解が浅かったとおもいます。ご指摘の引用箇所を読ませて頂き、主張の理解が深まったような気がします。池田信夫氏は知らなかったのですが、著書を購入し読んでみます。
コラムで良く引用される「歴史の終わり」の著者であるフランシス・フクヤマ氏の
それ程有名ではない著書に『「大崩壊」の時代』があります。
この著書ではあらゆる秩序が崩壊したとしても、その後にまた新しい秩序が生まれる
だから問題ないといった主張だったと記憶しております。
これは慣習を大事にする英国風とは異なる。
彼は「英米人」ではなく「欧州人」と言った所でしょうか?
海驢さん引用のブログで以下の事が気になりました。
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引用:ハイエク 知識社会の自由主義 – 池田信夫 blog
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/576a99c4b2f469a8109621f8263eba27
世界の金融市場を、前代未聞の危機がおおっている。現代の金融商品は数学や
コンピュータを駆使した「金融工学」によって合理化され、あらゆるリスクは
技術的にヘッジされ、世界中の市場がいっせいに暴落するパニックは起こりえ
ないはずだった。今回のサブプライム・ローン危機による株価の暴落は、通常
の金融工学の想定にもとづくと「百億年以上に一度」しか起こりえないはずだった。
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世の金融関係者の多くは本当にこのような事を考えているのでしょうか?
経済を始め全て分野は予測可能な事と予測不可能な事があるはずです。
予想以外の事が起これば失敗するのは当たり前で、世の中の道理ではないでしょうか?
金融関係は門外漢ですが、当たり前の事が起きているにすぎないと思います。
これはハイエクを持ち出すまでもない事だと思いますが、必要なのでしょうね。
そもそも金融に工学をつけて「金融工学」なる学問は成立できないはずです。
金融は実験できるのでしょうか? 再現可能なのでしょうか?
傲慢さの現れではないでしょうか?
<yamamoto>
コラム#1612「バグってハニー通信2:タイトルは下掲」を読みました。
大変参考になりました。日本語のグーグルではJasonでは非常に少ないヒットしかありませんが、英語では膨大のようです。英文ウィキペディアには推定メンバーリストが出ていますが、日本語版にはこの項目さえないようです。
<バグってハニー>
≫軽はずみな表面的議論と理屈だけで、受け入れ決定をして、後で臍を噬むのは一般庶民だけ。政府は言い訳に逃げる、地方は対応に追われる、庶民は苦しむ、、、、。後で「こんな日本に誰がしたっ」って、つぶやいても、もはや手遅れ。≪(コラム#2770。ライサ)
同じことは移民を受け入れなかった場合にも言えると思いますよ。グローバリゼーションとか日本の社会を活性化するとか世界の人々の期待にこたえるとか、移民受け入れのお題目はいろいろあるとは思いますが、もっともプラグマティックで重要なのは労働力人口の穴埋めではないでしょうか。以前投稿したとおり、今後50年で少子化・高齢化・人口減のトリプルパンチに日本は見舞われるわけですから、なんら手を打たないと日本は経済的には取るに足らない国に成り下がって、年金等社会保障費の増大に労働者があえぐという悲惨な状態に陥るのは目に見えています。それで、困るのは我々ではなくて次の世代ですからね。「こんな日本に誰がした」って、うらまれるかもね。
日本は世界一治安がいいですから、どこの国の人が来ても治安は悪化するでしょうね。結局、移民受け入れによってもたらされる利益がそういうリスクやコストを上回るかどうかを議論しなきゃならんのじゃないですかね。
<Pixy>
≫それで、また例によって8月8日以前の経緯がすっとばされているでしょ?ロシア対グルジア、グルジア対南オセチアという構図の中に南オセチア内部でのオセット人とグルジア人の軋轢があるわけで、それを指摘しない限り今次グルジア紛争は絶対に理解できないです。旧ソ連の時にオセチアまで行ったりまでしてクラーク教授、何見てたんですかね。≪(コラム#2773。バグってハニー)
8月8日以前の経緯についても、下段で触れられていますよ。
「オセチアがマスコミの見出しに登場するようになったのはソ連邦が解体した1991年以降からだ。オセチアは自治州という資格を基盤としてグルジアからの独立を要求しようとした。だがグルジア当局は、1991~91年の攻撃でもって、そうはさせないという意志をはっきり示した。そして親ロシア的なオセチア人たちは自治的状態の維持についてロシアの平和維持隊と話を付けるほかなかった」
