太田述正コラム#3004(2008.12.30)
<イスラエルのガザ攻撃(その3)>(2009.2.11公開)
そろそろ、ガーディアンとハーレツ以外のメディアも登場させましょう。
7 追い詰められていたイスラエルとハマス
(1)追い詰められていたイスラエル
「・・・<イスラエルは、1967年の第三次中東戦争前夜のように追い詰められた状況にあった。そんなバカなとお思いになるかもしれない。というのは、>1967年にはイスラエルには約200万人のユダヤ人しかいなかったのに<2009年の>現在では約550万人もいるし、イスラエル軍は<1967年当時には持っていなかった>核兵器まで持っているからだ。
実は、二つの一般的原因と4つの特殊要因が今あるのだ。
一般的原因は単純なものだ。
第一に、アラブ世界、及びそれより広いイスラム世界は、イスラエルの1948年以来の願いにもかかわらず、かつまたイスラエルとエジプトとヨルダンとの間で平和条約がそれぞれ1979年と1994年に結ばれたというのに、イスラエルの生誕の正当性を決して真の意味では受け入れておらず、引き続きその存続に反対していることだ。
第二に、欧米における世論(民主主義であることから、それぞれの政府の考えもほぼ同じ)が、イスラエルによる、その隣人たるパレスティナ人やパレスティナ地区の扱いを胡散臭い思いで見つめるようになるにつれて、イスラエルへの支持の度合いを徐々に減じつつあることだ。ホロコーストは加速度的にかすかでぼやけた記憶となる一方でアラブ諸国は加速度的に強力かつ声高になりつつあるからだ。
<次に4つの特殊要因だ。>
東からはイランが、核計画を一心不乱に推進している。・・・しかも、イランの大統領のマームード・アフマディネジャドはイスラエルを滅ぼすと公言しているときている・・・。
北からはヒズボラが、シリアとイランから供給されたところの、3万から4万のロシア製のロケットを保持している。これは2006年の戦争前の保持数の2倍だ。・・・
南からは、イスラエルはイスラム原理主義のハマスに直面している・・・。
イスラエルの存続に対する4番目の<特殊要因たる>直接的脅威は内部からのものだ。
それは、同国のアラブ人たる少数民族による脅威だ。
この20年間、イスラエルの130万人のアラブ人市民は次第に急進化してきた。そして彼らの多くはパレスティナ人としてのアイデンティティを口にし、パレスティナの民族的目標を支持するに至っている。しかも、このままの趨勢が続けば、2040年か2050年までにはアラブ人はイスラエルで多数派になってしまう。
というのは、イスラエルのアラブ人の出生率は世界で最も高い部類に属・・・すからだ。既に、5年ないし10年以内には、パレスティナ人(イスラエルのアラブ人プラス西岸及びガザ地峡に住むそれ)はパレスティナ(ヨルダン川と地中海の間の地域)の人口の多数を占めるに至ることだろう。・・・
これらの特殊要因に共通するのは、それら脅威が<通常の軍隊による脅威とは違った>非在来型のものであることだ。
・・・これらの脅威に対しては、イスラエルの指導者達と公衆が、欧米の民主主義的かつ自由主義的な行為規範に縛られているだけに、とりわけ対抗することが困難に思えるわけだ。・・・」
http://www.nytimes.com/2008/12/30/opinion/30morris.html?ref=opinion&pagewanted=print
(12月30日アクセス)
(2)追い詰められていたハマス
「・・・<ハマスは、この>11月に<更に追い詰められることになった。というのは、>エジプトによる、周到に練られたファタとの民族的和解努力が、最後の瞬間に、ハマスの指導者達がカイロに来なかったために失敗に帰したからだ。
ハマスがこのエジプトを交えたファタとの会議をすっぽかしたことで、エジプトは頭に来たし、エジプト以外のアラブ諸国の指導者達もハマスを公然と叱った。・・・<何と>ハマスは、自分達の指導者にパレスティナ当局の議長と対等な席を要求した上、西岸で投獄されているハマス要員達の解放を要求したのだ。パレスティナの有識者達は、ハマスの和解交渉の拒否は、PLO<(ファタ)>が新たな議長並びに議会選挙を求めているのを回避するためだと指摘している。
