太田述正コラム#2916(2008.11.16)
<皆さんとディスカッション(続x308)>
<Statesman>
私も<番組>拝見しました。
田母神氏は、司令官であるにもかかわらず、戦略も立てぬまま戦術も持たぬまま、敵陣にひとり丸裸で突撃、受傷し倒れている。まだ生存している。
太田さんをのぞくパネリストの方々は、「傷ついた仲間が近くにいるのに、助けにいかぬのは武人として恥ずべきことだ」と声を上げている。自分たちも戦場で一緒に戦っているんだという気持ちを抱いている。
太田さんと議論が全く噛み合わないのは当然ですね。
<MS>
おっしゃる通り、他の出演者の方は感情と理性をごちゃごちゃにして議論しておられるという問題があると思います。しかし、もっと根本的な問題としては、今の日本にとって本当の敵が何かという認識が、一見同じようでありながら、太田さんとその他の出演者で全く違うからでしょう。
太田さんの説明にもありましたが、太田さんの場合、敵は、吉田ドクトリン、及び、そのもとで国民をだましたまま利権をむさぼっている自民党です。
ところが、水島氏をはじめ太田さん以外の出演者の方は、前回太田さん出演時の彼らの発言からして、どうも自民党支持者のようです。これは、吉田ドクトリンが敵だという認識がないか、吉田ドクトリンの維持にどれだけ自民党が努力してきたかという背景(下記に一例)について勉強がたりないのでしょう。
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<例>
1969年にニクソン・ドクトリンの発表されたとき、ニクソンの考えでは、
『米国が海外のプレゼンスを減らすに従い、世界には米国、ソ連、中国、日本、西欧の新たな5大国体制が出現し、冷戦期の強固な同盟関係によってではなく、5大国間の勢力均衡によって安定がもたらされるはずであった。』
にも関わらず、日本側は、吉田学校生徒の代表格である佐藤栄作内閣の下、愛知外相は「フォーリン・アフェアーズ」に次のような寄稿をしています。
(佐藤栄作: http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%90%E8%97%A4%E6%A0%84%E4%BD%9C
愛知揆一: http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%9B%E7%9F%A5%E6%8F%86%E4%B8%80 )
『アジアで平和を維持する責任を米国から引き継ぐことなど、日本にとって問題外である。日本は憲法上の制約を抱えている上、両国間の軍事力は現在も将来も大きな開きがあるからである。このような責任を引き受ける準備は日本の一般世論にもできていないだけでなく、それを歓迎する自由国家はアジアにはないと私は考えている。・・・合理的に考えて、この地域での大規模な軍事的冒険に効果的に対抗できる米国の抑止力を引き続き維持することに代わるものは、当分ありえないであろう。』
(『』は、Victor D. Cha, 「米日韓 反目を超えた提携」p.72)
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上記の例を見ていただければ、米国からの再軍備の要請から、佐藤政権が必死で逃げ回っている感じが読み取れるとおもいます。「当分」といいつつ、「一般世論」に政治家としてのビジョンを示すこともなく誤魔化し続け、とうとう池田大作と手を組んでまで政権にしがみついているのが、今の自民党です。したがって、政権交代の必要性は、論理的思考のできる人にとっては自明だと思います。
以上から明らかなように、この期に及んで政権交代の必要性に気付かないような論理的な思考能力のない「評論家」や「ジャーナリスト」が、太田さんと論理的に議論ができるわけがないし、さらには、本質を理解していないにもかかわらず、なまじっか吉田ドクトリンという言葉自体は知っているがために、太田さんの発言に聞く耳を持とうとせず、議論がかみ合わないのだと考えています。
<太田>
チャの本、役に立ちますねえ。
ところで、「「左」にウィングを伸ばす」(番組中での私の発言)ためには、「絶対権力は絶対に腐敗する」というアクトン(John Emerich Edward Dalberg- Acton。1834~1902年)卿の言葉に言及して政権交替の必要性を訴えた方がよいと考え、私はそうしてきたところです。
<michisuzu>
それにしてもこの司会者あほですね?
