太田述正コラム#2939(2008.11.27)
<ムンバイでのテロ>(2009.1.7公開)
1 ムンバイでのテロ
11月26日の夜、インドの金融、経済、文化(「ボリウッド」映画等)の中心である(ボンベイ改め)ムンバイにおいて、インドの門記念碑(Gateway of India monument。1911年の英国王ジョージ5世夫妻の訪問を祈念して1924年に完成)付近の海岸にボートで乗り付けたテロリスト達が、チャトラパティ・シバジ・ターミナル駅(Chhatrapati Shivaji Terminus。かつてのビクトリア・ターミナル駅。同駅は1878年完成、1996年に改名。2004年にユネスコ世界遺産となる。なお、シバジについては、コラム#301~303参照)、カフェ・レオポルド(Cafe Leopold)、カマ(Cama)病院、そして105年の歴史を誇る著名な建築物たるタージマハル・ホテル、オベロイ・ホテルといった外国人が多い場所、更にはガソリンスタンド、車等を小銃や手榴弾、及び爆弾を用いて攻撃し、ホテルでは英米人等を人質にとり、警官隊や軍の部隊と銃撃戦を交わし、現在に至っています。
27日昼時点で警察が発表した死者は、日本人1名を含む101名、負傷者は314名にのぼっています。
この数字にテロリストが含まれているのかどうか定かではありませんが、テロリスト9名の死亡が確認されています。また、11名の警察官が死亡しました。
いくつかの報道機関に、聞き慣れないデッカ・ムジャヒディーン(聖戦士)(Deccan Mujahideen)名の犯行声明が寄せられています。
2 インドにおける最近のテロ状況
、昨年の7月には、インド西部の大都市アハメダバードで同時多発爆弾により49名が死亡し、100名が負傷したばかりです。
また、今年に入ってかも、これまでに200名以上の人命がテロで失われていたところです。
ムンバイに関しては、テロが行われるようになったのは1993年からです。
同年3月、13回の爆発により、証券取引所、列車、ホテルで257名が死亡し、1,100名以上が負傷しました。これは、イスラム過激派が、ヒンズー至上主義者によるイスラム教徒虐殺への報復のために実施したテロでした。
2003年には、やはりイスラム過激派によって52名の人々が命を落としました。
そして2006年7月には、ラッシュアワーの通勤列車とプラットホームに爆弾がしかけられ、約209名の人々が命を落としました。下手人はパキスタンに本拠を置くイスラム過激派のラシュカル・イ・タイバ(Lashkar-i-Taiba)と北部インドを拠点とするインド学生イスラム運動(Students Islamic Movement of India)とされました。警察は、その背後にパキスタンの諜報機関がいるとしたけれど、パキスタン側はこれを否定しています。
このように頻発するテロについて、日曜日(23日)にマンモハン・シン・インド首相が、「私は時がわれわれの味方ではないことを強調せざるをえない」と警告を発したばかりでした。
ただし、その時に同首相が「最も深刻な内部的安全保障上の脅威」として名指ししたのは、インド全域の55%で暗躍し、これまで何千もの人命を奪っている、毛沢東主義のナクサライト(Naxalites)でしたが・・。
3 今回のテロが憂慮されるべき理由
今回のテロは、皮肉なことに、ザルダリ・パキスタン大統領が、インドに向けて共にテロと戦おうと呼びかけ、インドに対する核攻撃を行わないことを検討するとまで述べ、パキスタン史上かつてないほどインドとの関係改善に力を入れつつある時に起こりました。
そしてまさに今回のテロ当日、インドとパキスタンの役人達は会議を持ち、テロを終わらせるべく共に戦うとの共同声明を発したところだったのです。
2001年には、イスラム過激派がインドの国会議事堂を襲撃し、両国関係があわや戦争、というところまで緊迫した(コラム#9、10、14)ことを考えると時代の流れの速さにうたた感慨を覚えます。
今回のテロが憂慮されるのは、単に爆弾をしかけたとか、自爆したというのではなく、テロリスト達が、インドの警察や軍と(人質をとって)交戦したことです。
こんなことは、インドでのこれまでのイスラム過激派のテロではなかったことです。
インドは世界で最も人口の多い民主主義国家であり、すぐ近くのパキスタンやアフガニスタンと違って、いわゆる失敗国家(failed state)の範疇には全く属しません。
そんなところでこんなことが起こり、しかも欧米人、とりわけ英米人が標的になった、ということが欧米に大きなショックを与えています。
(以上、
http://edition.cnn.com/2008/WORLD/asiapcf/11/27/india.attacks/index.html、
http://www.guardian.co.uk/world/2008/nov/26/mumbai-terror-attacks-india、
http://www.guardian.co.uk/world/2008/nov/26/india-attacks-mumbai、
http://www.guardian.co.uk/world/2008/nov/26/india-attacks-mumbai-terror-security、
http://www.guardian.co.uk/world/2008/nov/26/india-attacks-timeline、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/11/26/AR2008112602472_pf.html、
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1862566,00.html、
http://edition.cnn.com/2008/WORLD/asiapcf/11/26/amanpour.mumbai/index.html、
http://www.asahi.com/international/update/1127/TKY200811270002.html
(いずれも11月27日アクセス)による。)
4 終わりに
日本人の犠牲者が出たとはいえ、日本人は標的にはなっていませんが、これは日本がイスラム過激派を対象とした対テロ戦争で英米のような主導的役割を果たしていないからでしょう。
果たしてこれを単純に喜んでいいのか、悩ましいところですね。
ムンバイでのテロ
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