太田述正コラム#14206(2024.5.11)
<松原晃『日本國防思想史』を読む(その15)>(2024.8.6公開)

 「・・・1840<年>の・・・12月<、>・・・高島秋帆の<9月の>献策が、長崎奉行・・・から、老中の水の越前守忠邦の元へ廻付されると、当時大目付の役にゐた鳥居耀蔵は、蘭学者の勢力を恐れてゐたので、・・・代々、鉄砲方<(注40)>をつとめ<てきた>・・・田附、井上<の両家>と相談して、反駁書を提出した。・・・

 (注40)「鉄砲の研究、整備および修理を行った。若年寄配下で、役料は200 – 300俵。砲術の教授、鉄砲の製作、保存、修理を主な任務とし、猪や狼の打ち払い、火付や盗賊の逮捕にもあたった。江戸時代初期は、4家がその任に就いたが、後に井上家および田付家の2家による、世襲制となった。
 井上家<は、>砲術家で鉄砲製造技術に長けた井上正継を祖とする、外記流砲術を持つ。代々、井上左太夫を名乗り、国産銃器を受け持つ。
 田付家<は、>田付流砲術により、徳川家康に召し抱えられる。輸入銃器(ほとんどがオランダ製)を受け持つ。・・・
 配下<に、>鉄砲方与力<として、>井上組、田付組に5名ずつ配属され、現米60石高。鉄砲方同心<として、>一組20人、30俵2人扶持。鉄砲磨同心<として、>田付組に所属し、定員12名、30俵2人扶持。幕府所蔵の鉄砲の全てを磨くことを役職とした。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%89%84%E7%A0%B2%E6%96%B9

 この・・・反駁を見て、更に、秋帆に味方して立つたのは江川太郎左衛門(注41)坦庵<(注42)>であつた。」(208、211)

(注41)「江川家は・・・始祖が清和源氏源経基の孫・源頼親である[とされて]いる。この頼親の血統は大和源氏と呼ばれ、初め宇野氏を名乗った。伊豆には平安末期に移住し、宇野治長が源頼朝の挙兵を助けた功で江川荘を安堵されたことにより、領域支配が確定した。その後鎌倉幕府・後北条氏など、その時代の支配者に仕えた。江川家と改めたのは室町時代のようである。
 天正18年(1590年)、豊臣秀吉による小田原征伐の際には、江川家28代英長は寝返って徳川家康に従い、代官に任ぜられた。以降江川家は、享保8年(1723年)- 宝暦8年(1758年)の間を除き、明治維新まで相模・伊豆・駿河・甲斐・武蔵の天領5万4千石分(後26万石に膨れ上がる)の代官として、民政に当たった。
 しかし幕臣としての身分は低く、世襲家禄は、譜代の正規の旗本ではないので僅か150俵(ほぼ150石と同義)取りであった。・・・
 <ここの江川太郎左衛門は、>江川英龍<のこと。>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E5%B7%9D%E5%A4%AA%E9%83%8E%E5%B7%A6%E8%A1%9B%E9%96%80
http://www2.harimaya.com/sengoku/html/egawa.html ([]内)
 (注42)江川英龍(ひでたつ。1801~1855年)。「洋学とりわけ近代的な海防の手法に強い関心を抱き、反射炉を築き、日本に西洋砲術を普及させた。地方の一代官であったが海防の建言を行い、勘定吟味役まで異例の昇進を重ね、幕閣入りを果たし、勘定奉行任命を目前に病死した。・・・
 英龍は屋敷近隣の金谷村の人を集め、日本で初めての西洋式軍隊を組織したとされる。今でも日本中で使われる「気をつけ」「右向け右」「回れ右」といった号令・掛け声は、その時に英龍が一般の者が使いやすいようにと親族の石井修三に頼んで西洋の文献から日本語に訳させたものである。・・・
 江川家の支配地域には武蔵国多摩も入っており、英龍が佐藤彦五郎のような在地の有力な名主たちと共に農兵政策や自警活動を勧めた為に、多摩の流派である天然理心流を学ぶものが増えそれが後の新撰組結成に繋がった。新撰組副長・土方歳三は義兄である佐藤彦五郎を通じて英龍の農兵構想を学んでいたと言われ、身分を問わない実力主義の新撰組は英龍の近代的な農兵構想の成果ともいえる。・・・
 開国前に海防論を唱えた高島秋帆や佐久間象山は、後にその誤りに気付いて開国・通商論に転じたが、英龍は死ぬまで頑迷な海防論者だった。・・・
 また兵糧として西洋式のパンを焼いたことから、現代では「パン祖(そ)」とも呼ばれる。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E5%B7%9D%E8%8B%B1%E9%BE%8D
 
⇒高島秋帆の高島氏も江川英龍の江川氏も天皇に繋がるところの、武家の名門(の可能性が大)ですが、インチキ源氏のなまくら流の徳川氏の被官として、秋帆も英龍も、その能力を全面的に発揮させてもらえなかった感があります。(太田)

(続く)