≫次に、「民間人の負傷者数千人」と書いてありますけど、これは太田コラムでは「ロシア側発表は誇張の可能性がある」と必ず注釈が入っていた数値です。それで、やっぱり誇張でした。≪(同上)
On the morning of Aug. 8 we woke to “reports” of… であって、氏が見た範囲の報道の引用でしょうから、そこまで目くじら立てる必要はないのでは。
「また、アメリカ版の公式発表を鵜呑みにしたメディアやその他コメンテーターのあまりに偏向した、あまりに怠惰な、鸚鵡返しの反ロシア的リアクッションは」と言及していることから、意趣返しとしてワザとそう書いたのかもしれません(笑)
≫本家本元のロシアでさえ撤回したプロパガンダに未だにしがみついているというのは、滑稽を通り越して哀れみさえ感じてしまいます。≪(同上)
ロシアのプロパガンダにしがみついている人が「チェチェンなど過去の不祥事に関するモスクワの歪曲した説明を鵜呑みに受け入れたロシアのメディアと、いい勝負だ。 」と書いているのも、何かの詭弁のテクニックなんでしょうか。
・・・というか、本コラムについては、こんな枝葉の話ではなく、
「ところが西側のメディアには、こうしたことは何ら関係なかった。彼らにとっては、ロシアの介入からすべてが始まったようであり、それを暴虐的犯行として、さらには民族浄化行為とまで表現した。(なぜか、グルジア人によるオセチア人少数民族への攻撃は民族浄化とはいわれない。)
米大統領ジョージ・w・ブッシュは、ロシアの攻撃を、グルジア主権の侵害だと糾弾している。それをいうなら、アメリカが諸々の国を攻撃していた間、少しでも主権というものに頭を悩ませたことがあったか。その上、今では各国は、不道義的な攻撃を受けている人々を守るために、主権の問題は無視して、介入する道義的責任があるというドクトリンが存在している。ロシア当局がこのドクトリンをオセチアに関して主張するのはかんたんだろう。」
といった、ロシアを非難している西側メディアや米国の2面性はどうなのよ?と皮肉っぽく述べているあたりが主題でしょうし、皆さんにも読んで欲しかった部分です。(まあ、これも、話の前提となる「事実」認定が甘いから、彼にとって都合のいい「事実」に基づいた妄想と否定されてしまうかもしれませんが・・・)
<バグってハニー>
>といった、ロシアを非難している西側メディアや米国の2面性はどうなのよ?と皮肉っぽく述べているあたりが主題でしょうし、皆さんにも読んで欲しかった部分です。(まあ、これも、話の前提となる「事実」認定が甘いから、彼にとって都合のいい「事実」に基づいた妄想と否定されてしまうかもしれませんが・・・)
クラーク教授は思いつきで妄想を書き連ねていることがたびたびなわけで、私としては読む価値はほとんどなかろう、という感じです。
何度も書きますが、米国が軍事行動を起こすのはその地域を自国領土に編入するためではありません。それとは逆に、ロシアの軍事行動には領土拡大を目指す帝国主義的な匂いが付きまといます。欧州各国がロシアの軍事行動になぜ鋭敏に反応するのかというと、ロシアの食欲が何時止むのか不安だからじゃないでしょうか。グルジア本体、ウクライナ、ポーランドは果たしていつまで無事なのだろうかと。
私が8月8日以前の状況と言ったのは、8月に入ってから南オセチアで生じた、南オセチア民兵、グルジア平和維持軍、ロシア平和維持軍、オセチア系住民、グルジア系住民の間の暴力のエスカレーションのことです。以下の記事に詳しいです。
http://news.goo.ne.jp/article/ft/world/ft-20080830-01.html
こういう経緯、さらにグルジア軍によるツヒンバリ攻撃とほぼ同時に起きたロシア軍機甲部隊の南オセチア侵攻に言及することなく、グルジア軍の攻撃があたかも一方的に突然始まったかのように書くのは大変アンフェアな書き方です。
それでこのFTの記事をよく読んでみてください。紛争地まで出かけて、グルジア軍、ロシア軍、オセット系住民、グルジア系住民、いったいどこの誰がなんと証言したのか取材し、それをもとに記事は構成されています。クラーク教授が言う、
「アメリカ版の公式発表を鵜呑みにしたメディア」「西側のメディアには、こうしたことは何ら関係なかった。彼らにとっては、ロシアの介入からすべてが始まったようであり、それを暴虐的犯行として、さらには民族浄化行為とまで表現した」
というのはまったくの誹謗であり、クラーク教授の主張とは裏腹に、西側(クオリティ)メディアは良心的に当事者双方の主張を紹介しているのがよく分かると思います。食い違う証言があるにもかかわらず、被害者数千人というロシア側発表だけを紹介しているクラーク教授のほうがよほど不公平なのです。
