太田述正コラム#2834(2008.10.6)
<アフガニスタンの憂うべき現状(その1)>(2008.11.23公開)
1 始めに
 英国政府も関与する形でアフガニスタン政府とタリバン指導部との間で秘密交渉が行われているという話をコラム#2818、2829でしたところですが、英国政府は、アフガニスタンの憂うべき現状にかんがみ、様々な画策をしているようです。
 今回は、英国政府による画策と、その背景としての、最新のアフガニスタン情勢をご説明したいと思います。
2 英国政府の画策
 (1)駐アフガニスタン英国大使の「発言」
 10月4日付のニューヨークタイムス電子版は、次のような記事を掲載しました。
 暗号化されたフランスの外交電文がフランスの新聞にリークされ、駐アフガニスタン英国大使がNATO率いる対タリバンの戦いは失敗すると予想した。それだけではない。この新聞によれば、この大使は、アフガニスタンにとって最善の解決は「受け入れ可能な独裁者」を据えることだと言ったというのだ。・・・
 「多国籍軍のプレゼンス、とりわけその軍事的プレゼンスは解決に資しているというより問題をもたらしている。」とサー・シェラード<(Sherard Cowper-Coles)英国大使>は言ったと記されている。「外国の部隊はアフガニスタン政府の生命線となっており、これがいなくなればすぐに崩壊しても不思議はない。・・・今後5年から10年を見通した時、アフガニスタンを統一させる唯一の「現実的」方法は、「受け入れ可能な独裁者によって統治される」ことだ、とこの電文には記されており、更に、このような成り行きに対し、「われわれはわれわれの世論に心構えをさせることを考えるべきだ」と記されている。・・・
 以上の大使発言は、アフガニスタンのフランス大使館のナンバーツーに対してなされたとされているところ、この悲観的な発言は、8月にタリバンの待ち伏せ攻撃に遭って10人のフランスの兵士が死亡したためにフランス社会党等から批判が高まったにもかかわらず、サルコジ大統領が、自ら4月に発表した、アフガニスタンへ700人の兵士を増派して在アフガニスタン・フランス軍兵力を約3,000人とする計画を予定通り実行に移した直後に行われたものです。
 英国大使は、このフランス軍の兵力増強は、「反対の結果をもたらすだろう。それはわれわれをより強く占領軍であると印象づけ、叛乱者達にとって攻撃対象を増やすことになるだろう」とも語ったと記されています。
 結論的に同大使は、アフガニスタンにおいて米国を支援する以外に選択肢がないことを認めつつも、「われわれは米国に対し、敗北の戦略ではなく、勝利の戦略の一翼を担いたいということを伝えなければならない」ところ、米国の戦略は「失敗が運命づけられている」と述べたとされています。
 (以上、
http://www.nytimes.com/2008/10/04/world/asia/04afghan.html?_r=1&oref=slogin&ref=world&pagewanted=print  
(10月4日アクセス)による。)
 ミリバンド(David Miliband)英外相は、自らのウェッブに9月4日、これは不正確な(garbled)報道であるとし、英国はアフガニスタンにおける独裁制を支持しないと記しました。
 しかし、独裁云々についてはともかくとして、この英国大使の発言は、英国政府内の暗黙のコンセンサスを反映したものであったことがすぐに明らかになりました。
 (2)駐アフガニスタン英軍司令官の発言
 英軍では、2001年にアフガニスタンに派遣されて以来、120人の軍人が犠牲になっていますが、二度目の半年間のアフガニスタン派遣を終えたばかりの、今回は兵士32人が死亡し170人が負傷した第16経空強襲旅団(16 Air Assault Brigade)の司令官のマーク・カールトンスミス(Mark Carleton-Smith)准将は、10月5日、「われわれは、2008年一杯、タリバンの牙を抜くことに成功したが、この戦争に勝利を収めることはありえない。戦略的に脅威ではないところの、アフガニスタン軍によって制御可能(manageable)な程度にまで叛乱勢力を減殺させることができれば御の字だ。われわれは低レベルの間欠的に地方の叛乱が起きる程度ならそれでよしとせねばならない。」と語りました。
 すなわち、「決定的な軍事的勝利」を英国民は期待してはならないず、「期待水準を低め」なければならないのであって、多国籍軍が武装勢力をアフガニスタンにおいて根絶することを期待するのは非現実的である、というのです。そして、「仮にタリバンがテーブルの向こうに座って政治的決着について話し合うというのなら、これぞまさにこの種の叛乱を終局に導く最適な展開であって、英国民はこれを不愉快であると思ってはならない」というのです。
 この発言は、かねてより英軍首脳レベルが密かに語っていた考え方・・タリバンとの戦いは手詰まり状態になった・・を反映したものであって、同時にそれは、アフガニスタンのカルザイ(Hamid Karzai)政権の弱体さと腐敗に対するいや増すばかりのいらだちの表明でもあるのです。
 具体的には、アフガニスタン軍の訓練は行われているものの、まだ何年も経たないと単独での行動はできないと一般に見られていることと、アフガニスタンの警察が腐敗していることへのいらだちです。。
 (以上、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/7653116.stm
http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/7653367.stm
http://www.guardian.co.uk/world/2008/oct/06/afghanistan.military
(10月6日アクセス)による。)
(続く)