太田述正コラム#14433(2024.9.1)
<皆さんとディスカッション(続x6005)/映画評論118:ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬>

<HH>

 ・・・八幡市の講演会2回目が無事に終了し何よりです。お疲れ様でした。
実は南京事件についての仮説には異論がありましたが、すでに講演会直前でしたのでコメントせずにいましたが、やはり最後まで自分の疑問点については開陳しようと思い連絡いたします。
 私の違和感の根本的なところは、杉山たちが中共との提携を未来永劫秘密にする必然性があるものと考えていたのか、また杉山構想の推進母体は陸軍省か、にあります。中共との連携は戦時中は秘匿する必要があったでしょうが、蒋介石政権が打倒されて仕舞えば中共との提携を積極的に公表はしないまでも、遠からず中共政権との間で国交が始まるわけであり、そうなれば中共とは蒋介石政権と異なり本質的な敵対関係と日本国内外に宣伝していたわけではないので、後々、敵対関係を強調し続ける因子を巻き起こす必要はないのではないでしょうか。
 さらに太田説で杉山から教唆され実行犯とされた柳川平助ですが、それは彼が陸軍次官という地位にあったため杉山構想が開陳されたと太田さんは見ているのだと思います。しかしウキペディアを読む限りにおいて杉山構想が披露されるような能力・識見があったとも思えず、実際、東條英機暗殺計画に加担したり、内容が紹介されているわけではないですがウキペディアにあった柳川文書の紹介から察するに仕事で自分が重視されていないことを兄弟に愚痴るような性格です。階級も中将止まり。当然、それらは杉山にもわかっていたでしょうから、杉山構想の協力者たる能力の持ち主とは思えないのです。
 以前にもお伝えしましたが、やはり次官(を代表とするところの陸軍省)による杉山構想の継承は無理があると思います。まず人間の資質において次官となれば年次による順送りや人間関係の制約でどの省庁にも名次官とボンクラ次官が存在することは陸軍省においても免れないと思います。
 この次官間の口伝による杉山構想継承は、太田さんの役所における個人的経験として、戦後日米関係の特殊性を官邸、外務省、防衛庁は抱えており、その省庁のごく一部にのみそれは伝えられ続けて今に至るということが仮説の下敷きにあったのではないかと推察します。脱線になりますが、そもそも次官級ですとマスコミや政治家、他省庁との付き合い等から漏れる危険性もあるので、官邸で言えば首席参事官、外務省で言えば北米一課長、防衛庁で言えば防衛課長と言った課長クラスが担ってきたのではないかと想像したりしていますが、それはともかくとして、陸軍の場合、省部における参謀本部の優越も併せて考えると陸軍省にて杉山構想が推進されたと考えるのは苦しいのではないでしょうか。管見では参謀本部が一貫して陸軍の頭脳であり、その組織において杉山構想のほぼ全期間、総長の職にある人物、閑院宮戴仁親王が杉山、梅津の(恐らく貞明皇太后の意を受けて)後ろ盾になり、この3人を中心に方向性を定め、後から東條と阿南が加わり展開していったのではないかと考えるのはいかがでしょうか。
 さらに参謀本部が中枢であり、そのトップでもある閑院宮が総長として終始、杉山構想を支えていたと仮定すれば、貞明皇太后との意思疎通を誰が担ったかがより明確になります。いくら杉山が陸軍の実力者とはいえ、昭和天皇を差し置いて参謀次長や陸軍大臣が皇太后に内奏に頻繁に行うというのは目立ちますが、閑院宮であれば宮中関係者ということで貞明皇太后のところに定期的に参内しても誰も気に留めないと思われます。また陸軍内の人事でも時折、杉山が便宜的に最高幹部の立場から外れる時も出来レースで閑院宮が彼を外したように見せかけて、折を見て復帰するように計らっていたと考えると人事上も周囲に対して奇異な感を抱かせることはなかったのではないかと考えることができます。陸軍省は行政官庁、国会対策を中心として世論の喚起や予算を獲得し兵制を維持発展する組織であり大日本帝国=陸軍としての戦略を考える組織は参謀本部と考える方が無理がないように思います。ですからやはり南京事件自体は現地軍の独自行動と個人的には考えています。
 以上、帝国陸軍ー中共提携を秘密にしたいと杉山たちが考えたことと杉山構想が次官による口伝により継承されていったということが個人的には太田史観の修正点になるのではないかと思いますがいかがでしょうか。
 また以前に少し言及した中田力という脳科学者が執筆した東アジアにおける日本という弥生国家の起源を探った新書2部作をオフ会の時に持参します。15年ほど前の著作ですが、科学的視点からほぼ太田説の裏付けとなる弥生人の起源に関する推論と人間主義の存在への気づきが書かれていますので参考になれば、と思います。・・・

