太田述正コラム#2691(2008.7.26)
<FTによる五輪後の中共の展望(その1)>(2008.9.6公開)
1 始めに
 英ファイナンシャルタイムスが、五輪後の中共を展望する特集を組みました。
 その内容をかいつまんでご紹介しましょう。
2 中産階級
 「中国共産党への最大の潜在的脅威は、教育程度の高い都市の中産階級だ。確かに土地を盗まれたり近傍の工場によって土地を汚染されたりした貧しい農民達の抗議は毎日のように行われているが、農村地帯で抗議は孤立的に行われがちだし、地方の警察は、鵜の目鷹の目を気にすることなく、しばしば農民達の頭をかち割ることを躊躇しない。しかし、この国の国際都市のまつろわぬ中産階級については勝手が異なる。仮に企業の幹部や弁護士や大学教授達が政治的現状に挑戦を始めたならば、党の掌握力は格段に不確かなものになってしまうだろう。」
 「<上海西南部の>新荘(Xinzhuang)地区の政治的覚醒は今年1月に、上海市政府が、出来の悪いウェッブサイトに、市のリニアモーターカー路線をこの地区の近くを通る形で延長する計画を発表した時に起こった。・・・この計画は、延長路線付近の住民達の間で怒りを呼んだ。騒音や公害の可能性を恐れて。インターネット上で陳情書が回覧され、いくつものビルに大きなポスターが掲げられた。「リニアモーターカーにノーを」といったスローガンを書いて。
 ・・・テクスト・メッセージやユーチューブが活用され、新しい状況が生まれるとその事実が広範に伝えられる、という大胆な抗議方法が・・・用いられた。
 ・・・この礼儀正しいけれど強力な郊外型叛乱・・近年の郊外型抗議活動の中で最も大規模なものの一つであり国際メディアのカメラが入った・・は目論見通りのインパクトがあった。何週間か経った時、上海市の市長は、地域住民との対話を行うべく、このプロジェクトは少なくとも一年間延期すると発表したのだ。
 ・・・このリニアモーターカーへの抗議活動が新荘の中産階級の芽生えつつある政治的積極性の現れだとすれば、5月の四川大地震は異なった形の政治的参加形態をもたらした。
 ・・・政府によれば、20万人以上の人が救助活動に加わるために四川省に赴いた。友誼商店には四川省で負傷した人々に献血するため、長蛇の列ができた。
 ・・・<しかし、中共の>中産階級はまだ相対的には少ない。8億人前後の支那人が田舎に住んでいて、そこでは大部分の人々が農業を通じて食うのがやっとの生活をしている。他方、都市では、かなりの割合の人々が今では自宅を保有しているものの、その多くは政府の民営化の過程で安く物件を購入しているわけであり、だからそんな統計に目を眩まされてはいけない。自家用車の保有は、もう一つの中産階級たるメルクマールであり、確かに毎年急速に増えているが、これは極めて低い水準からスタートしたことを忘れてはならない。現時点では支那人で乗用車を持っているのは3%前後に過ぎないのだ。
 中産階級がまだわずかであることから、彼らは政治的保守主義を生み出している。上海の郊外のような豊かな郊外で生活するということは、教育や健康保持面で社会的特権を享受することを意味する。そこで、中産階級たる支那人は、政治的現状維持に傾きがちだ。というのも、彼らは、民主主義が導入されれば、資源は、国全体で乏しきを分かち合う形で配分されるのではないか、という懸念を抱いているからだ。
 ・・・中共の中産階級は、民主主義国となったところの、大部分の欧米諸国や大部分のアジア諸国の場合とは違って、国家との結びつきがはるかに強い。その結果、彼らが一党独裁国家に挑戦する可能性など更に低い。
 ・・・従って、反リニアモーターカー活動の象徴性にもかかわらず、中産階級の支那が当局に挑戦する用意があるのは、彼らの直接的利益が損なわれる懼れがある場合だけであり、今回の活動も結局体制そのものに挑戦する所までは行っていない、という声があるのだ。」
 (以上、
http://www.ft.com/cms/s/0/5b0f8810-5681-11dd-8686-000077b07658.html
(7月26日アクセス)による。)
3 NGO
 「公式統計によれば、<中共には>354,000のNGOが存在する。しかし、登録されていないNGOが更に数千あり、これら全体として、NGOは次第に大きな役割を果たしつつある。
 (・・・NGOが中共で登録するためには、政府機関と提携することが前提になるのですが、多くのNGOはあえて登録しない結果、法的グレーゾーンが出現している。)
 ・・・政府は2020年までに30もの新しい<原子力>発電所を建設する計画だ。これは世界中の国の中で最大の計画だ。そのうちの一つが<山東省の名勝地の>銀の浜(Silver beach。Yintan)から数キロしか離れていないRushan近くに建設される。
 Hou氏と何人もの<銀の浜の>住民達はウエブサイトを立ち上げ、銀の浜が世界一すばらしい浜であるとし、この計画中の原発が人口密集地に近すぎると感じる人々の署名集めを始めている。
 このウエブサイトが<政府によって>閉ざされると、彼らは北京のNGOである海洋共同体(Dahai (Ocean) Commune)の助けを借りることにした。
 ・・・当局からの批判を見越して、Rushan原発抗議活動に従事している人々は、彼らが核エネルギーそのものに反対しているのではなく、特定のこの原発の建設に反対しているだけであることを強調している。
 ・・・こういう次第で、Rushanの活動家達は、陳情を組織するだけでデモはしないし、Yi氏は、他の原発反対活動はしないと述べ、「仮にわれわれが中共においてNGOが生きていく空間を確保したいと思うのならば、われわれは限定された規模で運動を行って行かなければならない」ことを認めている。
 (以上、
http://www.ft.com/cms/s/0/626e2fd0-5744-11dd-916c-000077b07658.html
(7月26日アクセス)による。)
(続く)