太田述正コラム#3012(2009.1.3)
<イスラエルのガザ攻撃(続々)(その2)>(2009.2.15公開)
3 イスラエルの周到な広報戦略
「・・・2006年のレバノンでの戦争の反省を踏まえた勧告を受けて、<イスラエルで>8ヶ月前に国家広報局(National Information Directorate)が設立された。その役割は、hasbara・・ヘブライ語で「説明」という意味であり、広報(information)、ねじ曲げ(spin)、あるいはプロパガンダ、がらみで用いられる・・の実施とされている。・・・
イスラエル外務省が<各種>国際放送メディアの8時間にわたる放送内容を対象に分析したところ、イスラエルの代表達は58分間の放送時間を与えられていたのに対し、パレスティナの代表達はわずか19分間しか放送時間を与えられていなかった。・・・
<ちなみに、>イスラエルのメディア攻勢の最大の課題は、戦争下のガザの悲惨な映像の放送にどう対処するかだった。・・・」
http://www.guardian.co.uk/world/2009/jan/02/israel-palestine-pr-spin
(1月2日アクセス。以下同じ)
「・・・空爆に加えて、「鉛投げ(Cast Lead)」作戦<(コラム#3000)>の一環として、イスラエルはアラブの衛星TVチャンネルを「征服」する<上記>作戦を実施している。
この攻勢の尖兵となっているのが、イスラエルの軍や外務省のアラビア語の使い手達だ。これに政府首脳達の<英語による>努力が更に加わっている。・・・
<アルジャジーラに出演したイスラエル軍広報官は、>どうしてこのカタールを本拠とするTVチャンネルが、過去7年間にわたる<ガザからの>無差別的なロケット発射が境界のイスラエル側にいる一般住民に与えている苦痛の映像を流したことがないのはどうしてなのか、と聞き返した。
アルジャジーラは、ガザ地峡からの生々しい映像をいつものように放送しているというのに。・・・
また、イスラエル外務省のアラブ・メディア課長・・・は、ロシアのアラビア語のチャンネル・・・でのインタビューで、「この作戦はヒズボラに対する戦いで失われたイスラエル軍の栄光を取り戻すためではないか」と聞かれ、これに異議を唱え、「我々の軍はプロの軍隊だ。我々は勢い(momentum)いかんによって左右されるような存在ではない。勢いは重要だが決定的なものではない。ハマスに対する我々の作戦はそんなためではない」と答えた。・・・
<イスラエルの>保安相(Public Security Ministe)・・・と・・・准将もアラブのメディアに出た。二人ともアルジャジーラに出て、くだけた話し言葉のアラビア語で同チャンネルの視聴者達に語りかけた。こんな語り口は、アラブのメディア・チャンネルでは前代未聞のことだ。
他のイスラエルの役人達は英語でアラブのメディアに語りかけたが、画面にアラビア語の翻訳をテロップで流した。・・・」
http://www.haaretz.com/hasen/spages/1051981.html
4 イスラエルのガザ一般市民の死傷者数最小化努力(付:ラヤンについての補足)
「・・・イスラエル軍は、一般市民の死傷者数を減らすための新しい戦術を明らかにした。<ガザの>住民に攻撃から逃げるために、標的にされる前に電話をかけるというやり方だ。
パレスティナ人達によれば、電話がかかってきて録音の声で、武器やロケットを保管していることが分かった家は、持ち主がその責任を問われて苦痛を被ることになると警告する場合があるという。
イスラエル軍は、音だけの爆弾を用いて、家を爆撃する前に一般住民に警告することもやっている。
また、イスラエル軍は、彼らが「屋根叩き」作戦と呼んでいることもやっている。10分の猶予を与えるから嫌疑のかけられた建物から退去せよと通報するわけだ。
嫌疑のかけられた家の住人達は、屋根に上って自分達が退去しないことを示し、イスラエル軍の司令官達に爆撃を止めさせるよう促し、爆撃を止めさせることができたケースもある。
<あるイスラエルのTV局の報道によれば、>イスラエル軍は、時々、比較的無害のミサイルを屋根の端に撃ち込み、死傷者は出さないけれど、中にいる人々を退散させることがあるともいう。
この「屋根叩き」方式がハマスの指導者であるニザル・ラヤン(Nizar Ghayanと綴ることもあるようだ(太田)。)を1月1日に暗殺した時にも使われたらしい。しかし、ラヤンは彼の家族とともに家の中にとどまった。そこでイスラエル軍はこの家を爆撃することにした。
ラヤンについて詳しい筋によれば、彼はガザの人々に、爆撃を止めさせるために屋根に上るように促した何人かのうちの一人だという。・・・」