<太田>

 例えば、岩畔豪雄の、10年超にわたる1932年から1943年までの八面六臂の大活躍
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B2%A9%E7%95%94%E8%B1%AA%E9%9B%84
の背後に、この岩畔を含め、杉山構想概ね完遂過程で重用すべき左官クラスの選抜とあらあらの補任長期計画があったと考えざるを得ず、かかる長期計画を担保するには、陸軍省人事局長や補任課長に直接指示できる陸軍次官が杉山構想を開示されている必要がある、というのが、かねてから私が申し上げている理屈です。
 柳川平助は、二・二六事当時台湾軍司令官であったにもかかわらず、自ら予備役に編入されているのは、その後、招集されて第10軍司令官として南京事件・・但し、「一般人」に対する暴行陵虐部分のみ・・を惹き起こし(コラム#省略)、また、興亜院総務長官、司法大臣等を歴任しており、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%B3%E5%B7%9D%E5%B9%B3%E5%8A%A9
外野から杉山構想概ね完遂に貢献するという役割を杉山元らから負わされた人物だった、というのが私の見方です。
 柳川の興亜院総務長官就任時には、陸軍次官が大臣の板垣征四郎の了解を取り付けた筈です。
 司法大臣就任等の時の陸相は東條ですから、そんな必要はなかったでしょうが・・。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%99%B8%E8%BB%8D%E5%A4%A7%E8%87%A3
 (岩畔と柳川の「補任」人事の大部分は参謀本部の埒外の職位に係るものです。
 また、先の大戦は、総動員/総力戦体制で戦われた以上、かつまた、参謀本部の所管はその全体に関わったところの帝国陸軍、の一部に過ぎなかったことに加え、参謀本部や部隊司令官の人事ですら、参謀本部は陸軍省との調整権限しかなかった以上、なるほど、格においてこそ、参謀本部>陸軍省、だったけれど、本部(具体的には参謀総長)が省(具体的には陸相)を指導できるのは基本方針中の基本に関してのみであり、具体的な方針立案と遂行は狭義の軍事事項を除き、ことごとく省が行った筈ですからね。)
 柳川の東條内閣倒閣運動や終戦工作については、前者は、杉山構想概ね完遂(終戦)まで首相/陸相/参謀総長を続けるつもりになっていた東條に対し杉山元らが間接的に引導を渡すためであり、後者は、杉山元らが、柳川を終戦後の首相として、吉田茂と共にその有力候補としての「資格」を与えるためだった・・前者にもその「資格」づくりの側面がある・・、と、見ることが可能です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%B3%E5%B7%9D%E5%B9%B3%E5%8A%A9 ←事実関係
 なお、南京事件の惹起は、杉山構想の概ね完遂ならぬ完全完遂のための不可欠な工作だった、というのが私見である(コラム#省略)ことはご承知の通りです。
 (その南京事件の張本人が、本来、終戦後、日本で首相が務められるわけがない以上、想定されていたのは、終戦直後の首相だったのではないでしょうか。
 柳川は、東久邇宮稔彦王よりは適任だったことでしょうが、それまでに亡くなってしまいました。)

<太田>

 安倍問題/防衛費増。↓

 なし。

 ウクライナ問題。↓

 <あっらー。↓>
 Kursk Invasion Map Reveals Where Russia Has Recaptured Territory・・・
https://www.newsweek.com/kursk-invasion-incursion-map-updates-russia-1946665

