太田述正コラム#2961(2008.12.8)
<ムンバイでのテロ(続)(その4)>(2009.1.18公開)
英国人達の、かつての大英帝国海外領の華であったインド亜大陸への思い入れは、現在でも大変なものであります(注)が、ガーディアンの姉妹紙のオブザーバーの記者達は、何と自分達だけで、カサブ(前出)こと、本名モハメッド・アジュマル・アミール(Mohammed Ajmal Amir)が確かにパキスタンのファリドコットの住人であったことを現地に赴いて調べ上げました。
(注)・・・<インドの独立直後、>その父親がベンガル地方と深い関係のあったところのEP・トムソン(Thompson)は、インドは「世界の将来のために最も重要な国だ」と語っている。また、奇矯な生物学者のJBS・ハルデーン(Haldane)はネール時代のインドに移り住み、彼の新しい古里<となったインド>について、「考えられる世界組織のよりよい範例であり、仮に失敗に終わった(break up)としても、それが素晴らしい実験であったことに変わりはない」、と弁護にこれ努めた。・・・
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/dec/01/india-mumbai-terror-attacks
(12月1日アクセス)
パキスタンの諜報機関は、隠蔽工作に必死のようです。
「・・・我々<オブザーバーの記者達>がファリドコットを訪問した後、村長のワットゥーは、モスクのスピーカーから、よそ者には何もしゃべるなと呼びかけた。また、昨日までにパキスタンの諜報機関の役人達は大人数でファリドコットを訪れた。村民達に電話で聞いたところ、パキスタンのTV局の一行と米国人ジャーナリストが手荒な扱いを受け、村の外に逃げ出したということだった。我々の取材に対する巻き返しが始まっているようだ。・・・」
(以上、特に断っていない限り
http://www.guardian.co.uk/world/2008/dec/07/mumbai-terrorism-india-pakistan。121(12月7日アクセス)による。)
「・・・パキスタンの役人達は、近年において、同国の最も主要な諜報機関であるISI(Directorate of Inter-Services Intelligence=各軍共通諜報機関)は過激派のシンパを一掃したと主張している。
しかし、今からわずか4ヶ月前、米国の諜報機関の役人達は、ISIが、インドに係るもう一つの標的であるところのアフガニスタンの首都カブールのインド大使館を過激派が攻撃するのを支援したことをほのめかしている。・・・
ラスカレタイバの<パキスタンにおける>のあからさまなプレゼンスは、ラスカレタイバと活発な結びつきを維持していると米国の役人達が信じているところのジャマト・ウド・ダワー(Jamat-ud-DawahまたはJamaat-ud-Dawa)・・自称政治的宗教的運動体・・を通じてなされている。・・・
サイード(前出)は、今週<パキスタンの・・・>TVで、自分は軍事活動には関与していないと宣言した。しかし、彼は、その火のように語られる説教において、聖戦への信条を否定したことは一度たりともない。
パキスタン政府は、この63歳の元教授を引き渡せとのインドの要求に応じるつもりはないという姿勢を明らかにしている。」
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-lashkar5-2008dec05,0,6468797,print.story
(12月5日アクセス)
このジャマト・ウド・ダワーの本拠と目される「教育機関」が、ムンバイのテロ収束後、欧米のジャーナリストに公開されました。以下は、ガーディアンの記事です。
「・・・そのキャンパスは、<パキスタンのパンジャブ州の首都の>ラホールから自動車で1時間ほどの田舎のムリドケ(Muridke)にある。ここは、ムンバイのテロへの報復的軍事行動が<インドによって>行われる場合にはその標的となると目されている場所だ。・・・
記者会見と豪華な昼食がジャーナリスト達に提供された。しかし、<普通の学校教育をしている所だけは見せたけれど、>マドラッサ、モスク、及びその他の施設に<ジャーナリスト達が>立ち入ることは許されなかった。そして公式ツアーが終わると、メディアはすぐに歓迎されざる客扱いになった。・・・
