太田述正コラム#2964(2008.12.10)
<皆さんとディスカッション(続x331)>
<michisuzu>
≫・・・属国である限りは、大幅な防衛費カットは宗主国米国が許しませんし、独立日本がそれをやれば、日米安保は形骸化し、恐らく米国は日本列島及び韓国から米軍を撤退させ、日本は大慌てで大軍拡に乗り出さざるを得ない羽目に陥ることでしょう。(コラム#2962。太田)
 まさに思う壺じゃないですか?
 それでやっとこさ独立できるのであれば。
 私の持論でもある核軍備も自由に出来るのであればより幸いです。
 軍拡といってもあたりもしないミサイル防衛に無駄なお金をつぎ込むくらいなら核軍備したほうが国際社会でも発言力は増すでしょうしね。
<太田>
 なるほど、積極的核武装論者ではない私の防衛論など自民党の域を超えていないってわけですか。
 ホント元気ありますね、michisuzuさん。
 あなたくらいの若い世代の日本人の多くは、ひょっとして男女を問わず、防衛論議なんて平気の平左で、核武装論議にさえ抵抗感がないのかもしれませんね。
 亡くなった私の父親は、勝ち戦だった支那で先の大戦を戦い、実に楽しかったという体験談を私に何度も語ってくれたわけです(コラム#省略)が、これは、現在公開中の「人間は戦争が大好きだ」シリーズ(既公開コラム#2876、未公開コラム#2878)をお読みになれば分かるように、少なくともアングロサクソン諸国やイスラエル、そして戦前の日本(いずれも他国に全面的に占領されるような負け戦の体験がない)の人々にとっては常識です。
 ところが戦後の日本では、先の大戦において、支那以外の戦場では途中から兵士等が米英軍による一方的殺戮の対象となり、内地においても一般住民等が米軍の空襲による一方的殺戮を経験したこと等から、戦争はただただ悲惨なだけで、何の意味もないものであるとする、世界でも希な特異な思い込みを圧倒的多数の人々がしてきました。
 (これに加えて縄文モードへの回帰があった、というのが私の見解(コラム#省略)であるわけです。)
 今年のノーベル物理学賞と化学賞受賞者の発言・・お二人とも高齢者です・・がその典型です。
 「・・・益川さんは、幼稚園のころに焼夷弾・・・が 名古屋市内にあった自宅に命中した体験に触れ、「不発弾で一家は助かったけれど……」と目を潤ませた。・・・下村さんは前日の記念講演で焼け野原となった長崎の写真を最初に示したことについて、「戦争で幸い生き残り、そこから初めて人生が始まった」と振り返った。・・・」
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20081210-OYT1T00003.htm
(12月10日アクセス)
 そこで、私としては、日本の現在の政治家や官僚の堕落・腐敗は、戦後日本が軍事(安全保障)を放擲し、論理必然的に米国の属国になったため、自民党政権の恒久化ともあいまって、政府においてガバナンスが失われたためだ、ということを強調することで、日本人の考え方の転換を促そうとしてきたわけです。
 こういうことを話すと、理解は示しつつも、政治家や官僚の堕落、腐敗の原因はそれだけではないのではないか、と疑問を呈する人が必ずいます。
 しかし、社会保障制度自体が、帝政ドイツにおいて、安全保障上の観点から導入されたという話を以前しました(コラム#省略)が、今問題になっている日本の年金制度だって、導入されたのは、総動員体制下にあった戦時中の1942年です。
http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=98137
(12月9日アクセス)
 なぜ導入する必要があったのか、ご説明の必要はないでしょう。(軍人と役人を対象とする恩給制度は、当時既にありました。)
 また、道路公団も大変問題になりましたが、そもそも第一次世界大戦後のドイツで世界で初めて高速道路(アウトバーン)が整備されたのには軍事目的(兵站路確保+臨時滑走路として使用)もあった
http://en.wikipedia.org/wiki/Autobahn
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%A6%E3%83%88%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%B3
(どちらも12月10日アクセス)のです。
 日本が戦後、安全保障を放擲してしまった結果、旧厚生省も社会保険庁も道路公団も堕落と腐敗の巣窟になったのは、いわば論理必然であったと言うべきでしょう。
 同様のことは、他の官庁等にもあてはまる、と私は考えています。
 このような認識を広範な日本人に浸透させることが先決であって、日本の核武装の是非を考えたりするのはその先のことだ、というのが私の判断です。
 それはそれとして、現在、米国のオバマ次期政権においても、EUにおいても核軍縮への熱意が高まっていること
http://www.nytimes.com/2008/12/09/world/europe/09france.html?ref=world&pagewanted=print
(12月10日アクセス)、及び、これまで米国以外の国で、他国またはスパイ、もしくは他国で核武装に携わった科学者の助けなくして核武装に成功した国がないこと
http://www.nytimes.com/2008/12/09/science/09bomb.html?pagewanted=print
を忘れないようにしましょう。
<海驢>
 遠江人さんへ。
 <コラム#2960での>ご投稿の内容については、以下に詳しい話が載っています。
※参考:JOG(458) 駆逐艦「雷」艦長・工藤俊作~ 敵兵422人を救助した武士道
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogdb_h18/jog458.html