こんなあほな番組があるなんてぞっと!します。
やはり、司会者がダメだと番組は程度の低いものになりますね。
太田様出演番組は選びましょう。
太田さんが御出演されたチャンネル桜の討論(下記リンク)を見ました。
開始部分 (1/18)
http://jp.youtube.com/watch?v=_X9oOHgpBqI&feature=PlayList&p=C5CDB71512A59806&index=0&playnext=1
<太田>
フフフ。
michisuzuさん、司会者のどこが「アホ」で「ダメ」なのか、ご本人のためにも、そして「桜」TVのためにも、具体的に説明していただきたかったですねえ。
いずれにせよ、私の新著の宣伝には、若干なりともなったのではないでしょうか。
<US>
SO-TVに入会し、チャンネル桜を見ました。
と言っても、3時間あるうちの最初の1時間だけです。
ごめんなさい、とてもつまらなくて、その1を見届けるのが精一杯でした。
これはその感想です。
1.いわずもがなですが、番組がつまらないのは、パネリストの選び方が偏りすぎていることおよび司会者が論点を整理してパネリストに提示し議論を誘導することができていないことの2点につきると思います。
→michisuzuさん、参考にしてくださいね。(太田)
2.論文としてはとてもじゃないが認められるものじゃないというのは案外あっさりと全員のコンセンサスが取れ、これはこれでびっくりしたのですが、擁護派の皆さんは、そんなの関係なく、論文の態をしているしていないじゃなく、ここで主張されていることを議論しようっていったところで、たぶん、水島さんだと思いますが、これは、エッセイなんだと言ったのがとてもびっくりしました。
でも、妙に納得してしまいました。これが論文だと思っていたから書き方に違和感を覚えていたのですが、これがエッセイだと思えば論文の質に対する違和感はなくなりました。 ちなみに、New York Times の記事 (
http://www.nytimes.com/2008/11/01/world/asia/01tokyo.html?scp=1&sq=tamogami&st=cse
) でも、 In the essay って書いてあるし , BBC の Web (
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/7721679.stm
) も、The essay argued… って書いてあります 。 世界では誰一人、最初からこれを論文扱いしていなかったんですね。
→そのご理解はいかがなものでしょうか。
エクシード英和辞典では、essayを「━━ n. (文芸上の)小論, 試論; 評論, 随筆; 試み」 としています。
http://tool.nifty.com/oyakudachi/webapp/dictionary/search?book2=2&book3=3&book1=1&book0=0&word=essay&option=0&page=0&item=
USさんも番組出演者達も日本語の「エッセイ」を「随筆」の意味で用いておられると思いますが、英語のessayの第一義的な意味は「小論」、すなわち「小論文」なのです。(太田)
3.田母神さんが実際無能なのか、懸賞論文に応募する以外の幕僚長としての職務において実際職務怠慢なのかはよくわかりませんが、幕僚長が政治的メッセージを発したことについては、私自身も明らかな違和感を感じています。
潮さんの意見によれば規則上、意見を述べるとき上官に報告すればよくそれも努力目標的な規則なので、田母神さんがやったことは解任されるに値しない、せいぜい厳重注意程度のものだということですが、規則がそういうものであるならばそうなんだと思います。
でも、気になったので、自分自身、自衛隊法 (
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S29/S29HO165.html
) というのを読んでみました。第61条に、政治的行為の制限というのがあります。さらに、人事院規則14-7(政治的行為) (
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%BF%E6%B2%BB%E7%9A%84%E8%A1%8C%E7%82%BA
) も読んでみました。 その第13番目 “政治的目的を有する署名又は無署名の文書、図画、音盤又は形象を発行し、回覧に供し、掲示し若しくは配布し又は多数の人に対して朗読し若しくは聴取させ、あるいはこれらの用に供するため・・・」 に、今回の件は該当すると思いました。
これに違反するとどうなるかは、力不足で調べられなかったのが情けないのですが、これは努力目標でもないし、厳重注意を受ければ済むようなものとも思えませんでした。 実際、法律上、解任に値するか否かはもう少し調べてみます。
さらに、もう一度、これが政治的メッセージか否か考えたのですが、本人が意図しようがしまいが、後に憲法改正まで言及しているのだから、明らかに村山談話見直しを求める政治的メッセージと思います。
これは海自川村さんも冒頭、田母神さんの主張を受け、反村山談話の議論をしようと言っているように、田母神擁護派も十二分にこれは政治的メッセージと認めています。擁護派の皆さん自身、政治的メッセージを発して何が悪いっていうスタンスだと思います。
→私は、軍人が政治的メッセージを発することは好ましくないが、例えば、イラク占領後の米軍の占領統治のやり方を批判するessayを発表した米軍将校がいた(コラム#省略)ところ、こういった行為に対しては、懲戒免職どころか、将官クラスでない将校レベルであれば解職すら避けるべきだと思います。実際、この将校は解職されていません。(もちろん今回、田母神氏を解職したのは妥当だったと思います。)こういう行為を封殺すれば、最高指揮官や、軍首脳レベルがアホだった場合、それこそ国が致命的な損害を被りかねないからです。(太田)
当テーマにつき、3点感じております。
1)一国民としては、すなおに軍人が政治的発言を行うことに怖さを感じます。やはり最高指揮官の統制が取れない軍は、いつか暴走し国をあらぬ方向に導くのではと危惧しています。
