太田述正コラム#2927(2008.11.21)
<オバマ・米国・英国・日本>(2008.12.29公開)
1 始めに
 オバマについての記事を二つご紹介しましょう。
2 米スレート誌の記事
 ・・・ニューヨークタイムスは、欧州において、オバマの<出現の>ような政治的勝利が起きることは当分ないだろうと記した。それは、あたかも英国の政治においてディズレーリが存在したことがなかったかのような・・・記述だった。・・・
 ベンジャミン・ディズレイリが勝利したことには今でも瞠目せざるをえない。
 というのは、当時の英国は、決して少なくない人々が「連中<(ユダヤ人のこと(太田)>」のうちの一人が<国の>責任者になるなんてとんでもない」と公然と言うような国だったというのに、彼は自分の民族性や彼の外国人っぽい名前、更には、彼の父親がキリスト教徒ですらなかったことを何ら隠すことがなかったからだ。
 しかも彼は、民族的に毛色が変わっていただけではなかった。彼は実力でエリートの仲間入りを果たしたのだ。彼はベストセラーになったまともな本を何冊も書いた。彼のこのアウトサイダーとしての超然さとあからさまな上昇意欲は、彼の天敵達を怒り狂わせた。
 そこで連中は、彼が「自分達のようでない」上にエリートであると彼を攻撃した。連中は、こんな男は信用がおけない、一体どんな奴か分かったものではない、当てにならない、似非通人(snob)だ、おしゃれな上流人士(toff)だ、と主張した。連中は、彼が自分自身のために考案した印章に・・<オバマ流の>「イエス・ウィー・キャン」に近い代物なのだが・・ラテン語のモットーを刻んでいることをあざけった。
 これらの修辞学的企みは、しかしながら、ベンジャミン・ディズレイリが・・・彼の良い友人であったビクトリア女王の治世の間に2度も英国の首相となることを妨げることはできなかった。
 だから、われわれ米国人は、バラク・オバマを大統領に選出したことで、これぞ<米国が>ユニークなゆえんだなどと背中をたたき合うことは止めた方がよかろう。・・・
http://www.slate.com/id/2204822/
(11月18日アクセス)
→とにかく、米国はできそこないのアングロサクソンであり、かつての宗主国の英国より、常に何周も遅れているダメな国なのです。(太田)
3 ワシントンポスト紙の記事
 ・・・日本のウェッブ・サイトで米国の主要同盟国のオバマ勝利に対するコメントを斜め読みしていると、その懐疑的、いや否定的とさえ言える全般的なトーンにびっくりしてしまう。
 「オバマは中国の重要性を強調する可能性が高い」と大部数の読売新聞は見出しをつけた。これは、新しい<米>行政府が日本を外交政策上後部座席にすわらせるであろうことを言わんとしているのだ。
 経済紙である日本経済新聞は、米民主党の新大統領と米議会が米国の自動車メーカーに対する救援策一式をつくりあげ、その結果として日本の自動車産業がとばっちりを食う可能性についていらだちを隠さない。
 誰もが、米軍をイラクから撤退させてアフガニスタンに集中させると語ったオバマが、日本の戦後の平和主義的指導者達がやる準備ができていないところの、後者の国への地上部隊の派遣に向けて圧力をかけてくる可能性があると思っている。
 一番びっくりする記事が載っているのが「選択」だ・・・。オバマの勝利を予期してこの雑誌は、・・・<オバマの>ジェレミア・ライト師、ウェザー・アンダーグランドの元指導者のウィリアム・エヤーズ、更には「共産主義者や社会主義者の教授達」との関係をあげつらった。そして彼を「ホワイトハウスの主の中で米国史上最も疑わしい人物」と呼ばわった。更に、オバマによるその外交政策についてのこれまでの声明を「抽象的」で「「協議」と「協調」といった空疎な言葉が連ねられている」と批判した。その上でこの記事は、オバマの下で米国は世界指導国たる地位を失い、世界を「巨大な混沌」へと引きずり込むかもしれないと締めくくった。・・・
 左がかった朝日新聞によって先週行われた最初の世論調査によれば、日本人の79%がオバマ自身には好印象を抱いているという結果が出たが、それでも、41%しか、オバマの当選が米日関係の改善に資すると考えていない。・・・
 要するに、<日本には>反米主義という問題があるのだ。最近日本に行ったところ、私は友人達との会話やテレビのトーク・ショーで米国の諸政策に対して批判的な見解が飛び交っていることに唖然とした。どんな日でも、テレビで多数のコメンテーター達があらゆる米国の問題点をしゃべっている。メディア業界の一員が教えてくれたが、親米だと目されると最近では干されてしまうのだという。・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/11/13/AR2008111302975_pf.html
(11月17日アクセス)
→改めて、「新アメリカ財団(New America Foundation)のシニア・フェローで日米関係専門家のクレモンス( Steven Clemons)は、日本が米国からもっと独立することだ、と日本の政治家達に直言しています。日本はいつまで米国の顔色ばかり窺っていたら気が済むのか。そんな日本に中共はあきれかえっている。日米安保条約は維持しつつも、日本は一刻も早く、自分自身の頭で、軍事面を含め、日本が何をなすべきかを決められる国になるべきだ。というのです。更に彼は、このままでは、日本の大衆が、米国が日本を臣従させてきたこと・・実は日本が勝手に臣従してきたのだが・・に怒りを爆発させ、日本に反米政権が生まれかねない、と憂慮しています。・・・このクレモンスの、中共も米国も、日本の吉田ドクトリン克服を希っている、という率直な指摘に、自民党や民主党の政治家は真剣に耳を傾けて欲しいものです。」という私の以前の指摘(コラム#1003)を掲げておきましょう。
 ダメな米国のエリート達が、いかに、更にダメな日本の「エリート」達を侮蔑しているか、お分かりか。