≫過去のコラムで、太田さんが英国人から直接第二次大戦の恨み節を聞かされた話や捕虜の扱いのこと等があり、当時の英国の元軍人達は日本を恨んでいるという向きが多いと思われる中、こういう方もいるんですね。≪(コラム#2960。遠江人)
 確か、コラム#1436で言及がありましたが、大東亜戦争によって英国(これはオランダも)は19世紀的植民地帝国瓦解の憂き目にあったので、「第二次大戦の恨み節を聞かされ」ることもあるのだと思います。
 しかし、当時の日本軍の貧弱な兵站による困窮ぶりや、マレー・シンガポール戦線で軍の管理能力を超える大量の捕虜を抱えた状況は、英国人にもわりと認識さ れているようです(典拠失念・・・渡部昇一氏の「日本史からみた日本人 昭和編」だったかも?)ので、「当時の英国の元軍人達は日本を恨んでいるという向きが多い」わけではないと思いますが・・・
<遠江人>
 海驢さんへ、サイトの紹介ありがとうございます。
 英国(軍)人の日本へのわだかまりについては以下も参考にどうぞ。
太田述正コラム#805「英国の「太平洋戦争」への思い(その1)」
http://blog.ohtan.net/archives/50955028.html
太田述正コラム#1038「「アーロン収容所」再読(その4)」
http://blog.ohtan.net/archives/50954795.html
<海驢>
 太田様、周回遅れで申し訳ありませんが
≫南太平洋の環礁ナウル・・・で一九四三年七月、旧日本海軍の警備隊が現地のハンセン病患者三十九人をボートで海上に連れ出し、砲撃や銃撃を加え虐殺していた・・・」≪(コラム#2960。太田)
という件、リンク先の東京新聞記事を見ると、「BC級戦犯法廷の裁判記録」が典拠のようです。
 軍の命令書や通信傍受記録でもあれば100%確実ですが、「戦勝国の復讐劇場」の「偽証罪に問われない証言」だけではどこまで信用してよいものか疑問を感じます。
 また、それを「発掘」した関東学院大・林博史教授は、「9条の会」に所属しておられ、「自分の身が一番大事だからこそ、軍事力はないほうがいいんだということ。<引用:マガジン9条〜この人に聞きたい『林博史さんに聞いた その1』〜
http://www.magazine9.jp/interv/hayashi/hayashi.php
というご意見の持ち主ですので、牽強付会の説を為すために事実検証は眼中にない可能性もあります・・・
<太田>
 本件でBC級戦犯とされた方々は死刑にはならなかったようであり、仮にご存命ではないとしても、ご遺族の方々がいらっしゃるはずであり、記事に対し、これらの方々からの反論が寄せられていないところを見ると、すべてがでっちあげであったわけではないのではないでしょうか。
 なお、お示しのサイトを読ませていただきましたが、林氏はまともな印象を受けました。
 最後のところで、
 「・・・日本の場合でいえば、完全非武装までは行かないにしても、今の自衛隊のような強力な軍事力はいらない。せいぜい国境警備隊程度で、日本列島の外側で守るという選択肢はあり得るけど、そこを破られたらもう、手を挙げるほうがいい。そこで戦争を始めてしまったら、とんでもない犠牲が出るんですから。・・・」
と言っておられるところも、私、それほど大きな違和感を覚えませんよ。
 「日本の場合でいえば」を「独立日本が双務化された日米安保を維持し、米軍の駐留、とりわけ米空母機動部隊の駐留、も受け入れ続けるならば、日本列島の領域防衛のための部隊は」で置き換えるとともに、末尾に、「ただし、このほか、国際的な平和維持活動のための部隊をあわせ、少なくとも現在の自衛隊の規模程度の軍事力を維持する必要があります。」を付け加えればよいのです。
<amida>
 お化けを信じる人、宗教を信じている人を馬鹿にしたことを太田先生はおっしゃっていますが、ペマ・ギャルポさんがいつかテレビで言っていたけれど、人間から宗教・信仰を取ったら何も残らない、と言っておられました。
 太田先生も、理性でもって森羅万象を知的理知的な活動を通じて理解解明し、真理を極めることができると考える傲慢な知識人でしかないのでしょうか。
 プアな頭しかない私としては、信心抜きに生きることはできないし、ペマさんの言う通り信心のない人には人間の真実は理解できないのではないかと思うのですが、太田先生の宗教・信仰に関する所見をお伺いしたいです。
<太田>
 私は仏教、とりわけ禅や、神道の無教義かつエコ志向のところには惹かれていますが、擬人的な神を信仰する宗教、とりわけ一神教には違和感を覚えています。(過去コラムについては、どなたか、まとめて#をご紹介いただけるとありがたいですね。)
 いずれにせよ、お化けとかUFO的な話は御免被りたいものです。
 最後に、記事のご紹介です。
 シンセキ氏の退役軍人省長官への登用を絶賛する記事が米国の各紙で続いています。
・・・Politically, Obama has been moving aggressively to close a wide gap between Democrats and the military — and particularly between the party and the officer corps — that began growing in the Vietnam era.
 Shinseki’s appointment can be seen as one of several steps the incoming president has taken to win respect and trust within the armed forces. Obama’s decision to keep Robert Gates as defense secretary and his choice of retired Marine Gen. James Jones as White House national security adviser are of a piece in sending a strong, sympathetic signal to the uniformed services.・・・
