太田述正コラム#2693(2008.7.27)
<FTによる五輪後の中共の展望(その2)>(2008.9.7公開)
4 司法
「中共の法制度は大きく変化した。Tao氏が卒業した30年前は法学部の学生は<北京大学の>82人しかいなかったのが、今では600以上の法学部から30万人の卒業生が毎年出ている。・・・
<しかし、>率直な北京大学の法学部教授のHe Weifengは、「欧米的な意味での法制度は中共には存在しない」と喝破している。
刑事と重要な民事においては、政治的干渉だらけであり、重要ではない裁判においては判事と検察官に袖の下を渡すことが横行している。・・・
<また、>政府は弁護士に対し、免許を毎年更新することを義務づけており、時々、Teng氏のような<人権派の>「トラブルメーカー」の弁護士の免許更新を拒否する。・・・
「中共の法制度の最大の問題は、政治と法が分立していないということだ。」とTeng氏は言う。「法が党に奉仕する道具とみなされていることから、現行の制度の下では独立した司法は不可能だ」というのだ。
すべての裁判所に、「政治的」裁判において裁判所の判断をくつがえす力を持っているところの、特別な共産党委員会が存在する。小さい町では、この委員会はしばしば地方の警察の長が委員長を勤めており、裁判所は警察署の出先と化してしまっている。
Tao氏は、彼が法学の勉強を始めた、文化大革命直後の頃に比べれば、こんな問題なんて大したことではないと主張する。彼が北京大学法学部に入学した時は、この法学部の存在自体が「国家機密」であり、適正なる「赤い」出自の青年だけが入学を許された。大部分の教授は、毛沢東による1950年代末の暴虐なる反右派闘争によって法曹という職業がほとんど壊滅していた時期に派遣されたところの、田舎または労働キャンプから戻ったばかりだった。・・・
1980年代には大部分の判事は、法学を勉強したことのない元官僚か元将校だった。しかし、最新の政府公表数字が得られる2005年には、(その10年前にはわずか7%であったところの)法学学士号を持った判事が過半数を超えるに至っている。・・・
(以上、
http://www.ft.com/cms/s/0/abf9327c-58c9-11dd-a093-000077b07658.html
(7月26日アクセス)による。)
5 終わりに代えて
何ともやっかいな「大国」を日本は隣国に持ったものですね。
本日付のワシントンポストに、中共が21世紀に米国に代わって世界の覇権国になることなどありえないとする論説が掲載されています。
特段目新しいことが書いてあるわけではありませんが、この論説の筆者は、
第一に、中共で世界最速での老齢化の進行が避けられないこと。
第二に、中共の現在の一人当たり所得はIMFによれば世界第109位であり、スワジランドとモロッコの間に過ぎませんし、中共の輸出の60%近くは外国籍の企業によって生み出されており、ハイテク製品の輸出では、それが89%にも達していること。
つまり、中共はグローバル経済の下、その低コストの組み立てないし製造部門を担っているに過ぎず、一番利益をあげているのは、外国籍の企業だということ。
第三に、世界の最も汚染された20都市中、中共の都市が16を占め、中共の湖と川の70%が汚染されており、人口の半分はきれいな飲料水が得られていないこと。
なお、北部支那では、大気汚染が農産物の産出量を低下させるに至っていますし、2030年までには、中共は、現在の水の消費量に匹敵する量の水不足に直面すると見込まれていますし、中共北西部の工場の中には、水不足により廃業に追い込まれたものが出てきています。
中共政府自身が、環境問題が毎年のGDPを10%押し下げていると推計しているほどです。 第四に、「カンフーパンダ」のような100%支那的コンテンツの映画がハリウッドで制作されて馬鹿当たりしていることに象徴されるように、中共が一党独裁の専制国家なるがゆえに情報の自由な伝達に制約があり、創造性を窒息させ、自己矯正ができないこと。
を理由として挙げています。
(以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/07/25/AR2008072502255_pf.html
(7月27日アクセス)による。)
ところで、同じワシントンポストに、中共のサッカーが、国民的人気が高いにもかかわらず、すこぶる弱いことにいかに中共の人々が苛立っているかについて、抱腹絶倒ものの論説(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/07/24/AR2008072402162_pf.html
。7月27日アクセス)が載っていたので、最後にご紹介しておきましょう。
(完)
FTによる五輪後の中共の展望(その2)
- 公開日:
15億とも言われる、中国で法治的システムを構築することが、可能でしょうか。私は、無理だと思います。
したがって中国ではやはり、情報閉鎖的な共産主義社会が最善なのです。アメリカは、張り子のトラと言っていたあの昔でよいのです。
ただ中国の共産主義体制は認めることにしても、世界最富世界最強の中国は認められません。一定の貿易制限が、この国になされるべきです。