太田述正コラム#2755(2008.8.27)
<グルジアで戦争勃発(その11)>(2008.10.5公開)
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<最新状況>
25日にロシアの上院(Federation Council)が130対0、下院(Duma)が447対0で南オセチアとアブハジアの独立をロシアの大統領が承認するよう求める決議を採択しました。これは行政府の意向を受けたものであると受け止められています。(
http://www.guardian.co.uk/world/2008/aug/26/russia.georgia
。8月26日アクセス)
だからといって、実際に承認はしないだろうと思われていた(
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/aug/26/russia.georgia
。8月26日アクセス)ところ、意外にも26日、メドヴェージェフ大統領は、両「国」の「独立」を認めてしまいました。
これは、グルジアとの停戦協定違反である(注1)と同時に、国連安保理の諸決議に対する真っ向からの挑戦でもあります。
(注1)実は、六カ国協議における昨年の10・3合意書には、北朝鮮が核無能力化の措置を行い申告書を提出すれば、米国は北朝鮮をテロ支援国リストから削除する、と明記されているにもかかわらず、北朝鮮がこれらを履行したというのに、米国はテロ支援国リストからの削除を行わなかった、というわけでこのところ、米国とロシアによる協定(合意)違反が足並みを揃えた感がある。
なお米国のこの合意違反に対し、北朝鮮は26日、寧辺核施設無能力化の措置を中断し原状回復も考慮する、と発表した。
(以上、事実関係は、
http://www.chosunonline.com/article/20080827000027
(8月27日アクセス)による。)
ロシアは、欧米諸国はアフガニスタンで手一杯でグルジアにまで部隊を派遣する余裕はないし、欧米諸国はまた、イランと北朝鮮の核問題でロシアの協力を必要としている上、欧米諸国はロシアの石油と天然ガスを必要としている、等々から、欧米諸国は何もできないと判断したのでしょう。
しかし、百歩譲ってこの判断が正しいとしても、人口もそこそこあって観光等で食っていけて本当に独立が可能なアブハジアにせよ、収入源がなきに等しく人口も少なく、ロシアに吸収される以外にない南オセチアにせよ、この両地域が何千何万というグルジア人難民を今次グルジア「戦争」で新たに生み出した以上、かつロシア以外にこの2「国」の独立を承認する国がほとんど出てこないと考えられる以上、情勢が落ち着くことはありえないでしょう。
それだけではありません。
グルジアからのこの2地域の分離独立を認めたことで、ロシア領内の北コーカサスのチェチェンはもとより、イングーシやダゲスタンのロシアからの独立の気運が高まることは必至です。
それに、このロシアの動きは、ロシア寄りの姿勢を維持してきたドイツやフランスを硬化させるに十分過ぎるものがあるのであって、グルジアのNATO加盟が促進されることは必至です。ということは、サカシヴィリのかねてよりの重要政策目標が達成される展望が開けたということであり、ロシアの意図していたサカシヴィリの失脚など、ありえない話になるわけです。
より深刻なのは、ロシア経済に与える悪い影響です。
欧米諸国の政府が何もしなくても、ロシア経済が世界市場に組み込まれている以上、世界の投資家達の判断によって、ロシア経済は大きな影響を受けます。
これまでのところ、明らかに世界の投資家達は、ロシア経済は売りだと判断しています(注2)。
(注2)だからこそ、上記決定公表後、メドヴェージェフ大統領は立て続けに世界の主要メディアに出演や寄稿をしてロシアの立場に理解を求めたのだろう。
ちなみに、彼が出演したのはCNN、BBC、アルジャジーラ、寄稿したのはファイナンシャルタイムスだ。ここには、日本のメディアはもとより、フランスやドイツのメディアだって登場しない。
ロシアの株価も通貨も下落しました。ロシアの株価は昨日の時点で、この2年来の最安値をつけました。またルーブルは、ロシア中央銀行の介入にもかかわらず、グルジア「戦争」勃発以来、昨日までに米ドルに対して4%下落しました。
また、ロシアの政府債及び社債に対する保険コストも急激に上昇しています。
更に、投資家達がカネを引き出したため、ロシアの外貨準備高も、今月、1998年のルーブル危機以来の急速な減少を記録しています。
そして当然のことながら、ロシアがWTOに加盟することは、当分の間、まず考えられない、ということになってしまいました。
極めつきは、ロシア政府の読みに反し、欧米諸国がロシアに対して様々な対抗策を講じることができそうなことです。
既に米軍等の手でグルジアに救援物資が次々に運び込まれていますが、今後、グルジアに対して、大規模な復興支援が行われることになるはずであり、グルジア経済の前途に心配はありません。
また、ロシアとしても、停戦協定を全面的に無効にするつもりはなさそうであることから、欧米諸国が国際停戦監視団の編成を急ぐことによって、ロシア「平和維持部隊」の撤退に向けて圧力をかけることもできます。
更に、ロシア政府高官の多くは、様々な国策会社と癒着しているところ、これらの会社が、南オセチアやアブハジア内で国際法ないしグルジア法に反する行為を行えば、米国政府がこれらの会社の米国内における資産を凍結、没収する、といったこも考えられますし、ロシア政府高官に対して直接、ビザ付与を拒否したり、彼らの海外銀行口座を凍結する、といったことだって考えられるのです。
(以上、
http://www.ft.com/cms/s/0/3940040a-739e-11dd-8a66-0000779fd18c.html、
http://www.guardian.co.uk/world/2008/aug/26/russia.georgia2、
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/aug/27/russia.georgia、
http://thelede.blogs.nytimes.com/2008/08/26/pr-battle-heats-up-between-russia-and-georgia/、
http://www.nytimes.com/2008/08/27/world/europe/27moscow.html?pagewanted=print、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/08/25/AR2008082502212_pf.html
(いずれも8月27日アクセス)による。)
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(続く)
グルジアで戦争勃発(その11)
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