太田述正コラム#13726(2023.9.13)
<森安孝夫『シルクロードと唐帝国』を読む(その4)>(2023.12.10公開)
「・・・中央ユーラシアは、「四大文明圏」を基礎として拡大発展する東アジア農耕文明圏、南アジア農耕文明圏、西アジア半農半牧文明圏、そしてそれらより遅れて出現するヨーロッパ半農半牧文明圏を・・・シルクロード<で>・・・繋ぐ天然の交通路を内包していたのである。
⇒どうやら、私と同様、著者も、基本、文明論的史論に依拠しているようですね。
ただ、ここに登場した諸文明以外のアフロ=ユーラシア文明が存在しないと著者が考えているはずはないとは思いつつも、ここで、ギリシャ/ローマ等の地中海文明に言及しなかったのは、画竜点睛ではないでしょうか。
また、著者が、中央ユーラシア文明的なものが存在すると考えているかどうかも気になります。(太田)
中央ユーラシアが人類史上で果たしたもう一つの大きな役割は、・・・<そこ>にのみ原産の馬がいた<ことから、>・・・今から約3000年前に、遊牧騎馬民を生み出したことである。
四大文明圏から発展する農耕民と、中央ユーラシアから発展する騎馬遊牧民との対立・抗争・協調・共生・融合などの緊張関係こそが、アフロ=ユーラシアのダイナミックな歴史を生み出し、近代に直結する高度な文明を育んだのである。・・・
さらに中央ユーラシアの草原地帯の世界史的意義として、その西部のウクライナ草原~コーカサス地方にインド=ヨーロッパ語族の発祥の地があり、東部のモンゴリア~大興安嶺周辺地域にアルタイ語族<(注7)>の故郷があったことも忘れてはならない。
(注7)「かつては語族と考えられたが、現在は言語連合との考えが優勢。・・・
歴史的にはウラル・アルタイ語仮説に由来し、一般にテュルク語族、モンゴル語族、ツングース語族からなりたつ。これらの諸言語が共通の祖先(祖語)を持ち、アルタイ語族をなすという仮説がながらく提唱されており、1960年代までは広く受け入れられていた<。>・・・
広義にはこれらに日琉語族、朝鮮語族(まれにアイヌ語族やニブフ語)も加えられ、拡大アルタイ語族(・・・Macro-Altaic languages)、また近年はマーティン・ロベーツらの造語で「トランスユーラシア語族(・・・Transeurasian languages)」と呼ばれるが、これらに関しては常に議論の対象となっており、証明が受け入れられていた時期はない。・・・
これらの言語グループにはいくつかの重要な共通の特徴が見られる。
・母音調和を行う
・膠着語である
・原則としてSOV型(主語 – 目的語 – 述語)の語順をとる
・語頭にR音が立つことを嫌い、固有語にR音で始まる語をほとんど持たない
また広義には、日琉語族(日本語、琉球語)と朝鮮語族(朝鮮語、済州語)もアルタイ諸語である。ただし、現在は、母音調和の特徴は欠いている。
朝鮮語については過去に母音調和があった(中期朝鮮語)。
日本語についても、過去に母音調和を行っていた痕跡が見られるとする主張もある(有坂池上法則など)。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%82%A4%E8%AB%B8%E8%AA%9E
「母音調和(ぼいんちょうわ)とは、一語の中に現れる母音の組み合わせに一定の制限が生じる現象のこと。同化の一つ。
アルタイ諸語(満州語などのツングース諸語、モンゴル語などのモンゴル諸語、トルコ語などのテュルク諸語)、フィンランド語・ハンガリー語などのフィン・ウゴル諸語を含む「ウラル語族」のほか、アフリカやアメリカの言語にも見られる。
母音調和現象を持つ言語には、その言語の中で使われる母音にグループがあり、ある単語の語幹に付く接辞の母音が、語幹の母音と同一グループの母音から選択される。母音のグループは、口を大きくあけて発音するかすぼめて発音するか(広い・狭い)、発音するときに舌が口の前に来るか後ろのほうに来るか(前舌・後舌)などの特徴によって区分されており、母音の調音のための口蓋の変化を少なくして発音の労力を軽減するための一種の発音のくせであると考えられている。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%8D%E9%9F%B3%E8%AA%BF%E5%92%8C
「膠着語(・・・agglutinative language)または粘着語<は、>・・・屈折語<と対比させられるところの、>・・・言語類型論による自然言語の分類のひとつ。膠着語に分類される語は、ある単語に接頭辞や接尾辞のような形態素を付着させることで、その単語の文の中での文法関係を示す特徴を持つ。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%86%A0%E7%9D%80%E8%AA%9E
これら両語族がその後の世界市場に演じた巨大な役割はまったく他の追随を許さないことに思いを致せば、おのずから中央ユーラシアの重要さが偲ばれるであろう。」(57~58)
⇒著者の唱える、中央ユーラシアの三つの世界史的意義については、私としても、概ね異論はありません。(太田)
(続く)