太田述正コラム#13568(2023.6.26)
<宮野裕『「ロシア」は、いかにして生まれたか』を読む(その5)>(2023.9.21公開)
「・・・その後のルーシ(そしてロシア)の歴史においてみられる政治と宗教との緊密な関係は、主にこの正教キリスト教<(注7)>の導入を起点として進行しました。」(14)
(注7)「古代教会はローマ帝国に発生し、全教区をエルサレム、アレクサンドリア、アンティオキア、コンスタンティノープル(現、イスタンブール)、ローマの五大総主教区に分けた。そのうちローマ教会だけが・・・他から分離し、以来ローマ・カトリック教会として発足した。他の東ローマ(ビザンティン)帝国内の諸教会は東方正教会とよばれるようになった。・・・
<具体的には、>1054年ごろから古代教会は東西に分裂し始めて、1204年に、第4回十字軍の西欧兵士がコンスタンティノープルを攻撃したときから、西は西方カトリック教会、東は東方正教会となった。西側のキリスト教がビザンティン帝国に敵対するようになり、両教会の対立はいっそう深まった。・・・
東方正教会は元来、古代教会の伝統を受け継いでおり、原始キリスト教の精神をよく伝えてき<ており、>・・・西のキリスト教に比べて、義よりも愛、十字架よりも復活、罪よりも救いを重んずるといわれる。神人一体であり、神人懸隔ではない。西のキリスト教が聖と俗を区別し、精神を物質の優位に置き、政教分離の傾向があるのに対して、東方正教は聖俗一致、霊肉一致、政教一致が特徴である。また、カトリックが煉獄を認め、マリアの無原罪説をいうのに対して、正教では煉獄を認めず、マリアの無原罪説をいわない。
カトリック神学が思弁的、体系的で、神について知的に学ぶのに対し、正教では信仰体験即神学である。キリスト教文化のなかに生きて神を体験的に身をもって学ぶのが東方正教神学である。そして正教では、神学は論文としてよりも、聖歌、イコン、教会規則、主教たちの書簡や説教の形で提出される。静寂主義(ヘシカスムHesychasm)は、アトス山出身の聖パラマス(1296―1359)が唱えた。静寂のなかで「イエスの祈り」を唱え、神を瞑想(めいそう)する修道法で、ビザンティン神学を代表する。」
https://kotobank.jp/word/%E6%9D%B1%E6%96%B9%E6%AD%A3%E6%95%99%E4%BC%9A-104169
⇒「政治と宗教との緊密な関係」は、カトリックの方についても言えないわけではありません。
まず、「ローマ教区だけは文化的に遅れた地域にあり、北方の蛮族と接触が多かったため、ローマの総主教は他の総主教たちのように宗教的権威だけに頼るわけにはゆかず、政治的権威を必要として教皇(法皇)と号した」(上掲)ということがありますし、「ピピンの寄進<(注8)によって、>教皇の世俗的領土として教皇領が形成された<ところ、>カトリック教会の中心であるローマ教皇庁が領土をもったことは、精神的な存在であるはずの教会の世俗化につながった」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%95%99%E7%9A%87%E9%A0%98
からです。
(注8)「帝政ローマの末期、4世紀に民族移動時代を先駆け、西ゴート族がモエシアから西ゴート王国までやってきた。建国の過程でアラリック1世が402年、西ローマ帝国の宮廷をミラノからラヴェンナへと移転させた。後にラヴェンナは東ゴート王国の首都になった。553年に東ゴートが滅び、領土がラヴェンナごと東ローマ帝国のものとなった。しかし、この地にランゴバルド王国が興ってしまった。・・・
メロヴィング朝の宮宰・・・ピピンは王位に就くためローマ教皇・・・ザカリアス・・の支援を求め、・・・戴冠を受けてピピン3世となり、・・・その見返りにランゴバルド王アイストゥルフを破り、教皇にラヴェンナ地方を寄進した。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%83%94%E3%83%B3%E3%81%AE%E5%AF%84%E9%80%B2
更に言えば、「国家が主体となって運営を行っているキリスト教の教会の組織形態で<ある>・・・国教会(State Church)」が、正教にはつきものですが、現在、カトリックに関しても、国教会が、アルゼンチン、ボリビア、コスタリカ、エルサルバドル、リヒテンシュタイン、マルタ、モナコ、スイスの一部に存在するからです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E6%95%99%E4%BC%9A
ちなみに、現在、プロテスタントにおいても、国教会が、英国教会、改革派教会(スコットランド)、ルター派教会(アイスランド、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランド)という形で存在します。(上掲)(太田)
(続く)