 ガザ戦争。↓

 本項の店仕舞いいつすべきかなあ。

 それでは、その他の国内記事の紹介です。↓

 ブラボー!↓

 「ド軍指揮官 史上初43―43達成の大谷翔平を称賛「インクレディブル!もうこれ以上最上級の言葉はない」・・・」
https://news.yahoo.co.jp/articles/01e55c6c698de54fd5adc7ad0e9514e902c28ed7

 そりゃ、そうでしょ。
 同じ頃に決行された、大陸打通作戦、もそうだけどね。↓

 「・・・インパール作戦は、戦後の日本で酷評される一方、平成25(2013)年に英国立陸軍博物館の企画で歴史家たちにより、ノルマンディー上陸作戦やワーテルローの戦いを抑えて「グレイテスト・バトル」に選ばれている(笠井亮平『インパールの戦い』文藝春秋)。・・・」
https://news.yahoo.co.jp/articles/2e675d04d9bbef18412c4314fff7e08a0369dd8b

 日・文カルト問題。↓

 <お盛んですのー。↓>
 「・・・ディープフェイクわいせつ物の撮影対象者のうち53%が韓国人だったとのことだ。2番目に多かった米国(20%)に比べ、被害者数が2倍以上だった。以下、日本10%、英国6%、中国3%、インド2%、台22%、イスラエル1%の順だったという。・・・」
https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2024/08/31/2024083180015.html
 <日韓交流人士モノ。↓>
 「日本の人気ユニットYOASOBI 12月に来韓公演 ・・・」
https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2024/08/31/2024083180034.html
 <本件に限らず、大統領はよくやってるぞー。↓>
 「尹大統領が・・・「日韓の輸出額の差は08年に3600億ドル(約52兆円)に達し、21年にも1000億ドルを上回っていたが、それがわずか3年で日本にほぼ追いつき、いまや世界輸出5大強国を視野に入れている」「米格付け会社S&Pは26年の韓国の1人当たりGDP(国内総生産)が4万ドルを超えると予想している」などと強調したという。
この記事を見た韓国のネットユーザーからは「尹大統領はよくやっている」「尹大統領を応援します」などと支持する声が上がっている。
 一方で「大統領1人だけ違う国に住んでいるのかな」「仮面をかぶって地方の小都市や中小都市の市場に行って聞いてみたら?今の暮らしはどうなのか…」「自画自賛が得意なのは文在寅(ムン・ジェイン)前大統領だけではなかったみたい」「他の人が大統領なら経済がもっと良くなっていただろうに」など冷ややかな声も見られた。・・・韓国メディア・韓国経済・・・」
https://www.recordchina.co.jp/b939686-s39-c20-d0191.html
 <初めてのことじゃない筈だぜ。↓>
 「韓国・OBSは「独島への不当な領有権主張を強化している日本防衛当局が最近、韓国国防部に独島防衛訓練を今後一切行わないよう求めていたことが分かった」と伝えた。・・・
 この記事を見た韓国のネットユーザーからは「韓国を完全に属国扱いしている発言」「それで尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領はなんて答えたの?」「日本の言うことなら何でも聞くのでは?」「今ならいけそうと思ったからそんなとんでもないことを言うのだろう。そして今の政権では日本の読み通りになりそう」「尹政権が終わる頃、独島は韓国領でなくなっているのではないかと本気で心配」「独島が危ない。防衛訓練を毎日するべきだ」「もし日本の要求を受け入れたら、国民は大統領府に押しかけるしかない」などの声が上がっている。」
https://www.recordchina.co.jp/b939708-s39-c100-d0191.html
 <ご愛顧に感謝。↓>
 「・・・韓国歌謡を含むジャンル別の鑑賞比率では、J-POPが1.2%でジャズ(0.6%)とクラシック(0.7%)を上回った。18年の時点ではJ-POPの割合はわずか0.4%だった。・・・」
https://www.recordchina.co.jp/b939617-s39-c100-d0059.html

