太田述正コラム#2871(2008.10.25)
<皆さんとディスカッション(続x286)>
<太田>
Kenzo Yamaoka さんから、クライン孝子さんの昨日の産経「正論」コラムを転載するよう依頼がありました。
その末尾の部分は以下のとおりです。
・・・今回の金融危機とは、米国の一極支配体制がいよいよ終焉を迎え、多極化の時代に入るサインではないか。第二次世界大戦後、世界の超大国として幅を利かした米国の世界支配に陰りが見え始めた、とドイツ人は感じている。
つまりこの危機は間違いなく、歴史の大きな転換点となる。だからこそドイツは、この機に、金融業界の業務を原点に戻って点検するとともに、欧州と米国との新しい関係を視野に入れた経済体制の樹立のために腐心している。
この点は日本もよく考える必要がある。株価対策や金融機関への公的資金投入など危機対策に取り組むのはもちろん重要だが、同時に、戦後の対米依存体質を見直し、真の独立を目指すべきだ。今回のピンチは、その一大チャンスになりうるのである。
http://sankei.jp.msn.com/world/europe/081023/erp0810230333002-n1.htm
(10月24日アクセス)
「この危機は間違いなく、歴史の大きな転換点となる。」というドイツの(クラインさんの)判断、及び「今回のピンチは、その一大チャンスになりうるのである。」というクラインさんの結論には必ずしも同意できませんが、「戦後の対米依存体質を見直し、真の独立を目指すべきだ。」という点については、諸手を挙げて賛成です。
http://www.asahi.com/politics/update/1024/TKY200810230358.html
(10月25日アクセス)
<FUKO>
≫皆さん、スゴくいい線いってますね。それにしても、2ちゃんねらーまで、どうしてこんなにまじめになっちゃんたんだ!(うれし泣き)≪(コラム#2861。太田)
http://menu.2ch.net/bbstable.html
を見れば分かるように、2ちゃんねるは「オタク」だけのものではなくなり、既に普遍性を帯びています。
2ちゃんねるの利用者数は990万人で、電子掲示板としては日本最大規模である。年齢層は10代が20.0%、20代が15.0%、30代が30.7%、40代が21.9%、50代以上が12.5%となっている。(
http://ja.wikipedia.org/wiki/2%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%81%AD%E3%82%8B
より。)
つまり、以前の「2ちゃんねらー」がまじめになったというより、まじめな人が「2ちゃんねらー」になったと考える方が自然かな、と思います。
太田コラムの読者にも「2ちゃんねらー」はけっこういるんじゃないかなと思いますよ。(典拠なし!)
<moshika>
遅ればせながら、「属国の防衛革命」を買わせていただきました。太田ブログ歴の浅い私には、良い入門書となりました。
特に、1章「日本はみずから望んで米国の属国になっているだけ」3章「政権交代が日本の独立を回復させるメカニズム」は、目下、日本に広く必要な認識だと思います。
これからも太田さんの「表芸」が書籍になっていくことを願っております。
ところで、
「どうして日本の軍事愛好家(畳の上の水練愛好家?)の皆さんは、事大主義的な親米派にして自民党支持者=構造的腐敗愛好家・・私に言わせれば反日派・・ばかりなのかねえ。」(太田コラム#2831)
「日本の軍事愛好家がおかしい理由はどういうことになるのでしょうね。」(太田コラム#2869)
とのことですが、太田さんもch桜で共演されていた西部邁氏の「日本の専門人」と「独立と孤立」についての知見から私なりに考えてみました。
西部氏は御著書「核武装論」講談社新書(2007)で以下のように指摘されています。
まず「日本の専門人」について
「軍事の問題にかぎっていうと、スペシャリストの眼はどうやら『武力の強弱』という側面にのみ焦点を結ぶようです。(中略)(彼らの)「政治の論じ方が『金甌無欠のアメリカ軍』という前提から始まっているのです。これをさして『認識のミリタリズム(武断主義)』と呼ぶことにしましょう。要するに、『アメリカの武力に抗うこと能わず』という固定観念が日本の防衛・外交論に―アメリカの(ヴェトナムにおけるものをはじめとする)数々の敗戦にもかかわらず―戦後日本人の脳裏に固着しているのです。」(p95)
その「認識の武断主義」について
「『認識の(偽装された)武断主義』は、実は、防衛論や国際政治学の深部から滲み出てくるものでもあるのです。なぜなら、それらの分野にかんする『学問』の主流は―それはアメリカのリアリスト(現実主義者)派のことなのですが―武断主義に大きく踏み込んでいるといわざるをえないからです。」(p100)
