太田述正コラム#2971(2008.12.13)
<セックス中毒(その1)>(2009.1.28公開)
1 始めに
 英米の高級紙にたびたび登場するけれど、日本の主要メディアでは、まずお目にかかったことがないのがセックス中毒(sex addiction)についての記事です。
 お隣の韓国では、朝鮮日報がセックス中毒の一種であるポルノ依存症についての記事を掲げたことがあります
http://english.chosun.com/w21data/html/news/200810/200810250002.html
(10月25日アクセス)が、日本の記事としては、セックス中毒の婉曲的表現とも言うべき恋愛中毒についてのダイヤモンド誌の記事
http://news.goo.ne.jp/article/diamond/life/2008121204-diamond.html  
(12月12日アクセス)くらいのものです。
 日本人はセックス中毒から目を背けている、と言えるのかもしれません。
 それでは、英米でどのような議論が行われているのか、ご紹介しましょう。
2 セックス中毒について英米での最新の学説
 セックス中毒は、「通常の生活の妨げとなり、家族、友人、愛する人、及び本人の仕事環境に強度のストレスを及ぼすところの、あらゆるセックスに関連する強迫的行動」と定義される。・・・
 中毒者は、インターネット・ポルノに何時間も耽ったり、不倫をしたり、犯罪的なセックス行動をとったりすることを止めると誓ってもその誓いを守れない。・・・
 <もっとも、健康専門家の中には、中毒の対象が自分自身だというのでは、病気とは言えない、とする者がいる。>
 セックス中毒は<今のところ米国の精神障害マニュアルでは障害の中に挙げられてないが、2012年に予定されている次の版で挙げるかどうか、現在検討がなされている。>・・・
 オーガスムの際には、アルコールを摂取した時と同様、薬物であるところの、大脳内で快楽を引き起こすドーパミン(dopamine)が分泌される・・・ので、セックス中毒は薬物中毒であると見ることも可能だ。・・・
http://www.nytimes.com/2008/09/07/fashion/07sex.html?_r=3&oref=slogin&ref=fashion&pagewanted=print
(10月1日アクセス)
 ・・・人はセックスだろうが、例えば食事、買い物、ギャンブル、メールだろうが、どんな行動にだって「中毒」になりうるとの考え方が、この四分の一世紀の間に次第に科学者の間で多数を占めつつある。・・・
 1973年に大脳内で麻薬受容器が発見され、我々の通常の快楽的反応は、薬物でハイになっている状況の縮小版といった感じのものであることがはっきりした。
 逆に言うと、ヘロインやモルヒネは、我々の大脳の薬物まがいの働きがあり、中脳辺縁系神経路(mesolimbic pathway)を過度に刺激するのだ。・・・
 仮に、食事をすることやセックスをすることが、ヘロイン、モルヒネやコカインと同様に快楽中枢を活性化するのだとすれば、かかる行動が繰り返されることによって依存症になりうるとみなすところまではほんの一歩だ。・・・
 「セックス中毒」という言葉が最初に医学誌に登場したのは1978年だ。・・・
 ポルノは何人かの心理学者によって「エロトトキシン」と形容されるようになった。それは神経伝達物資(neurotransmitter)とホルモンからなる中毒性カクテルの分泌を促すというわけだ。・・・
 一部には、中毒は神経障害と自由意思の中間的なものであるという通俗的な考え方があるが、・・・そうではあるまい。
 ・・・健康な大脳は不健康な衝動や欲望をかわすことができるけれど、大脳が機能不全を起こすと、我々は衝動的行動を押さえ込む能力を失う、と考えるべきなのだ。・・・
http://www.slate.com/id/2201172/
(10月1日アクセス)
3 英米におけるセックス中毒の状況
 米国の著名人であるラッセル・ブランドとデーヴィッド・ドゥチョヴニー(David Duchovny)が相次いでセックス中毒の治療を受けるためにリハビリセンターに入所したことで、セックス中毒が脚光を浴びることになった。・・・
 セックス中毒は英国の男性の間で大きな問題になりつつある。
 我々が接触したセックス・セラピストの80%が、男性でセックス中毒で助けを求める人の数が増えていると言っている。
 米国では現在8つ以上のクリニックがこの障害で苦しむ人々に対して専門的な治療を行っている。・・・
 米国でのセックス中毒者の80%は男性だ。・・・
 米国人の3~5%がこの障害で苦しんでいる。
 彼らの行動は強迫的にオンライン・ポルノを見たりから、あらゆる機会をとらえて売春婦(夫)の所に行ったりまで多岐にわたる。・・・
 中毒者の多くは児童虐待ないし問題のある養育といった複雑な過去を背負っていることから、トラウマの治療が必要だと思っている。・・・
 <治療者の一人>は、「セックス中毒が結構なこと(glamorous)だと思ったことはない」と言う。
 「私が治療をしている中毒者はしばしば、自分達は決して気持ちいいと思っていないことにふけっている、と語っている。」
 「彼らは、自分達が赴く場所や自分達がとる行動に関して自分達自身を憎んでいる・・・。」・・・
 <リハビリ・センターへの入所には>2万英ポンド前後の費用がかかり、何週間も入所しなければならない・・・。
http://news.bbc.co.uk/newsbeat/hi/health/newsid_7771000/7771758.stm  
(12月10日アクセス)
http://news.bbc.co.uk/newsbeat/hi/health/newsid_7774000/7774735.stm  
(12月11日アクセス)も同工異曲の記事だ。)
(続く)