http://www.haaretz.com/hasen/spages/1052260.html
(1月3日アクセス。以下同じ)
「<もっとも、>ガザのパレスティナ人権センターの人権派弁護士・・・は、あなたの家が爆撃されるよと警告する電話を受けた何百のケースのうち、実際に爆撃されたのは37件にとどまっているという。・・・」
http://www.guardian.co.uk/world/2009/jan/03/israelandthepalestinians-middleeast
「・・・国連要員によって初期に発表された数字によれば、<空爆によって>殺害された者の80%以上はハマスの治安要員か他の過激派らしいが、この比率は米国やNATOの部隊のアフガニスタンでの比率を上回っている。
ハマスが意図的にミサイル発射機等の武器を人口密集地区のまっただ中に配置していることを考えると、この正確さは大したものだ。
これは、ハマスが意図的に一般住民を標的にしているのに、イスラエル軍が一般住民の死亡を最小化しようとしているとの事実を反映している。・・・」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/12/31/AR2008123102773_pf.html
(1月2日アクセス)
「・・・多くの人々が、この49歳<のアヤン>は、ガザにいる<名目上パレスティナ当局の>首相たるイスマイル・ハニヤ(Ismail Haniyeh)や、<ハマスの>他の中心的指導者であるマハムード・ザハル(Mahmoud Zahar)よりも大物であったと考えている。・・・
ラヤンは、10人のイスラエル人が殺害されたところの、イスラエルの港であるアシュドッド(Ashdod)への2004年の攻撃を指揮し資金を提供したとされている人物でもある。・・・
彼の家族以外に<付近の>30人もが爆撃によって負傷した。イスラエル軍は、建物内に貯蔵されていた武器に引火し、2次爆発が起こったからであるとの弁明に大わらわだ。・・・
<この爆撃によって、>アヤンの4人の妻は全員殺害され、彼の14人いた子供達のうちの少なくとも6人も殺害された。・・・」
http://www.guardian.co.uk/world/2009/jan/03/obituary-nizar-rayan-hamas
(1月3日アクセス。以下同じ)
「・・・イスラエルの役人達は、<アヤンの死を>「標的殺害(targeted killing)」ではないとしている。イスラエルの軍事諜報筋は、弊誌タイムに対し、イスラエルは<アヤン宅に>電話して、この自宅の指揮施設を破壊するので、家の中にいる者は退去するように命じたのにそうしなかったために<アヤンは>殺されたと述べた。
イスラエルは、この作戦開始以来、ずっとハマスの指導者達の自宅の爆撃について、電話で警告を発するという「屋根叩き」方式を用いてきていると言明している。
イスラエルの役人達は、作戦開始以来、ハマスの指導部及びその指揮網を主たる標的にはしてきておらず、従ってそれらにさしたる損害を与えていないと言明している。・・・
<ガザにいるハマスの指導者達・・アヤンと違って大部分は地下にもぐっている・・の居場所等をファタがイスラエルに教えているらしいことは以前に記したところだ(太田)。>
<よって、>ファタの指導者達の多くが、<パレスティナ当局議長の>アッバスに対し、イスラエルと続けている、ほとんど形だけと言ってよいところの和平交渉を中止するだけでなく、ファタの武装組織とイスラエルのそれとの間の安全保障協力を中止することを求めている。
しかし、アッバスにはそんなことはできない。
なぜなら、イスラエルの作戦は、現実には<当面、>ハマスを政治的に強化したからだ。ヨルダン川西岸においてすらだ。アッバスの立場は更に弱体化したことになる。
こんな時にイスラエルとの安全保障協力を中止すれば、ハマスが<ガザに加えて、>簡単に西岸をも支配下に置くことができることをアッバスは知っているのだ。・・・」
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1869407,00.html
(完)
イスラエルのガザ攻撃(続々)(その2)
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<イスラエルのガザ攻撃(続々)(その2)>(2009.2.15公開)
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