「あえて一言でまとめてみると、『世界は本源的に無秩序であり、そこで”安全と生存”を求めると、是非もなくパワー(権力)の抗争が生じ、その”弱肉強食”めいた権力の自然淘汰を通じて、その安定度は場合によるが、オーダー(秩序)が形成される』それがリアリストの政治学です。」(p101)
こう見ると、ホッブズ的な、ある種の虚無主義的世界観を前提とする政治視点に「金甌無欠のアメリカ軍」の前提が加われば日本より「強い」アメリカ(将来は中国?)に従属することを望み、日本の腐敗が大した問題に写らないのも必然なのかもしれません。
また、「独立と孤立」について
「反自主防衛論者にあって、『自主』という言葉も『独立』という言葉も、アメリカからの『分離』であり『孤立』である、とみなされています。なんという言語感覚でしょうか。(中略)自主独立と聞いて分離孤立のことと解し、それでは自分の人生が破滅すると慌てふためく言語感覚の持ち主は、他者に依存するのに慣れ切り、かつ狎れっ放しであるのにちがいありません。」(p109)
経験的に言って、子供が親離れする時、これまで親が子の代わりに担ってきた社会に対するコミュニケーションを担わなければならなくなります。このとき、社会とコミュニケーションをとる自信のない子供にとって親離れは「孤立」以外の何者でもなく、いつまでも親離れを拒むでしょう。しかし、親離れを拒めば、社会からの「孤立」はいよいよ深まっていくばかりのように思います。
西部邁(
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E9%83%A8%E9%82%81)
核武装論―当たり前の話をしようではないか(
http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=1498843)
長々と失礼しました。毎日のコラムの更新を楽しみにしております。ご自愛下さい。
<太田>
大昔、西部さんの『ソシオエコノミックス』を買って読んだことがあります。あんまり印象に残っていませんが・・。
その後、評論家としての西部さんが書かれたものはほとんど読んでおりませんが、引用された西部さんのご意見に関しては、ベトナム戦争で米国は(軍事的に)敗北した、という一点を除き(コラム#1538)、共感が持てます。
要するに日本の軍事愛好家は、虚弱な人間が多く、だから(米国やTVへの露出度が高い著名人等の)強い存在にあこがれ、群れたがる(画一的な思考をする、集団で「弱者」いじめをする)ということのようですね。
ところで、今年5月18日付の東京新聞の記事(コラム#2556)の時期遅れの後追いですが、
<日米地位協定では、>米兵らの犯罪のうち、被害が米国の財産・安全や米兵らの身体・財産に限られる場合や公務中の犯罪は米国に裁判権がある。・・・
<しかし、>現行の日米地位協定の前身、旧日米行政協定の改定交渉が進められた1953年10月28日に、日米合同委員会の非公開議事録という形で残されていたという。
議事録は英文で、日本は「著しく重要」と考える事件以外で裁判権を行使するつもりがない、とした日本側代表の声明を明記していた。 ・・・
米陸軍の「米兵への裁判権行使統計」には、54~63年で日本に裁判権があった米兵の犯罪の うち、年89~97%、2300~4600件で裁判権が放棄されたことが記されていた。・・・
http://www.asahi.com/politics/update/1024/TKY200810230358.html
(10月25日アクセス)
という記事が朝日に載っていました。
本件については、日本の司法制度に対する米側の不信感がある(コラム#199、251)とはいえ、日本が歴然たる米国の属国(保護国)であることがよく分かりますよね。
軍事愛好家の多くを含め、吉田ドクトリンに毒されている日本人の諸君が早く目覚めて、そのうち少しでも日本を救う私やクラインさんや西部さんらの戦いに加わってくれればいいのですが・・。
ところで、書評で紹介されていた藤森照信の考えの次のくだり、なかなか示唆に富んでいますね。
〈ヨーロッパの建築なら<スタイルがどんどん>変わるのに、日本では一度成立してしまうと生き続けるのだ。次に新しく生まれたスタイルと併行して古いものも生き続ける。数奇屋が生まれても、書院はあいかわらず元気。時には、一軒の家の中に、書院造、数奇屋造、茶室が順に並んでいたりする〉
スタイルが時代に従わないのである。
〈では何に従うかというと、用途に従う。(・・・伊勢神宮の)唯一神明造は天皇家の神社という用途に従い、数奇屋はちょっと遊び心の入った住いや料亭という用途にかぎって採用される〉
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20081023/174858/
10月24日アクセス
一度成立した「縄文モード」、「弥生モード」(どちらも太田の造語)が生き続ける、ということも大いにありそうなことだと思えてきませんか。
