太田述正コラム#2749(2008.8.24)
<グルジアで戦争勃発(その9)>(2008.10.3公開)
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<最新状況>
1 ロシア軍「撤退」
(1)記事
「・・・ロシア軍はセナキ(Senaki)のグルジアの軍事基地から撤退したが、テレビ、冷蔵庫、はては便器に至るまで価値のあるすべてのものを押収して行った。しかし、ロシア軍はグルジア内部深くとどまっていて、南オセチア「国境」近くのゴリから数マイルの所の検問所(複数)と、黒海の港町であるポチ(Poti)近くの監視所2箇所を維持している。ポチは、ロシア言うところの緩衝地帯の外に位置するが、ロシア軍副参謀総長のアナトリー・ノゴヴィツィン(Anatoly Nogovitsyn)中将(Col.Gen.)はロシア軍部隊は引き続き同市の哨戒を行うと述べたと伝えられる。・・・」(
http://www.nytimes.com/2008/08/24/world/europe/24georgia.html?ref=world&pagewanted=print。8月24日アクセス(以下同じ))
「・・・同中将はまた、NATOが黒海における緊張を高めていると非難した。米、西、独、ポーランドの船がすべて黒海を目指しており、米国の船は人道的支援物品を提供するため本日グルジアに着く予定だ。これは状況を落ち着かせることに貢献はしない、と彼は語った。ロシアの爆撃機(複数)は、「戦争」2日目にポチの海軍基地を破壊し、5人の人を殺害した。昨日、沈没させられた艦艇の砲塔が青緑色の水面から突き出ていた。その近くでは、白い沿岸警備艇が・・・沈没させられていた。ロシア兵達はこの港の主要建物を掠奪し、ドアというドアを爆破して開け、書類の入ったキャビネットを次々に倒した・・・。」(
http://www.guardian.co.uk/world/2008/aug/24/georgia.russia1)
「・・・米国の<駆逐艦>マクフォール(USS McFaul)が・・・救援物資を積んでグルジアに日曜に到着する予定だが、・・・いくつかの報道によると、それは<ポチより>南のバツミ(Batumi)港ではないかという。更に2隻の米国船が続いて到着する予定だ。・・・」(
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7579324.stm)
「・・・戦闘地域から遠く離れ、<グルジアの首都>トビリシから北西にわずか車で45分の所にあるアハルゴリ(Akhalgori)の町から、一週間検問所に詰めていたロシア兵達が去ったら、南オセチアの民兵達がすぐとってかわった。彼らは南オセチア旗を掲げた装甲車両で道路を我が物顔に走り回っている。グルジアの役人達や一般住民達は、この民兵達がロシアによる占領中に殺害行為を行ったと非難している。・・・<この民兵の一人は、>「これはわれわれの土地だ。われわれはとどまりたいだけここにとどまる。要するに、これからここはわれわれのものなのだ。」と語った。」(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/08/22/AR2008082200580_pf.html)
(2)感想
ロシアには、米国等の艦艇によるバツミ港への物資搬入を阻止する度胸はなさそうですが、そうなると引き続きポチ港を哨戒するのは単なるいやがらせということになります。 また、緩衝地帯を設ける軍事的必要性も全く認められません。
これでは、ロシアへの怒りと欧米諸国からの支援により、グルジア人の結束は引き続き維持されるでしょうし、サカシヴィリが失脚するはずもありません。
あざやかな軍事戦略でグルジア軍を一蹴したロシアでしたが、政治戦略は丸でダメですね。
2 ロシア側の国際法違反
(1)記事
「グルジア政府は、南オセチアでの紛争によって112,000人の難民を登録した。もっとも実際には難民は200,000人にものぼる可能性がある。・・・この数字にはゴリ内外のグルジア人と「戦争」前まで南オセチアに住んでいたグルジア人36,000人が含まれる。このほか、アブハジアのコドリ峡谷(Kodori Gorge)の家々から1,500人が逃れてきた。」(
http://www.nytimes.com/2008/08/24/world/europe/24georgia.html?ref=world&pagewanted=print
上掲)
「これまで南オセチア内の準自治集落の中に住んでいたグルジア人約20,000人は一人たりとも戻ることは許されない。・・・<と>南オセチアの「大統領」のエヅアルド・ココイティ(Eduard Kokoity)<は語った。>」(
http://www.guardian.co.uk/world/2008/aug/24/georgia.russia)
「グルジアの役人達は、79人のグルジア人一般住民が過去数日間で解放されたが、なお少なくとも75人の一般住民が引き続き、南オセチアの「首都」ディンヴァリで囚われの身となっており、その大部分は若い男性であると語った。・・・<NGOの言によれば、>「これらの人々がその民族性を理由に不当に抑留されていることは極めて明確であり、・・・これらの人々が置かれているおぞましい状況は・・・国際法違反であると語った。」(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/08/23/AR2008082301944_pf.html)
(2)感想
ロシアは、グルジアとの間の停戦協定違反については、いくらでも言い逃れができますし、その違反を裁く国際法廷もありませんが、ロシア側による民族浄化(追い出し)や不当抑留や以前にも申し上げた焼き討ち、殺害、強姦等の一般国際法違反については、証拠さえあれば、言い逃れはできませんし、種々の国際法廷で裁かれることにもなります。
(グルジアは、ティンヴァリ攻略を行った際の無差別砲撃による南オセチア人一般住民の死傷は、一般国際法違反とまでは言えないでしょう。)
こういう点でも、ロシアの拙劣さは目を覆いたくなるほどです。
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グルジアで戦争勃発(その9)
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