太田述正コラム#14130(2024.4.3)
<岡本隆司『物語 江南の歴史–もうひとつの中国史』を読む(その47)>(2024.6.29公開)


[大同思想]

 「<支那>的ユートピア思想で、階級的差別や搾取のない自由平等平和の社会を構想する。大同<・・大道・・>とは、『礼記(らいき)』礼運篇(れいうんへん)に「権力を独占する者がなく平等で、財貨は共有となり生活が保障され、各人が十分に才能を発揮することができ、犯罪も起こらない世の中」と定義されている<(注70)>が、考え方としては、それ以前の文献にも、墨子(ぼくし)の兼愛交利とか、老子の小国寡民とか、許行の君臣並耕などのように、断片的にではあるが数多く現れている。・・・

 (注70)「孔子曰:大道之行也,與三代之英,丘未之逮也,而有志焉。大道之行也,天下為公。選賢與能,講信脩睦,故人不獨親其親,不獨子其子,使老有所終,壯有所用,幼有所長,矜寡孤獨廢疾者,皆有所養。男有分,女有歸。貨惡其棄於地也,不必藏於己;力惡其不出於身也,不必為己。是故謀閉而不興,盜竊亂賊而不作,故外戶而不閉,是謂大同。今大道既隱,天下為家,各親其親,各子其子,貨力為己,大人世及以為禮。城郭溝池以為固,禮義以為紀;以正君臣,以篤父子,以睦兄弟,以和夫婦,以設制度,以立田里,以賢勇知,以功為己。故謀用是作,而兵由此起。禹、湯、文、武、成王、周公,由此其選也。此六君子者,未有不謹於禮者也。以著其義,以考其信,著有過,刑仁講讓,示民有常。如有不由此者,在埶者去,眾以為殃,是謂小康。・・・
 仕於公曰臣,仕於家曰僕」
https://ja.wikisource.org/wiki/%E7%A6%AE%E8%A8%98/%E7%A6%AE%E9%81%8B

⇒「注70」に該当部分と思しきものを引用したけれど、本文中の「」内のように要約するのが適切なのかどうか、文言文翻漢
https://app.gumble.pw/wenyan/
で現代漢語に翻訳した上でDeepLで英語に、また、百度文言文翻漢器
https://fanyi.baidu.com/mtpe-individual/multimodal?fr=cftr
で現代漢語に翻訳した上でDeepLで英語に、翻訳してみたものの、どちらも肝心なところがよく分からなかったこともあり、私の判断は、次回オフ会「講演」原稿に譲る。(太田)

 孔子は,遠い古代には〈大道〉(すぐれた道徳)が行われていて天下は公有のものであったとされて,公平で平和な共産的理想社会を描き,それに反し,今日は〈大道〉がすでに隠れて,天下は一家の私有となり,私利私欲の横行する混乱した社会になったと嘆いている。・・・

⇒これは、私見では正しい認識であるところ、どうして、当時、孔子がかかる認識を抱くことができたのか、が問題となるが、これも「講演」原稿に譲る。(太田)

 漢代以後は、消極的な現実逃避的な思想の描く理想郷、神仙の世界に投影されたものと、積極的に政治的な理想としての井田(せいでん)制の実現を企図したものとが現れている。
 また歴史上しばしば発生した農民起義(叛乱(はんらん))においても、・・・この大同思想に似た,土地・家屋の均分公有という思想は・・・しばしば提起され,19世紀中ごろの太平天国運動で,洪秀全が《原道醒世訓》の中で,理想とする新世界を〈礼運篇〉にもとづきながら説明<すると共に>天朝田畝制度<(注71)を行った>・・・のは,その典型といえる。

 (注71)「太平天国の土地制度で,・・・1853・・・ 年に発布された。土地や財産の公有と平均化を目指したもので,・・・25家を賦役・軍制・共同生活の単位とし<、>・・・16歳以上の男女に一律平等に土地を支給するが私有は認めず,各人の必要分以外の生産物や金銭はすべて・・・25家ごとに設立される聖庫に納めて,冠婚葬祭,孤児や寡婦の扶養,子弟の教育などにあてるというもの<だった>・・・。この土地制度のうえに,宗教,社会,行政,軍事の諸制度が構想されていた。太平天国の大土地所有反対の理念が示されているが,現実に合致せず,実際にはほとんど行われなかった。」
https://kotobank.jp/word/%E5%A4%A9%E6%9C%9D%E7%94%B0%E7%95%9D%E5%88%B6%E5%BA%A6-10

(続く)