太田述正コラム#14228(2024.5.22)
<和辻哲郎『日本の臣道 アメリカの国民性』を読む(その1)>(2024.8.17公開)

1 始めに

 前シリーズで取り上げた本ですが、残りの部分に紹介に値する箇所がなかったので、慌てて、キンドル版GHQ焚書シリーズで新シリーズに仕立てられそうな本を探したところ、表記を含む三冊のたたき売りをしていたので、3冊合計500円で購入し、そのうち最も面白そうな表記のシリーズをまずは取り上げることにしました。
 なお、表記の本は昭和18(1943)年に上梓されたもののようです。(4)

2 『日本の臣道 アメリカの国民性』を読む

 「・・・所謂鎌倉仏教を作り出した根本の力は武士の不惜身命の立場であります。・・・

⇒ご時世への和辻流のリップサービスなのでしょうが、それだけでは、庶民への鎌倉仏教の普及
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8E%8C%E5%80%89%E4%BB%8F%E6%95%99
の理由が抜け落ちてしまいます。
 私の言葉で言えば、物騒な当時の第一次弥生モードの社会を背景にして、仏教に、武士は人間主義の修復/維持手段を求め、庶民は不安感の軽減・解消を求めた、ということだと思います。(太田)

 <この>不惜身命の立場<から、>・・・日本の武士たちは剣の技術の極致を禅宗に於て体得したのであります。
 剣禅一致<(注1)>と云はれるのがそれであります。・・・」(6)

 (注1)「 沢庵和尚が「不動智神妙録」で説いた剣の境地。剣道の究極の境地は禅の無念無想の境地と同一であるという意。」
https://kotobank.jp/word/%E5%89%A3%E7%A6%85%E4%B8%80%E8%87%B4-258596
 「不動智神妙録<の>・・・沢庵宗彭<による>・・・執筆時期は諸説あるが、内容から見て寛永年間(1624年から1645年)であろうと推測される。別称を『不動智』、『剣術法語』、『神妙録』とも呼ばれ、原本は存在せず、・・・柳生宗矩・・・に与えられた書も、手紙か本か詳しい形式は判明していない。・・・
 <沢庵は、その中で、>「意識して動いている内は武人として未熟である」とした<が、この>考え方自体は、禅の思想の流入以前からあり、『闘戦経』内の「知りて知を有(たも)たず、虜(おもんばか)って虜を有たず。ひそかに識りて骨と化し、骨と化して識る」(知っただけでは忘れてしまうものであり、真に覚えるとは、ひそかに識って骨と化し、骨と化して識るものである)と記述しており、体に覚え込ませる(無意識に働かせる)思想がそれ以前からあることがわかる。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8D%E5%8B%95%E6%99%BA%E7%A5%9E%E5%A6%99%E9%8C%B2
 「闘戦経<(とうせんきょう)は、>・・・日本兵法研究会会長家村和幸は、時代的に見て<大江>匡房の作としている。従って、11世紀末か12世紀初め頃とみられる。・・・
 著された理由として、<支那>兵法書『孫子』における「兵は詭道なり(謀略などの騙し合いが要)」とした思想が日本の国風に合致せず(『闘戦経』の内容からも、知略ばかりに頼れば、裏目に出るとした考え方がうかがえる)、いずれこのままでは<支那>のような春秋戦国時代が訪れた際、国が危うくなるといった危惧から、精神面を説く必要が生じた為、『孫子』の補助的兵書として成立した旨が、『闘戦経』を納めた函(はこ)の金文に書かれている。金文を一部引用すると、「闘戦経は孫子と表裏す」とあり、『孫子』(戦略・戦術)を学ぶ将は『闘戦経』(兵としての精神・理念)も学ぶことが重要であるとした大江家の思想がうかがえる。・・・
 のちに、・・・大江家・・・41代大江時親は金剛山麓に館を構え、当地周辺の豪族に兵法を伝授するようになる。その中には、鎌倉幕府を倒し、足利家に立ち向かった名将楠木正成もいたとされる(当将は最期まで権威に従い、裏切らなかった)。建武中興(1334年)後、時親は安芸国へ行き、毛利家の始祖となる。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%97%98%E6%88%A6%E7%B5%8C

⇒あえて書きますが、戦略/戦術の重要性は当然として、『闘戦経』も『不動智神妙録』も、戦闘員の練度や精神を重視し過ぎているのであって、本来、兵器の選択、ひいては、兵器の改善、や、新兵器の開発、をより重視すべきなのです。
 『孫子』にはどちらも記述されていない(典拠省略)ではないか、との批判が予想されますが、それは、孫武が生きた支那の春秋戦国時代は熾烈な兵器の改善/開発競争が行われいて(典拠省略)それを孫武が所与のものとしていたためであり、彼が練度や精神を余り重視していない・・「孫子の兵法は、・・・戦いは正攻法で対面して、奇をもって勝ちます。勢に勝利を求めて人の能力に勝利を求めません。」
https://note.com/akko_iw/n/nf00196a286db
・・ことこそ我々は注目すべきでしょう。(太田)

(続く)