太田述正コラム#14388(2024.8.9)
<杉浦重剛/白鳥庫吉/松宮春一郎『國體真義』を読む(その7)>(2024.11.4公開)

 「・・・我が皇室は・・・儒教・・・の完成せられた道徳を御採用になつたのである。
 儒教の教義の全部ではない、我が皇道をすゝめてゆく上に、必要で便益な部分のみを御採り容れになつたのである。・・・
 <逆に、>本国の支那では神とされない孔子を、日本では神として尊敬する。・・・

⇒ひどい間違いです。
 「関帝廟が武廟と呼ばれるのに対比して文廟とも呼ばれる・・・孔子廟<という、>・・孔子を祀っている霊廟」が、支那にも日本にもあるからです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%94%E5%AD%90%E5%BB%9F (太田)

 次に印度の仏教は、儒教とは違つて、一切衆生の平等を主張した。
 それのみならず草木禽獣にも仏性があつて、平等であると唱へた。
 このやうに平等を主張する仏教は、我が国古来の皇室と臣民との間に、天地、神人の隔りがあると信ずる皇道とは根本から異なつてゐる。
 かく相容れないものである筈にもかゝはらず、御歴代の天皇の中には、仏教を信仰せられ、寺院を建立せられたのみならず、落飾して法体となり給うた御方もあるほどである。
 これは如何にも解し難いことのやうではあるが、それは恰も禅譲を理想としてゐる儒教を採用せられたのと同様の方法を以つて、仏教の幽玄なる哲理や進歩した文化を御採用になつたのである。

⇒いや、白鳥の立場になって考えてみても違うのではないでしょうか。
 後出のように、白鳥は、天皇を神であると同時に人と考えている・・イエス・キリストではあるまいし、と揶揄したくなりますが・・ところ、人としての方の天皇が仏教を信仰していた、と言うことでしょう。(太田)

 それで仏教も日本に入つてはもはや印度仏教でもなく、支那仏教でもない、新日本仏教が創められたのである。

⇒新日本仏教と形容できるのは、広義の日蓮宗だけだと思うのですが・・。
https://true-buddhism.com/shuha/nichiren/ 
 (日蓮宗に対して批判的な人物による文章↑だが、基本的に私も同感。)(太田)

 ついでに明治以後になつて、我が国に輸入せられたキリスト教に就いて考へて見ると、いづれ時が経れば、儒教や仏教のやうに全く日本化することゝ思はれるけれども、現今のやうに我が國體の精神及び習慣と相容れないものがあつては、キリスト教自身が隆昌にならないのみならず、我が国の為にも甚だ憂ふべきものもあるのである。
 支那儒教が日本儒教を作つたやうに、印度仏教が日本仏教を作つたやうに、西洋のキリスト教も我が国に来ては、日本キリスト教を作らなければならない。

⇒日本儒教があるとは思えません。
 「日本では儒教は学問(儒学)として受容され、国家統治の経世済民思想や帝王学的な受容をされたため、神道、仏教に比べて、宗教として意識されることは少ない」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%84%92%E6%95%99
点で支那における儒教と違う、というだけでしょう。
 他方、白鳥がこの論考を書いた時点で既に日本キリスト教はできていました。
 内村鑑三によって提唱された無教会主義キリスト教
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%84%A1%E6%95%99%E4%BC%9A%E4%B8%BB%E7%BE%A9
がそうです。
 (内村鑑三が日蓮を高く評価した
https://kennsyoukai.info/utimura-kanzo/
のも当然かも。)
 あらゆる意味で、白鳥は歴史学者失格です。(太田)

 天皇は神であらせられると共に、人間であらせられるといふことは、我が日本人の信念である。
 昔も今も変らない信念である。・・・
 我が国の君臣の関係は神と人との関係であると共に、人と人との関係である。
 人と人との関係を説くものは倫理であつて、神と人との関係を説くものは宗教である。
 それ故に我が君臣の関係は倫理的であると共に、宗教的であるといはねばならぬ。
 倫理の上に超越したものであるといふことも出来る。
 従来我が国の学者が、我が君臣の関係を単に倫理の方面のみから説明しようとしたことは大(おほい)なる誤りである。
 何となれば、我々国民の頭には無意識の中に、君臣関係の宗教的信念が根強く浸み込んでゐるからである。」(32~34)

⇒現在の日本において、天皇が神でもある、と、考えている日本人は皆無、と言ってもいいのではないでしょうか。
 「我々国民の頭には無意識の中に、君臣関係の宗教的信念が根強く浸み込んで」などなかったようですね。(太田)

(続く)