太田述正コラム#14452(2024.9.10)
<映画評論127:あなたを抱きしめる日まで>(2024.12.5公開)

 今度は、「『あなたを抱きしめる日まで』(・・・Philomena)は、・・・第70回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門でプレミア上映され、クィア獅子賞を受賞<し、主演の>スティーヴ・クーガンとジェフ・ポープが金オゼッラ賞(脚本賞)を獲得し<、>また、第86回アカデミー賞と第67回英国アカデミー賞でそれぞれ4部門にノミネートされ、英国で脚色賞を受賞した・・・2013年のイギリスのドラマ映画。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%82%E3%81%AA%E3%81%9F%E3%82%92%E6%8A%B1%E3%81%8D%E3%81%97%E3%82%81%E3%82%8B%E6%97%A5%E3%81%BE%E3%81%A7 ※
です。
 この映画の背景には、’・・・in mid-twentieth-century Ireland, the Catholic church forced unwed mothers in their care to give up their children for adoption. Following pressure to do so, a Commission was formed by the Government of Ireland to investigate Mother and Baby Homes in 2015.’
https://en.wikipedia.org/wiki/Philomena_(film)
という史実があります。
 時系列から見て、この映画もアイルランド政府の調査をもたらした諸要因の一つだったのでしょうね。
 とまれ、私が改めて感じたのは、イギリスの伝統的な反カトリシズム感情であり、更に、その背後にある反キリスト教感情です。
 だからこそ、「ニューヨーク・ポストのカイル・スミスは本作を「カトリックへの悪質な攻撃である」と評し<、>この批判に対し、本作の制作者であるハーヴェイ・ワインスタインはニューヨーク・ポストに全面広告を出して抗議した。」(※)といった反響が、(イギリスではもちろんなかったけれど、)米国ではあったわけです。
 傑作なのは、カトリック教会の偽善と犯罪性を剔抉し批判したこの映画を制作したのが、まさに偽善と犯罪性の象徴のような性犯罪者、ワインスタイン(ワインスティーン)だったことです。
 良く知られているように、「2017年、ワインスタインが長年にわたって多数の女性を暴行し、さらに被害者が事件を口外しないよう口止め工作を行ってきたことが大きく報道され<、>一連の報道の影響を受けてワインスタイン・カンパニーは破産、ワインスタイン自身も性暴力や強姦などの罪で起訴され、2022年にはニューヨークの裁判所で禁錮23年、2023年にはロサンゼルスの裁判所で更に禁錮16年を上乗せする判決を受ける。この事件は<米国>社会で大きな衝撃を与え、性暴力・セクハラを受けていた女性たちが声を上げる「#MeToo運動」と呼ばれる世界的な社会現象へとつながった」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%B3
ところですからね。
 付け加えると、この映画を見るまで、アイルランドの国章がハープで、アイルランド発のギネス
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AE%E3%83%8D%E3%82%B9
のビールのラベルにもこのハープが刻印されている
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E3%81%AE%E5%9B%BD%E7%AB%A0
ことを知りませんでした。
 但し、皮肉なことながら、この国章を作ったのはイギリスであったようです。
https://en.wikipedia.org/wiki/Coat_of_arms_of_Ireland
 「2006年の国勢調査では、国民の10%がアイルランド語を学校外においても日常的に使用し、15歳以上の39%が自らをアイルランド語話者であると分類している」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89
といった具合に、アイルランドで、いまだに、イギリスの言語である英語が圧倒的に使用されているように・・。
 但し、「カトリックである人口の割合は、2011年の国勢調査では84.2%だったのが、直近の2016年国勢調査では78.3%にまで減少<は>してい<て、>2016年国勢調査のその他の結果では、プロテスタントが4.2%、正教が1.3%、イスラム教が1.3%、無宗教が9.8%となってい<ることから、一見依然高いものの、>・・・、2000年以前は欧米諸国の中でも特にミサの定期的な出席率が高い国<であって、>1日の出席率が13%であったのに対し、1週間の出席率は1990年の81%から2006年には48%に減少しているが、減少は安定化していると報告されて<は>い<るとはいえ、>2011年には、ダブリンの毎週のミサの出席率はわずか18%と報告され、若い世代ではさらに低くなっている」(上掲)ことから、カトリシズムは、事実上、急激に衰退しつつある、と言えそうであり、この点では、ようやく、アイルランドはイギリスの後を追いかけ始めている感があります。