太田述正コラム#3014(2009.1.4)
<イスラエルのガザ攻撃(続x3)>(2009.2.16公開)
1 始めに
 現地時間の3日(土曜)夜、イスラエル軍によるガザ地上侵攻が始まりました。
2 長期侵攻か短期侵攻(波状攻撃の第一回目)か
 「・・・<イスラエル外相の>エフード・バラクは、・・・「なすべきことをなさねばならない時が来た。ただし、それは容易なことではない。だから短期では終わらないことだろう。私はウソをつきたくない」と述べた。
 イスラエル政府は、何万人もの予備役の追加的招集を行った。これは、侵攻が更に拡大するであろうことを示している。・・・」
http://www.guardian.co.uk/world/2009/jan/04/israel-assault-troops-gaza
(1月4日アクセス。以下同じ)
 イスラエルは、長期地上侵攻を敢行したということです。
 ただし、オバマが米大統領に就任する20日までに、イスラエルは地上部隊をガザから撤退させる可能性があります。
 その場合でも、ガザからのロケット(あるいは迫撃砲)攻撃が止まなければ、オバマ新政権の了解をとりつけた上で、イスラエルはガザ再侵攻に踏み切ることでしょう。
3 目的はロケット攻撃の停止かハマスの失権か
 「・・・何ヶ月か前にリヴニ外相は、ハマスを一掃すると話していた。しかし、そのようなことで攻撃を正当化するというのでは、世界の多くの人々のお気に召さないだろう。
 そこで、今ではガザの政府<たるハマス>に新たな停戦に合意させることを強く促すことが目的だ、ということしか彼らは話さなくなった。
 しかし、中には口を滑らせる者が出てくる。
 ガザ侵攻の数日前に、イスラエルの国連大使・・・は、地上侵攻は、「ハマスを完全に除去する(dismantle)まで続けられるだろう」と述べた。激高したイスラエルの官僚達は、こんな発言は、<イスラエルによる>外交攻勢を頓挫させかねないと彼女に警告した。・・・
 <空爆なる>殺戮行為が始まった時、イスラエルは、400人超の死者は大部分ハマスの戦闘員であって破壊された建物もまた大部分はテロのためのインフラの一部であると主張した。
 しかし、死者の約三分の一は<国際法上は非戦闘員であるところの>警察官だ。確かにガザの警察はハマスによって運営されているが、<PLOの法務顧問(legal counsel)でイスラエルの2005年のガザ撤退の際にイスラエルと交渉を行った>ブッツ(Diana Buttu)は、イスラエルが警察をテロ組織だとするのは言いがかりだと語っている。
 「警察は、大方、ガザ域内の法と秩序、交通、麻薬取引に対処するためのものだ。その警察を、イスラエルは警察官の初任研修の修了式の日に爆撃した。イスラエルは、ハマスと関係のある者なら誰でも殺そうとしている。どこで線引きをするというのだ。非制服職員も殺すのか。ハマスに投票した人物も殺すのか」と彼女は語る。・・・」
http://www.guardian.co.uk/world/2009/jan/04/israel-gaza-hamas-hidden-agenda
 「・・・<イスラエルの>副首相のハイム・ラモン(Haim Ramon)は、2日の夜、イスラエルのTVのインタビューで、イスラエルはこの作戦を、ハマスがガザを支配している状態のままで終わらせるようなことがあってはならないとまで語った。
 「ハマスが<ガザを>統治することを許さない状況に到達することこそ我々はやらねばならない、と私は思う。これこそ最も重要なことだ」と彼は・・・語ったのだ。・・・
 政治分析家の・・・は、2日付けのハーレツ紙に「もしこの戦争が、世上予期されているように引き分けで終わり、イスラエルがガザを再占領することもなかったとすれば、ハマスは外交的承認を得たも同然となる」と書いた。・・・
 しかも、<引き分けの場合にハマスと結ばれるであろう>停戦協定には、イスラエルとエジプトからガザへの商業交通の増加が盛り込まれることになるだろう。経済ボイコットと境界の閉鎖を終わらせることは、ハマスがかねてから最も望んでいることだ。
 イスラエルの指導者達に言わせれば、ハマス統治下のガザ経済を整備することは、ハマスそのものを整備することを意味する。他方、商業を禁止することは150万人のガザの人々を引き続き絶望のうちに生活させることを意味する。・・・
