太田述正コラム#2998(2008.12.27)
<ソマリアの海賊とドイツ(その1)>(2009.2.7公開)
1 始めに
「・・・アフリカ東部ソマリア沖でEUの巡視作戦に参加しているドイツ海軍フリゲート艦が、海賊船を撃退した・・・。
・・・25日午前、アデン湾で海賊の襲撃を受けたエジプト船籍の貨物船が、EU部隊に救援を要請。急行したドイツ艦が、艦載ヘリからの威嚇発砲で海賊船を制止し、船舶検査で武器などを押収した。エジプト船の乗組員1人が海賊の銃撃で脚を負傷した。
EUは、今月13日から英国やギリシャなどの艦船5~6隻をソマリア海域に派遣し、巡視や商船警護にあたっている。10月から同海域に展開していた北大西洋条約機構(NATO)部隊の任務を引き継いだ。」
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/world/20081227-567-OYT1T00309.html
(12月27日アクセス。以下同じ)
海上自衛隊の護衛艦を海賊対策で同海域に送る話が出ている折から、ここに至るまでの話を、ドイツのシュピーゲル誌(英訳版)の記事によって整理しておきましょう。
2 注意書き
「・・・EUの<この>「アタランタ作戦(Operation Atalanta)」は、・・・アフリカの角(Horn)沖海域の海賊対策で哨戒するだけではなく、ソマリア向けの国連の援助<物資を積んだ>船舶を護衛するためのものでもある。
NATO同盟は、アデン湾においてより広範な作戦に従事しつつEUと密接に協働する約束になっている。ロシアも欧米諸国の海軍と密接な調整を行う意向を表明している。・・・」
3 ドイツでの議論
「・・・ドイツ海軍が警察力としての任務を果たし、海賊を捕まえることができるかどうか、ドイツ政府は検討<を行った。>・・・、
ドイツ政府が20年前に批准した海洋法条約に、海賊と戦う国際的義務が明記されており、ドイツはこの条約によって上記権限が既に与えられているとする議論もあった。
しかし、・・・ドイツ法においては、軍人ではなく警察官だけが犯罪者を逮捕できるとしており、第二次世界大戦後に同盟諸国の助言を踏まえて制定されたドイツ憲法は、ドイツが軍法(martial law)の世界に逆戻りしないよう、警察官の任務と軍人の任務とを明確に分離している、<とする声もあった。>・・・」
http://www.spiegel.de/international/world/0,1518,594457,00.html
4 ソマリア沖の海賊の実態
「・・・国連安全保障理事会が全会一致で、ソマリアの海賊と戦うため、陸上での攻撃を含め、「あらゆる必要な措置」を加盟国に認める決議を採択した日の次の日に、ドイツ政府は、ソマリアの海岸上で海賊を追いかけるためにドイツの部隊を派遣するつもりはないと表明し 17日に連邦議会は、・・・アタランタ作戦へのドイツ軍の参加・・・に関する公聴会を開いた。そして19日には・・・最大1,400名の部隊と巡洋艦1隻を派遣することを認める議決を行<った。>
ドイツ軍の海外派遣には、すべて連邦議会の承認が求められている。・・・
・・・<もちろん、>海賊をどのように攻撃するかを決める時は、「比例原則」を遵守しなければならない。・・・
・・・<なお、海賊に対して>陸上攻撃を行った場合の「コラテラル・ダメージ」は大きなものになる。というのは、海賊は「制服を着用しておらず、」見分けるのが困難だからだ。・・・
国連事務総長・・・は、ソマリア政府を支えてきたエチオピア軍が撤退を開始する今月末にはソマリアが「混沌」へと堕ちていく可能性があると警告した。
それでもなお、彼は、国連が安定をもたらすためにソマリアに平和維持軍を派遣すべきだとしたコンドリーザ・ライス米国務長官の示唆を拒否した。同国の状況は余りにも危険すぎるというのだ。その代わり彼は、この地域の安全を確保することができていないアフリカ連合(African Union)軍に安保理事会がもっと資金を提供することを希望している。・・・
結局のところ、ソマリアの海賊は2008年には大成功を収めた。
国連の推計によれば、身代金を1億2,000万米ドルもせしめたという。
これは、100回超攻撃し、うち60回超乗っ取りに成功するという、史上最高の戦果によってもたらされたものだ。・・・」
http://www.spiegel.de/international/world/0,1518,596990,00.html
5 現状
「・・・ソマリア沖で活動しているEUの艦船は海賊を追い払ったり捕らえたりすることが認められているだけではない。海賊船を撃沈することだってできるのだ。・・・
<ただし、>・・・EUの任務に係る戦闘規則の詳細は明らかにされていない。
ドイツの連邦議員達は、・・・これを、最高機密文書を見るために設けられた議会内の特別室で見ることが許された。
EUの任務は、NATOが任務として実施してきた提供者同盟作戦(Operation Allied Provider)がやり残したものを引き継いだ。NATOがやっていたのは、ソマリアへの援助物資を積んだ船舶に海賊が手を出さないように護衛することだったが、これだけでは、アフリカの角海域における大胆不敵な攻撃が増える一方だったのを減らすことにはほとんどならなかった。
現在、同海域において活動しているのは、EUの艦船のほか、米国、ドイツ、デンマークの対テロ任務を実施している軍艦だ。その他の国も同海域に軍艦を派遣している。EUの任務は2009年末まで続けられる予定だ。・・・
ソマリア沖の沿岸に沿っている航路を、世界の海上貿易の12%、石油貿易の30%を通過している。・・・
「我々が現在持っている情報の水準では、<海賊に対する>陸上での作戦を行うことはできない」とゲーツ<米国防長官>は・・・語っている。・・・」
http://www.spiegel.de/international/world/0,1518,596458,00.html
(続く)
ソマリアの海賊とドイツ(その1)
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