・・・世論調査によれば、パレスティナ人の大部分が交渉の失敗はハマスのせいだとしている。・・・すなわち、失敗の責任がもっぱらハマスにあるとする者は35.3%、ファタだとする者は17.9%、また、12.3%が双方に責任があるとしている。・・・
そして、・・・ハマス支持はわずかに16.6%、ファタ支持は40%近くに達した。・・・
その1年前には、同じ世論調査で、ハマス支持は19.7%あった。2007年8月には21.6%だった。2007年3月には25.2%だった。2006年9月には・・実に29.7%もあったのだ。・・・」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/12/29/AR2008122901901_pf.html
(12月30日アクセス)
「・・・ハマスは、ガザの、一層強硬な、イスラム聖戦といった過激派からの突き上げをくらっていた。この連中は、そもそもイスラエルとの停戦に最初から反対しており、暴力の再開を主張していた。・・・停戦の最終の数週間は、イスラエルもハマスも停戦違反を犯すようになった。最初に停戦違反をやったのはイスラエルだった。11月の米国の大統領選挙の夜にハマス要員を何人か空爆で殺害したのだ。・・・」
http://www.guardian.co.uk/world/2008/dec/29/hamas-cease-fire-gaza-bombings
(12月29日アクセス)
このようにハマスの支持率が一貫して低下してきたのには、次のような事情があります。
「・・・ここ数年、イスラエルが行ってきたガザ地峡への厳しい経済封鎖・・輸入は人道支援物資のみで輸出は全面禁止・・により、私的産業は一掃されてしまい、ガザ経済は崩壊した。・・・」
http://www.guardian.co.uk/world/2008/dec/29/israel-gaza-military-strategy
(12月30日アクセス)
「停電が毎日12時間近く起こり、薬品の20%は在庫切れであり、医療機器は部品不足で使用不可能となり、薬局には基本的な薬品がなく、医師達は患者を何ヶ月も断り続けてきた。・・・」
http://www.guardian.co.uk/world/2008/dec/29/gaza-hospitals-crisis
(12月29日アクセス)
「<ガザから>地中海へは狭い開口部にある漁港にしかアクセスできない。沿岸はイスラエルの武装舟艇によって警備され封鎖されている。・・・
「繁栄も発展もないが、人道的危機もない」<のがガザの現状だ。>・・・
ガザの住民の2人に1人は貧困生活を送っている。援助は断続的にしか届いていない。・・・封鎖はガザを密輸トンネル(ハマスが税金をかけている)に依存せしめた。このことが従来のガザ経済を破壊しつつある。トンネルを通じて密輸入される必需商品のインフレはすさまじく、これがハマスに落ちるカネを一層増やしつつある。・・・」
http://www.guardian.co.uk/world/2008/dec/27/israelandthepalestinians-terrorism
(12月28日アクセス)
「・・・ガザ住民の60%は、発電所を動かす燃料がないため、水道水を5日から7日おきにしかもらえない。
下水処理工場も活動を停止しており、地中海にそのまま流される下水の量が2倍に増え、1日4,000万リットルに達している。・・・」
http://www.guardian.co.uk/world/2008/dec/27/israel-nationalism-beiteinu-likud-gaza上掲
(12月28日アクセス)
「・・・<こういうわけで、>ハマスは経済封鎖で裨益している面がある。密輸品に「税金」をかけ、そのカネ<の一部>で住民に福祉サービスを提供しているわけだ。・・・」
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/dec/28/israel-palestine-middle-east-gaza
(12月28日アクセス)
(続く)
イスラエルのガザ攻撃(その3)
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