太田述正コラム#13916(2023.12.18)
<映画評論97:女王陛下のお気に入り>(2024.3.13公開)
1 始めに
今度は、「『女王陛下のお気に入り』(・・・The Favourite)は、2018年の<英・アイルランド・米>合作の歴史コメディ映画。監督はヨルゴス・ランティモス、主演はオリヴィア・コールマンが務めた。共演はエマ・ストーン、レイチェル・ワイズ、ニコラス・ホルトら。18世紀初頭の<イギリス>を舞台にアン女王の寵愛を奪い合う女性2人のしたたかな攻防を描いた宮廷ドラマである。第91回アカデミー賞では『ROMA/ローマ』と並び最多9部門10ノミネートを獲得し、コールマンが主演女優賞を受賞している。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%B3%E7%8E%8B%E9%99%9B%E4%B8%8B%E3%81%AE%E3%81%8A%E6%B0%97%E3%81%AB%E5%85%A5%E3%82%8A α
です。
2 本題
史実は踏まえつつも、勝手な妄想的想像を加えることで英女王を卑猥かつ矮小に描き笑い飛ばすプロットになっていて、(結構高い評価が与えられた映画であると後で知ったけれど、)私は不快でした。
そして、そういう不快フラッグを立てた映画評が、イギリス人からもスコットランド人からも全くなされていなさそうである
https://en.wikipedia.org/wiki/The_Favourite β
ことも知り、私は、もはや、英王室の将来はないのではないか、とさえ思いました。
というのも、21世紀になってすぐの頃に、旧説が覆され、この映画で描かれたアン女王がどうやら名君であったらしいとの新説・・’The political and diplomatic achievements of Anne’s governments, and the absence of constitutional conflict between monarch and parliament during her reign, indicate that she chose ministers and exercised her prerogatives wisely.’・・
https://en.wikipedia.org/wiki/Anne,Queen_of_Great_Britain γ が通説化し、この映画が制作されたのはその10年程度後だったからです。 ちなみに、アン女王の在位中に、イギリスとスコットランドの合同が1707年になり、 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%88%E5%90%8C%E6%B3%95(1707%E5%B9%B4)
また、スペイン継承戦争における「勝利」に伴う1713年のユトレヒト条約で、英国は、「ジブラルタルとミノルカ島及び北アメリカのハドソン湾、アカディアを獲得し」ています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%82%A4%E3%83%B3%E7%B6%99%E6%89%BF%E6%88%A6%E4%BA%89
では、どうして、つい最近まで、アン女王が暗君である、とされてきたのでしょうか。
それは、「和平派のアン女王は<スペイン継承>戦争推進派の<マールバラ公爵夫人で側近の>サラを疎ましく思うようにな<り、>1710年、自身がイギリスの戦争推進派の中心でもあるマールバラ公<爵が>・・・軍資金横領が発覚<するや、彼は>・・・妻のサラ共々アン女王の信任を失<った>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%82%A4%E3%83%B3%E7%B6%99%E6%89%BF%E6%88%A6%E4%BA%89
という背景の下、サラが、 ‘”unduly disparaged” Anne in her memoirs, and her prejudiced recollections persuaded many early biographers that Anne was “a weak, irresolute woman beset by bedchamber quarrels and deciding high policy on the basis of personalities”.’(γ)と、諸回顧録中で故アン女王を不当にディスり倒し続けたからだというのです。
このマールバラ侯爵夫妻の苗字はチャーチルであり、彼らは、あのチャーチルのご先祖様達であるところ、奥方の方からは文才にまかせて政敵達を貶め自己賛美を行うワル、ご主人の方からは戦争大好き意地汚人間・・第二次世界大戦前は破産状態だったチャーチルは戦争中に首相をやりながら大儲けして大金持ちに・・、
https://winstonchurchill.org/churchill-central/storyelement/churchill-and-money/
という悪しき遺伝子を、チャーチルは受け継いだ感があります。
なお、この映画の撮影は、ハートフォードシャーのハットフィールド・ハウス、そして、ハンプトンコート宮殿、更には、オックスフォード大学のボドリアン図書館(β)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%82%A6%E3%82%B9
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%88%E5%AE%AE%E6%AE%BF
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%89%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%B3%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8
ですが、いずれも、私は訪れたことがあり、大変懐かしい思いがしながらこの映画を鑑賞したことを付け加えておきます。