 だからと言って、ハマスのインフラを破壊したならば、その結果もたらされるのは混沌だ。これはガザの人々にとってのみならず、イスラエル南部で平和を待ち望んでいる人々にとってもとんでもないことだ。
 ところが、大勢の子供達や関係のない人々を殺害したところの、これまでの作戦を見る限り、イスラエルがハマスの主権を残そうとしているとか、軍事標的だけに攻撃をしぼっているといった様子はない。
 イスラエルは、モスクを破壊したのは兵器庫として用いられているからであり、イスラム大学を何度も爆撃したのは、爆弾工場がそこに設置されていたからだと言っている。
 しかし、そんな説明など一切抜きで、イスラエルは、沢山の政府の建物を瓦礫の山と化している。・・・
 イスラエルは、意図するとせざるとに関わらず、作戦目的を変形させつつあるのではないか。
 つまり、ハマスのインフラが十分破壊された暁には、人口が密集していて、難民が溢れ、もともと弱体な経済がイスラエルによるボイコットで惨憺たる状態になっている中、ガザを統治することはほとんど不可能になることを期待し始めているのではないか。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/01/04/world/middleeast/04assess.html?hp=&pagewanted=print
 イスラエルは、少なくとも現時点では、ハマスの失権をめざすに至っている、と考えるべきでしょう。
4 イスラエル地上部隊が苦戦する可能性
 「・・・一年ちょっと前に、<ハマスよりもっと過激な>イスラム聖戦のロケット計画の長であるアブ・ハムザ(Abu Hamza)は、<ロケット攻撃の>目的は、イスラエルをガザ地峡内での地上戦闘に引きずり込み、自分達が「できるだ多数のシオニスト達を殺す」機会を得るところにある、と説明した。・・・
 ・・・過去2年間に、多数のイスラム聖戦とハマスの要員達がトンネルからエジプトに抜け、イランとレバノンでヒズボラの要員達と一緒に訓練を受けたという。
 ただし、イスラエルの大量の装甲と対決させられた時のために、ヒズボラがレバノンで巧妙に使用したところの、対戦車兵器を彼らが供与されることに成功しているかどうかは定かではない。
 また、たとえ彼らがヒズボラと同様の戦術がとれたとしても、彼らが、ヒズボラがイスラエルの戦闘機から兵器を隠蔽できたようなことが、険しい丘や谷を欠くガザでできるかどうかは疑問だ。・・・」
http://www.guardian.co.uk/world/2009/jan/03/islamic-jihad-israel-gaza
 「・・・多くの人は、レバノンでの2006年のヒズボラとの戦争で、イスラエルはロケット発射機と敵対的組織<たるヒズボラ>のインフラを破壊しようとしたが、多数の一般住民を殺害した挙げ句、ヒズボラの人気を一層高め、恐らくはヒズボラを戦争前よりも強化してしまったではないかと指摘する。 
 しかし、イスラエルの軍事計画担当者達は、レバノンとガザは同一には論じられないばかりか、彼らはこの時の戦訓から学んだと言う。
 すなわちガザは、レバノン南部より狭く平坦であるだけでなく、最も重要なことは、武器を継続的に再補給できるシリアのような国との穴だらけの境界がガザには存在しない、というのだ。
 ガザからエジプトのシナイ半島に通じる密輸トンネルを破壊し、武器庫やロケット発射機設置場所を体系的に除去し、かつこれと平行して関連インフラを除去すれば、最終的には成功を収めることができる、と彼らは主張する。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/01/04/world/middleeast/04assess.html?hp=&pagewanted=print上掲
 ヒズボラとの戦争だって、イスラエルは勝利しました。
 実際、戦争終了後、ヒズボラはイスラエルに向けてロケットを発射していません(典拠省略)。
 今回のハマス等に対する地上侵攻は、ヒズボラに対する地上侵攻よりも、はるかに円滑に進行するでしょうし、ヒズボラとはとは違って、ハマスは著しく弱体化するどころか、失権する可能性が高い、と私は思います。