太田述正コラム#13648(2023.8.5)
<松下憲一『中華を生んだ遊牧民–鮮卑拓跋の歴史』を読む(その11)>(2023.10.31公開)
「・・・太武帝の時代、宰相として力をふるったのが崔浩<(注35)>(さいこう)である。・・・
(注35)?~450年。「崔浩が国史編纂にあたり、漢化が進む以前の時期の鮮卑族拓跋部(北魏帝室の出身部族)の風俗、信条をありのまま記述し、その内容を石碑に刻して公開したことは、既に漢化が進んでいた太武帝や鮮卑系貴族には北族への侮辱とみなされ、彼らの憤激を招いた。このため崔浩をはじめとした一族、盧氏、郭氏など、さらに繋がりのある漢族系の有力貴族は誅殺され(国史の獄)、鮮卑を侮辱したと目された書物はことごとく破棄されたという。背景には、崔浩が南朝的な貴族制への移行を急いだことに対する皇帝の反発もあったともされる。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B4%94%E6%B5%A9
452年、太武帝が没して文成帝が即位すると「復仏の詔」が出され、仏教は復興する。
ただし復興した仏教は、国家の統制下におかれることになった。
454年には、平城の五級大寺に太祖以下5人のために釈迦立像5つが鋳造された。・・・
皇帝を仏像になぞらえることは、雲崗石窟に先駆けるものである。・・・
[雲崗石窟]
「中華人民共和国山西省大同市の西方20kmに所在する、東西1kmにわたる約51窟の石窟寺院。・・・
北魏の沙門統である曇曜が文成帝に上奏して460年(和平元年)頃に、桑乾河の支流の武周川の断崖に開いた所謂「曇曜五窟」(第16窟、第17窟、第18窟、第19窟、第20窟)に始まる。三武一宗の廃仏の第一回、太武帝の廃仏の後を受けた仏教復興事業のシンボル的存在が、この5窟の巨大な石仏であった。
[北魏初代皇帝道武帝を模して造られた釈迦坐像(第20窟)がある曇曜五窟(第16~第20窟。北魏の皇帝5人を模した5体の大仏がある)である。この曇曜五窟の仏像は、ガンダーラやグプタ朝の様式の影響が色濃く残っており、ガンダーラ美術の伝播を伝える重要な史跡である。]
その後も、第1・2窟、第3窟、第5・6窟、第7・8窟、第9・10窟、第11・12・13窟と大規模な石窟の造営が続けられ、雲岡期(460年 – 494年)と呼ばれる<支那>仏教彫刻史上の一時期を形成した。・・・
[この雲崗石窟は1902年、東京の築地本願寺の設計者として知られる、日本人建築史学者の伊東忠太(東京帝国大学工科大学助教授)によって発見され、一躍注目を集める存在になった。]」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%B2%E5%B4%97%E7%9F%B3%E7%AA%9
https://kotobank.jp/word/%E9%9B%B2%E5%B4%97%E7%9F%B3%E7%AA%9F-35640 ([]内)
⇒「お釈迦様を人間的な姿で表現しないという、それまでの伝統を破って、・・・仏像が造られ<ることになっ>た<ところ、>・・・仏像は、もともとインドで王侯貴族、王様をモデルにして生まれたもの」
https://www.yurindo.co.jp/yurin/9499
というわけで、仏像は、仏教の二重の堕落・・教義の通俗化と権力者への媚び・・の所産と言えそうですが、北魏の場合、王室関係者を含む一般信徒にとって、仏教は、(恐らくですが)教義は個人の現世利益と鎮護国家へと矮小化されるわ、皇帝達の顔をそのまま映した仏像を作るわ、といった、一層堕落した代物へと化していたのではないでしょうか。
(日本の場合も、そして恐らくは朝鮮半島の場合も、そんな「君主」仏像は作られなかったのでは?)(太田)
文明太后<(馮太后)(前出)>執政期に行われたおもな改革には以下のものがある。
484年、俸禄制の実施。
485年、均田法の発布。
486年、三長制の実施。
488年、部大人制の廃止。
俸禄制とは官僚に給料を支給する仕組みのこと。
北魏ではそれまで官僚に給料は支給されていなかった。
そのかわり戦争などで獲得した奴隷・馬・牛・羊が与えられ、それを元手に自給していた。
また地方長官として赴任先でワイロをとったり、税を懐に入れるものもいた。
そうした官僚の不正をただすためにも抜本的な改革として、官僚に給料を支給する俸禄制を導入することになった。」(112、123、138)
⇒後世の、かつ、西方におけるところの、ジョチ・ウルスとその後継勢力
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%81%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%82%B9
は、ついに俸禄制への移行を行わず、というか、行いえないまま滅亡した、と、言えそうですね。(太田)
(続く)