 中共官民の日本礼賛(日本文明総体継受)記事群だ。↓

 <ご愛顧に深謝。↓>
 「トヨタ燃料電池プロジェクト、北京で操業開始・・・」
https://www.recordchina.co.jp/b939715-s12-c20-d0189.html
 <日中交流人士モノ。↓>
 「福原愛さん、中国卓球選手のスゴ技に挑戦も「反則技」に「顔面ヒット」で失敗・・・中国のSNS・微博(ウェイボー)・・・」
https://www.recordchina.co.jp/b939683-s25-c50-d0052.html
 <旭日模様は毛沢東/中共が大好きなのを知らないの? ま、「健全」は反応も多いようで結構だが・・。↓>
 「・・・中国のSNS・微博(ウェイボー)で160万超のフォロワーを持つブロガーが「外国人観光客が日本の旭日旗Tシャツを着て中国の観光地で中国人の心情を害した!注意されても気にしていないようで、これは挑発しに来たのか?」とつづりこの動画を投稿すると、中国のネットユーザーからは賛否の声が上がった。
多いのは「自分に自信がないから敏感になるんだ」「何を着るかは本人の自由」「文句があるなら着替えの服を買ってあげな(笑)」「外国人が何を着るか、あんたが決めることか?」「外国人が中国と日本の歴史なんて知らない。遠くから中国に来てくれたのに、小さいことで騒ぐな」「問題にしたいなら禁止する法律をつくればいいだろう」などの声だが、「欧米でナチスの旗のTシャツを着てみろ」「(擁護する人を指して)売国奴め」「国外追放すべき」といった反論も寄せられている。」
https://www.recordchina.co.jp/b939700-s25-c30-d0052.html
 <メッ。↓>
 「日本で窃盗、中国籍の女2人逮捕=中国ネット「パンダが風評被害」「キャッツ・アイもお怒り」・・・中国のSNS微博・・・」
https://www.recordchina.co.jp/b939678-s25-c30-d0193.html
 <ホンダを評価していいのやら?↓>
 「中国日系企業の商標保有数ランキング、ホンダが1位に・・・」

https://www.recordchina.co.jp/b939701-s25-c20-d0190.html

      映画評論118:ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬

 「始皇帝 天下統一」が、秦による天下統一時点で完結してしまったので、時間が空き、Prime Videoで、表記映画(原題:Johnny English Reborn。2011年)が数時間後に無料で見られなくなるという表示が出ていたので、視聴して時間をつぶすことにした。
 結論から言うと失敗作であり、主人公であるイングリッシュを演じた喜劇俳優のローワン・アトキンソ(Rowan Atkinson)がドタバタ・アクション喜劇を演じたというだけの感想だ。
 ところで、この映画の邦語ウィキペディアの、当時、「MI7は東芝に買収されてしま<っていた>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5_%E6%B0%97%E4%BC%91%E3%82%81%E3%81%AE%E5%A0%B1%E9%85%AC α
、というくだりは恐らく間違いであり、単に命名権を東芝に売った、という設定ではなかろうか。
 ちなみに、英語ウィキペディアには、そもそも、この件への言及がない。
https://en.wikipedia.org/wiki/Johnny_English_Reborn β
 いずれにせよ、こういった風刺は、2011年当時においては、まだ、日本が、世界において、光芒を完全には失っていなかったことを象徴している。
 当時、東芝も、まだ表見的には健在だった・・粉飾決算事件が発覚したのは2014年だ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E8%8A%9D
・・ことが思い起こされる。
 なお、主人公が汚名挽回のための厳しい訓練を受けたのがチベットで、主人公が守ろうとした対象が中共の首相で、かつまた、主人公の最大の敵が支那人の老婆で、という具合に、中共の影が一貫してこの映画を支配していた(α、β)ことも印象的だ。
 これは、裏返せば、ロシアの影が当時、完全に薄れていたことも意味する。
 (ウクライナ戦争が事実上始まったのは、ロシアがクリミア半島を編入した2014年だ。)
https://ja.wikipedia.org/wiki/2022%E5%B9%B4%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%81%AE%E3%82%A6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%8A%E4%BE%B5%E6%94%BB 

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太田述正コラム#14434(2024.9.1)
<映画評論117:始皇帝 天下統一(後半)(その6)>

→非公開