ちなみに、クラーク教授が言う、「ロシアの介入」を「民族浄化行為とまで表現した」「西側のメディア」というのは寡聞にして知りません。典拠が明示されていないので私には反駁しようがないです。私は、クラーク教授がありもしない主張をでっち上げて論破した気になっている可能性もあると思っています。
<海驢>
バグってハニーさん、コラム執筆お疲れさまです。
さて、バグってハニーさんが執筆されたコラム#2767(未公開)は面白かったのですが、このコラムで引用されたファイナンシャルタイムス(以下、FTと略す)の記事における角田教授の右脳/左脳論に明白な誤りがありますのでお知らせいたします。
角田教授の説は、日本人は「虫の音」を『左脳』で『言語』として聞いており、外国人は『右脳』で『音楽や雑音』として聞いているのであり、それは母語の違いによるものであろう、というものです(太田さんがコラム#2533で引用された内容も、これに沿ったものです)。
<以下、引用:JOG(240) 日本語が作る脳 http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h14/jog240.html
>
・・・角田教授は日本人の脳が他の民族の脳と違う点を生理学的に追求してきた。その結果が驚くべき発見につながった。人間の脳は右脳と左脳とに分かれ、それぞれ得意分野がある。右脳は音楽脳とも呼ばれ、音楽や機械音、雑音を処理する。左脳は言語脳と呼ばれ、人間の話す声の理解など、論理的知的な処理を受け持つ。ここまでは日本人も西洋人も一緒である。
ところが、虫の音をどちらの脳で聴くかという点で違いが見つかった。西洋人は虫の音を機械音や雑音と同様に音楽脳で処理するのに対し、日本人は言語脳で受けとめる、ということが、角田教授の実験であきらかになった。日本人は虫の音を「虫の声」として聞いているということになる。
(・・・・・中略・・・・・)
このような特徴は、世界でも日本人とポリネシア人だけに見られ、中国人や韓国人も西洋型を示すという。さらに興味深いことは、日本人でも外国語を母語として育てられると西洋型となり、外国人でも日本語を母語として育つと日本人型になってしまう、というのである。脳の物理的構造というハードウェアの問題ではなく、幼児期にまず母語としてどの言語を教わったのか、というソフトウェアの問題らしい。
<引用終わり>
つまり、日本人が虫の音を「音」ではなく「声」として聞くからこそ、「冬も間近な秋の悲しみを聴く」のであり、「同時にもののあわれを感じる」ということなのでしょう。件のFTの記事では、この根本的なところの理解がまったく逆になっているため、藤原教授とFT記者のやりとりが頓珍漢なことになっているのだと思われます。
この件、まずは(太田さんもコラム#1600でその無知蒙昧ぶりをご指摘されていた)藤原正彦氏の間抜けな説明に第一の原因があるのでしょうが、FT記者も「・・・『国家の品格』で日本人の自然への感受性について書かれている部分では、私はほかの部分よりも激しく一言いいたくて、余白にグリグリと勢い良く書き込みをしている。」という割に、まったくウラ取りせずにインタビューしているということが明らかになりましたね(おっと、バグってハニーさんも?)。
こんな間抜けな間違いにも気付かず、堂々と記事を掲載しっぱなしとは・・・弘法も筆の誤りか、単に日本に興味がないからか、英国人の負の面(或いは悪い英国人の特性)である傲慢さか、それともFTが所詮は金融屋のプロパガンダ紙だからか・・・?
※ちなみに、『国家の品格』では「左脳で虫の音を聞く」と書いてある、らしいです。
(手元に本がないため未確認)
ついでと言っては何ですが、「左脳で虫の音を聞く」から発展して言語学的(?)な分析を加えている方を発見しましたので、ご参考まで。
※参考:モモログ|左脳で虫の音を聞く、若しくは「音読み(漢字)が訓読み(かな)に注釈を与える」(ジャック・ラカン)
http://www.momoti.com/blog2/2008/05/post_236.php
<太田>
休暇疲れで頭がぼーっとしてるせいもあるのかもしれませんが、私が付け加えるべき何物もありません。
太田コラムの読者の方々のレベルは高い!
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太田述正コラム#2775(2008.9.6)
<読者によるコラム:日韓の反目と安全保障(その2)>
→非公開
皆さんとディスカッション(続x239)
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