太田述正コラム#14462(2024.9.15)
<映画評論129:三国志英傑伝 関羽>(2024.12.10公開)
今回取り上げる表記、「原題:關雲長・・・は、2011年の<中共>映画であるところの、『三国志演義』に登場する劉備の部下の武将・関羽の「過五関、斬六将」のエピソードを描いている。・・・
赤壁の戦いの数年前のこと。劉備軍の武将であった関羽は、劉備の妻らとともに敵である曹操に捕らわれていた。関羽は捕虜でありながらも、袁紹軍に対して劣勢であった曹操軍の手助けをし、白馬の戦いで勝利をおさめる。曹操は様々な手を尽くし関羽に再三配下に入るよう説得するが、関羽は断固として劉備の元へ戻ることを願っていた。曹操もそれを認め、部下の警戒心をよそに先に劉備の妻などを返した後、関羽が5つの関所を通行手形なしで通過できるよう命じた。関羽は、間もなく劉備の側室となる女性・綺蘭ひとりを連れ主君の元へと向かうが、通過しなければならない関所で曹操の部下である6人の武将から命を狙われることになる。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E5%9B%BD%E5%BF%97%E8%8B%B1%E5%82%91%E4%BC%9D_%E9%96%A2%E7%BE%BD
というわけで、この映画は、『三国志演義』の一部を取り上げたところの、関羽と曹操の二大主人公物なのですが、中共映画や香港映画によくある(、かつまた、そうでない方が我々にとっては望ましいところの、)カンフー映画、でもあります。
さて、『三国志演義』においては、「曹操陣営の人物は天子を擁し専横を振るう悪役であり、しばしば姦計を巡らすが、作中の曹操陣営の姦計・悪事の多くは魏晋南北朝時代に書かれた『三国志』(陳寿著)・『後漢書』・『曹瞞伝』・『異同雑語』(孫盛著)等に出典があり、羅貫中の独創ではない。ただ、同じ事柄について諸説ある場合は、曹操について悪く書かれている説が採用される傾向が強いようである。ただし、曹操の没(七十八回)については長文の漢詩を詠んでこの功績を称えるなど、これまた必ずしも曹操を骨の髄からの悪党として描いているわけではなく、勧善懲悪譚の域を超えていることが指摘されている。・・・
清の毛宗崗は三絶(三人の傑出した人物)が登場すると述べ、智絶(知者のきわみ)の諸葛亮、義絶(義人のきわみ)の関羽、奸絶(悪人のきわみ)の曹操の三名の傑物を挙げる。とりわけ、義理と人情の化身として『演義』成立期以前より畏敬されていた関羽は、生涯に亘って焦点が当てられ他の武将とは別格の活躍をしている」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E5%9B%BD%E5%BF%97%E6%BC%94%E7%BE%A9
ところ、私は、『三国志演義』については子供向けに書かれた要約版を読んだことがあるだけですが、そこでの関羽や曹操の取り上げ方は、概ねこのようなものだった記憶があります。
しかし、この映画は、関羽を、『三国志演義』そのままの関羽・・これは史実としての関羽
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%96%A2%E7%BE%BD
にも近い・・として描きつつも、曹操に関しては、『三国志演義』においてよりも、はるかに懐の深い大人物として描いているように私は思われました。
その背景には、「清が倒れると曹操再評価の動きが見られるようにな<り、>章炳麟や魯迅が曹操を評価し、京劇においても単なる悪役ではない曹操像が描かれるようになる。中華人民共和国が成立すると毛沢東は孔子を排撃する一方で、それまで非難されてきた始皇帝・王安石らと共に曹操を再評価しようとした。
歴史学者であり、政府の要人でもあった郭沫若がこれに応えて1959年初めに曹操評価の論文を複数発表した。その中で「黄巾起義軍を鎮圧したが、その行動理念を継承して黄巾を青洲兵として組織化した。」「豪族を抑えて農民を保護した」「烏桓を討って辺境を安定させた。」「建安文学をおこした」などの評価を与えた。・・・
現在では日本でも<支那>でも小説・漫画・ゲーム等々様々な媒体で曹操は理知的な英雄として描かれて<おり、>万能の天才・時代を超越した人物と<当初>の<曹操>評に回り戻ってきたと言える」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9B%B9%E6%93%8D
ということがあるのでしょうね。
私自身、現在のこのような曹操評価は妥当だと考えています。
なお、関羽を演じたドニー・イェン(甄子丹=Donnie Yen。1963年~)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%82%A7%E3%83%B3
は、完全なミスキャストだと思います。
カンフーは巧みでも、身長も含めたガタイ、も、また、ルックス、も、申し訳ないがパンチ不足もいいところだからです。
中共では男性俳優の層が薄い、という私の感覚(コラム#省略)は、やはり、間違っていないようです。