 The battle over the role of gays in the military at the outset of Bill Clinton’s presidency had only deepened the divide that Ricks described.・・・
 In a seminal 1997 article in the Atlantic that addressed “The Widening Gap Between the Military and Society,” Thomas Ricks, a longtime military affairs correspondent who later worked at The Post, found that officers disproportionately identified themselves as conservative Republicans. Ricks saw the “classic military values of sacrifice, unity, self-discipline, and considering the interests of the group before those of the individual” as being increasingly at odds with the values of a highly individualistic and increasingly fragmented society.・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/12/08/AR2008120803293_pf.html
(12月10日アクセス。以下同じ)
 ベトナム戦争「敗戦」以来の米軍部の民主党ないしリベラルに対する反感、人間主義の軍部と個人主義の社会との亀裂を修復するという、重大な役割をシンセキ氏が担っているってわけです。
・・・“You must love those you lead before you can be an effective leader,” General Shinseki said at the time of his retirement in 2003. “You can certainly command without that sense of commitment, but you cannot lead without it.”・・・http://www.nytimes.com/2008/12/09/opinion/09tue2.html?ref=opinion&pagewanted=print
 このシンセキ氏の言葉は、戦後の歴代の首相や防衛大臣(防衛庁長官)にかみしめて欲しいですね。もう手遅れの感がありますが・・。
 
 ・・・He had clashed with Rumsfeld long before his famous testimony about Iraq, and the Secretary humiliated him by announcing his successor long before he was to depart thereby stripping him of his authority inside the Army. But most important, after Shinseki retired, he went home. He didn’t write a book, didn’t join the renegade generals, didn’t grab fame for fortune. Shinseki in that regard was an exemplary soldier and a perfect General Officer-veteran.・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-srv/community/groups/index.html?plckForumPage=ForumDiscussion&plckDiscussionId=Cat%3aa70e3396-6663-4a8d-ba19-e44939d3c44fForum%3aa725552c-bd4a-4a5f-a5b9-a0c96cfae382Discussion%3a091a0f15-9cf2-42ea-ba61-9cc51b6307bb
 国防省内で異論を訴え続けて解職され、それ以降は沈黙を守ったシンセキ氏を、田母神氏は見習って欲しかったですね。
 シンセキ氏は、戦前の日本人の良いところばかりを備えた人物のようですね。
 私は、防衛庁内で異論を訴え続け、その挙げ句自分で退職し、それ以降、防衛庁(省)等の批判を続けているわけであり、田母神氏よりはマシだとは思うけど、シンセキ氏には足下にも及びません。
 まあしかし、日本の防衛省、ひいては日本の状態がひどすぎるということで、ご宥恕いただければ幸いです。
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太田述正コラム#2965(2008.12.10)
<ムンバイでのテロ(続々)(その2)/お知らせ>
→非公開