→戦前の軍部の暴走は、軍部内部の統制の乱れの問題であり、厳しくとがめられなければなりませんが、軍部の暴走の背景に圧倒的な国民の支持があったことを忘れてはなりません。
つまり、当時の日本の民主主義は未成熟であり、直接民主主義的な風潮が蔓延していた、ということです。(そもそも、大正デモクラシー生誕のきっかけの一つは米騒動という直接民主主義的暴動でした。)
これだけ政官業の癒着体制の弊害が連日のように(この体制の片割れの主要メディアを通じてさえ)報道されているというのに、大規模デモの一つも起こらないところを見ると、直接民主主義的「青二才さ」の段階を、日本の一般国民は完全に卒業しているということであり、このことは自衛官たる日本国民においても同じです。すなわち、自衛隊(軍)が暴走する危険など、およそ考えられません。(太田)
2)そういう軍人さんが中にはいてもいいのかもしれません。その人は、空自佐藤さん、陸自松島さん、水島さんがいうようによく言ったと誉められる気骨のある人かもしれません。が、それを指揮する防衛大臣、最高指揮権者首相は、もっと気骨のある方でいてほしいです。自分の言うことを聞かない軍指揮官をもっと強いリーダーシップで持って、更迭していただきたかったです。 政府の対応を見ると、上述した危惧はますます大きいと感じました。
→自民党の政治家達は、というより現在の日本の「右」の人々は、権力・名誉・カネ以外に何の関心も持っていない人々です。理念も、それを語る言葉も持っていません。まがりなりにも理念を持ち、へたくそではあってもそれを言葉でもって語ろうとした田母神氏と、麻生首相や浜田防衛相等じゃ勝負になりません。だから、彼らは権力を行使して田母神氏を解職するだけのことしかできなかったのです。そんな政治家に票を投じてきたのは国民の皆さんです。(太田)
3)陸自松島さん、海自川村さん双方とも幕僚長がこのようなメッセージを発することを適当ではないとしていましたが、空自佐藤さんは正面きって発言したことを容認されていました。 これは身内を守るために発した発言なのか、空自はもっとも酷いと空自を完全否定した太田さんに対する敵対心のためか、あるいは、航空自衛隊の人っていうのはみんな何かチャンスがあったらものを言ってやろうって思っているのか。。。 もし、3つ目だとすると、ちょっと怖いのですが、これはまだ結論付けられるほどには私自身よくわかっていません。
→身内を庇う意識に加えて、航空自衛隊の人々には、海上自衛隊よりも、そして陸上自衛隊よりもはるかにKYが多い、ということです。それがなぜかは、拙著『実名告発防衛省』第1部第5章を読みましょう。(太田)
4.その1だけを見たので後半で活躍するのかもしれないのですが、海自川村さんは冒頭に論文発表は不適切、内容は正論と感想を述べただけで何も発言されていませんよね。これは、海自の方は内容議論については深く発言すると政治的メッセージになるから軍人たるもの自重すべきと考えたからとかってに想像してしまいました。 その2、その3での発言に注目したいです。
→一貫してあまり発言されませんでした。なぜかは、川村氏のお立場(ご自分でお調べください)を考えれば、ある程度想像がつきます。(太田)
YouTube (http://jp.youtube.com/watch?v=_X9oOHgpBqI&feature=PlayList&p=C5CDB71512A59806&index=0&playnext=1) でも番組を見ることができるのを知りませんでした。SO-TV視聴代3,150円、勿体無いことをしました。 ところでYouTubeのタイトルですが、SO-TVのものとは違って、【世界最凶の文民統制】となっています。その1を聞く限り手続きなんてどうでもいいし、田母神さんに対するパッシングは酷すぎるっていうのは随所で聞こえてきましたがそれでもメインテーマにおきたがっていたのは、内容は正論であり、これを議論したいっていうものでした。その2、その3にて、文民統制の話題が盛り上がるんですかね。
→内容の話にもほとんど入らなかったし、文民統制の話題が盛り上がるってこともありませんでした。(太田)
フリップ最後の1枚を使っていないとのことですので、その2か3で5枚目をお使いになれるチャンスがあったってことですね。
→そうです。(太田)
以上、3点を楽しみに、体力のあるときに、その2、その3を視聴してみます。
5.脱線ネタですが、討論番組として視聴率をちゃんと取ろうとするならば、私は、今回の議論は、論点を
田母神さんは、自説を発表すべきでなかったか、してよかったのか?
航空自衛隊は腐っているのか、すばらしい組織なのか?
に絞って、佐藤さん VS 太田さん の対立を中心に議論を進めるのがよいと思いました。
後者は表立ってちゃんとした論点として列挙できるものではないので、司会者が上手にそこに議論を運ぶ必要がありますが。
佐藤さんは航空自衛隊全体を背負って意見を言うし、太田さんも本人を前に臆せず、航空自衛隊はパワハラ、セクハラの酷い組織だと臆せず糾弾できるし、番組側は、背広 VS 制服の闘いなどとどんどん煽ることができます。
すいません、ふざけすぎました。
→西村幸祐氏が何度も議論をその方向に持っていこうと私を挑発されたのですが、水島さんがそれに乗らなかったということです。
もっとも、仮に議論がその方向に行ったら、今度は私は、本格的に「右」・・私以外の全パネリストを含む・・批判を展開し、彼らと全面対決するつもりでした。(太田)
1に戻るのですが、チャンネル桜の人は自分たちの存続のためにももう少し番組構成を検討したほうがよいと思います。
討論番組一つみただけでどうこう言っても失礼なので、3,150円支払ったのだから他の番組も見てみます。
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太田述正コラム#2917(2008.11.16)
<ローズベルト/マーシャル・チャーチル/ブルーク(その1)>
→非公開
皆さんとディスカッション(続x308)
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