太田述正コラム#2731(2008.8.15)
<サルコジ批判(その1)>(2008.9.25公開)
1 始めに
サルコジについては、彼がフランスの大統領になった直後に二度、コラム#1765と1770で取り上げています。
コラム#1765では、サルコジに対し一定の評価をしつつも、その公私混同ぶりを指摘して、「フランスの政治が英国の政治のレベルに追いつくことは、当分なさそうですね。」と締めくくり、コラム#1770では、サルコジ閣僚の半分に女性を任命したことをとらえ、「彼は決して向こうウケを狙ったのではなく、どうやらサルコジは、男性より女性の方を信頼し、男性より女性とともに仕事をすることを好むようなのです。」と記したところです。
実際、サルコジのこれまでの外交的業績の多くは女性がからむケースでした。
リビアに捕らわれていたブルガリアの「女性」医療要員達の解放を、当時のセシリア夫人(女性!。コラム#2647)を特使として派遣することでかちとり、フランス系コロンビア人であるベタンクール(女性!。コラム#2647、2660)のFARCゲリラからの解放に入れ込んで貢献したり、という具合です。
なお、今回のグルジア「戦争」の停戦合意にもサルコジは大きな役割を果たしたところ、これには女性はからんでいませんが、これはたまたまフランスがEUの議長国であったという巡り合わせによるものに他ならず、しかも、実際の根回しは、フランスのクシュネル外相と、全欧安保機構(OSCE=Organization for Security and Co-operation in Europe)の現在の議長国であるフィンランドのスタッブ(Alexander Stubb)外相がタッグを組んで行ったという経緯があります。
(以上、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7559222.stm
(8月14日アクセス)による。)
ところで、このように女性に頭が上がらず、かつ公私混同を旨とするサルコジをケチョンケチョンに批判するコラムが英ガーディアン紙に載っている(
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/aug/07/france
。8月7日アクセス)ので、その概要をご紹介するとともに、サルコジ論を、彼の女性遍歴を通じて改めて展開してみましょう。
2 ガーディアンコラムのサルコジ批判
(1)コラムの概要
「ニコラス・サルコジは、フランス共和国の歴史上初めて、エリゼ宮を・・・ロック的魅力を持つ彼の妻のCDの販売増進<という>・・・商業目的の写真撮影に使用することを許した。同大統領はプロとは言えない。今度もまた彼の取り巻き達は彼を御することができなかった。サルコジはエリゼ宮はフランス国家の象徴であって貸し出されるべきものではないことを心得ていてしかるべきだった。彼はエリゼ宮に住むことを認められてはいるが、同宮殿の所有者ではないのだから・・。・・・<英国の>ウィンザー宮殿<がかかる目的に使用されることなどおよそ考えられないところだ。>より重大なことは、この最新の明らかに軽薄な挿話が示しているのは、いかにサルコジが次第に民主的権力を私(わたくし)化(privatising)しているかということだ。・・・彼が恣意的に任命した3人の判事が<民事訴訟の最終審で>・・・サルコジの親友・・・の元政治家で華麗なる企業家であるベルナール・タピ(Bernard Tapie)・・・に対し、フランスで空前のことだが、国がこの大統領の友達に2億8,500万ユーロ支払わなければならないとの判決を下したのだ。・・・国の財布はサルコジの自由にできる基金ではないことを、・・・財務大臣に誰か教えてやって欲しいものだ。・・・
公と私の領域の境界がぼやけてきており、本来両立できない成分がブレンドされて一つの大きな反民主的饒舌(smoothie)となる政治文化が<フランスに>出現しつつある。この新しい文化は通常抜け目がないフランスの市民達の不意を完全についたように見える。・・・
サルコジの妻が政府の閣僚級にメンバー達38人に「1000個のキッスとともに」彼女のアルバムを贈呈した時、彼らは・・・ジャーナリスト達に向かって、「行ってこれ買えよ。すばらしいから」と語ったときている。・・・
国家の様々な象徴が商品に堕してしまったというのに、閣僚達、廷臣達、そしてジャーナリスト達は追従者に成り下がってしまっている。こんな時、ブルーニ(カーラ夫人(太田))があえぎながらわれわれの耳に吹き込んでいるように「まるで何も起こらなかったように」ふるまっていてはならない。むしろわれわれは、音楽に向き合い、唱うべきなのだ。「民主主義よさようなら。アンシャン・レジームよ今日は」と。」
(2)コメント
これは、イギリス人のフランスを馬鹿にしているホンネを丸出しにしたという意味で貴重なコラムですが、だからと言ってその内容が傾聴に値しないとは私は思いません。
そんなサルコジの人間像を、彼の女性遍歴を通じて炙り出してみましょう。
(続く)
サルコジ批判(その1)
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