私服の治安要員達が周りにいたことは確かだし、連中は「特別部門」・・これはパキスタンのISIを指す隠語だ・・のメンバー達だと誰かが言った。この連中は、我々がラホールに戻る際に武装護衛をつけようとした。しかし、どうして諜報要員がこんなところにいるのか、そしてどうして護衛が必要なのか、判然としなかった。ムリドケはパキスタンの中では危険な場所ではなかったからだ。結局、我々はこの申し出を謝絶した。・・・」
http://www.guardian.co.uk/world/2008/dec/05/mumbai-terror-attacks-school
(12月5日アクセス)
このようなパキスタンの態度に対し、インドは謀略的なゆさぶりをかけており、米国もその片棒を担いでいるようです。
「・・・パキスタン当局によれば、「脅迫的」電話が、何とプラナブ・ムケルジー(Pranab Mukherjee)インド外相からアシフ・ザルダリ・パキスタン大統領に11月28日の金曜日・・ムンバイのテロが始まって2日後・・にかけられたというのだ。その時点までに、インドはその商業首都<たるムンバイ>を襲ったテロリスト達全員がパキスタンからやってきたと宣言していた。
電話での激しいやりとりにより、ザルダリはインドがまもなく自国を攻撃すると思い込み、パキスタン軍に高レベルの警戒態勢をとらせた。
パキスタンは在来兵力で<インドに>劣っているので、軍事専門家達は、インドの攻撃があった場合は、パキスタンは核兵器で対抗することになるのではないかと見ている。・・・
パキスタン政府は、この電話はインド外務省の番号からかかってきたと主張している。
パキスタンのロンドン駐在のワジド・ハサン(Wajid Hasan)大使は、大統領府における、電話発信者のID検知システムが用いられてこの電話の発信源が確認されたと語った。「彼らがかけたんだ。これはウソ電ではない。心理戦争の手段だったのだ。彼らはパキスタンを怖がらせようとしており、我々の反応をテストしているのだ」と。
この電話でパキスタンがヒステリー症状をきたしているという話が、明らかにパキスタン政府が大混乱に陥っている様子を伝えるために、イスラマバードのインド大使館のブリーフィングでパキスタンのジャーナリスト達にリークされた。
パキスタンのシェリー・レーマン(Sherry Rehman)情報相は、先週末に、「パキスタン政府は、このように緊張が高まっている時に、メディアを汚い外交(negative diplomacy)に利用しようとするやり方を口を極めて非難した。・・・
米国の上院議員のジョン・マケインは、先週末にニューデリーからパキスタンに到着したが、彼はニューデリーでインドのマンモハン・シン首相と会ったところ、パキスタンのジャーナリスト達に対して、インドはパキスタンを航空攻撃する準備が整っていると語った。
また、ラホールでの幹部レポーター達との昼食会で、マケインは、インドの役人達がISIの要員達がムンバイのテロの計画と実行に関わった証拠があると伝えた、と語った。・・・
昨日、パキスタンの治安部隊が・・・ラスカレタイバの基地を急襲した。その地方の筋は、ロイター通信に対し、ヘリコプターでやってきた部隊がパキスタン側のカシミールの首都であるムザファラバードの郊外にあるこの基地を占領したと語った。・・・
http://www.guardian.co.uk/world/2008/dec/08/india-pakistan-mystery-telephone-call
(12月8日アクセス)
まさに、手に汗を握る、虚々実々のかけひきが、第一にインド、そしてインドに本件では荷担している米国、第二にパキスタン、そして第三にイスラム過激派、の三者の間で行われているわけです。いや、実際にはパキスタンも、それにイスラム過激派だって一枚岩ではないので、実態は更に複雑怪奇ですがね・・。
何しろ、インドもパキスタンも核保有国でもあるわけで、インドやパキスタンで首相や大統領を務めることは、それはそれは大変なことです。
そしてもちろん、世界中のもめ事に好むと好まざるとにかからわず関与している、核超大国米国の大統領を務めることはもっと大変なことです。
米国の属国なるがゆえに「平和」のうちに政局ごっこにあけくれてきた日本の政治屋達の劣化のもたらした悲喜劇を現在毎日のように見せつけられている日本の皆さん、いいかげんに目を覚まして日本を独立させようではありませんか。
(完)
ムンバイでのテロ(続)(その4)
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