さて、本日1400過ぎ現在で、『実名告発防衛省』は、Amazon.co.jp ランキングが本で1,879位
http://www.amazon.co.jp/dp/4906605486?tag=itienndemotes-22&camp=243&creative=1615&linkCode=as1&creativeASIN=4906605486&adid=00MXVYB0FG13B6ZTBQMZ&
、そして『属国の防衛革命』は、同じく7,036位
http://www.amazon.co.jp/%E5%B1%9E%E5%9B%BD%E3%81%AE%E9%98%B2%E8%A1%9B%E9%9D%A9%E5%91%BD-%E5%A4%AA%E7%94%B0-%E8%BF%B0%E6%AD%A3/dp/476981402X
でした。アマゾンでも『実名告発防衛省』ちゃんと売り始めてますよ。
せっかく、今年4月1日には安重根に関する瞠目すべき記事を掲載した朝鮮日報(コラム#2462)が、若干後戻りをした記事を昨日付で掲載しました。
・・・安重根によるハルビンでの勝利と平和主義」と題する基調講演を通じ、安重根が獄中で執筆していたが未完成のまま終わった『東洋平和論』に注目した。ここで安重根は、伊藤博文に代表される日本のいわゆる『東洋平和論』に対し、事実上日本が掲げた侵略の口実に過ぎないと主張した。それによると、東洋はロシアの脅威にさらされており、それに対抗するには「日本が韓国を保護国とするのではなく、韓国や中国との協調・協力を通じて行うべき」という内容だった。・・・
http://www.chosunonline.com/article/20081024000070
・・・東洋平和に向けた安重根の具体的な構想は、現在の観点からみても非常に目新しいものだ。まず日本が旅順を清に返還した上で、韓中日3カ国が共同で 管理する軍港とし、各国が代表を派遣して平和会議を組織すべきと主張した。具体的には3カ国の若者で構成された軍団を編成し、彼らに2カ国以上の言語を学 ばせ、銀行を設立して共用通貨を定めようという主張だった。21世紀の欧州連合(EU)を連想させるような概念が、すでに安重根の思想の中に存在していた・・・
http://www.chosunonline.com/article/20081024000071
政治は可能性の芸術であり、現状においてすら、日韓はともかく、中共をも構成員とするEU的な枠組みを東アジアで構築するのは不可能であることを考えても、この記事に出てくる安重根の主張は、夢想以外の何物でもありませんでした。
福沢諭吉だって伊藤博文だって安のと同様の夢想を共有していた時期があるけど、福沢はさっさとそんな夢想は捨て去り、伊藤は苦悶しながらこのような夢想と決別した、そのおかげで、少なくとも日韓の間では、日韓併合というlesser evil の時代を経て、現在、EU的な枠組みを構築することも夢想ではなくなったということなのです。
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太田述正コラム#2872(2008.10.25)
<欧州・アジアにおけるオバマ・マケイン人気>
→非公開
皆さんとディスカッション(続x286)
- 公開日:
元々日本や,中国がドルを買い支え続けることで成り立っていたシステムでした。
しかしアメリカに,安心して買い続けられる債券がなくなった。
それでドル買い停止。それで円高。
中国はためらわず,内需拡大と資源の輸入拡大による元高騰の抑制に動き出した。
日本は貯め込んだドルの,世界への還元策を何も持ち合わせては居ない。
円暴騰は,当然の帰結。
日本の国際金融市場における,あまりにもひどい無能無力さの必然的結果なのですから。
自業自得と言うことで。
他人の陰謀のせいに,しない方が良いでしょうね。
少しでも早く真の解決策に行き着くためには。
ここで太田さんの立論に,賛成する根拠の一つについて。
日本の国際金融の未発達の根本原因は,開会投融資した債権の回収の保証の壁があると思うのです。
誰も返済されないと承知の上で,金を貸し続けることは出来ません。
しかし債権回収を裏付けるのは,世界政府でも成立しない限り,軍事力しかありません。
世界規模の軍事力だけが,世界規模の金融システムを保証できるわけです。
しかし最大の軍事大国には,もう他人に貸す金はありません。
他人に貸せる金を持っている国は,軍事力がありません。
それが現在のパニックの根本原因なのです。
日本が軍事力を持つか,アメリカが経済力を取り戻すか,あるいはIMFを中心に,世界中央銀行と,世界政府的な債権回収機構を作り出すのか。
そのいずれかに踏む込むしか,この苦境から抜け出す道はないのです。
前回にそれの解決が,第二次世界大戦の終結を待つしかなかったように,今回も相当の激しい曲折無しには,解決の道にたどり着けないと思います。