太田述正コラム#14542(2024.10.25)
<G・クラーク『ユニークな日本人』を読む(その14)>(2025.1.20公開)
[原始共産制]
’・・・Çatalhöyük<(注9)> was an early example of anarcho-communism, and so an example of primitive communism in a proto-city.・・・
(注9)チャタル・ヒュユク。「アナトリア地方南部、現在のトルコ共和国、コンヤ市の南東数十km、コンヤ平原に広がる小麦畑をみおろす高台に位置する新石器時代から金石併用時代の遺跡である。その最下層は、紀元前7500年にさかのぼると考えられ、・・・上層は、青銅器が出現するハラフ期(4300 B.C.頃)並行とされ全体的にやや新しい。・・・
チャタル・ヒュユクの人々は、社会的な階層分化がなされず、相対的に平等社会であったと思われる。はっきりと王や神官が使用したことを想起させる特徴をもった家屋が未だに発見できないからである。・・・男性も女性も食物を平等に分け合い、社会的な階層としては平等であった。チャタル・ヒュユクの上層においては、人々は農業を行い家畜を飼っていたことが明らかになっている。・・・小麦や大麦の他には、エンドウマメ、アーモンド、ピスタチオや果物などが栽培されていた。牛や羊の骨が見付かっているのは、動物の家畜化の始まった証拠として考えられている。しかしながら、チャタル・ヒュユクの人々にとっては、狩猟で得られる動物の肉はなお重要な食料であり続けた。土器を作り、黒曜石で石器を作ることが主要な「工業」であった。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%A3%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%92%E3%83%A5%E3%83%A6%E3%82%AF
’Indus Valley civilisation・・・
・・・mode of production seen in early Hebrew society was a communitarian domestic one that was akin to primitive communism.・・・
⇒原始共産制・・私の言う(人間主義を基本とする社会や人間主義的社会とは異なるところの)人間主義社会・・として、ここでは、ミノア文明社会こそ挙げられていないけれど、その代わりに、(私にとっては定番の)インダス文明社会のほか、チャタル・ヒュユク社会、と、初期ヘブライ(ユダヤ)社会、が、挙げられている。
縄文社会が挙げられていないのは、不思議ではないが・・。
なお、定着的狩猟採集社会であった縄文社会以外は、全て農業革命後の農業社会群だ。
チャタル・ヒュスク社会では、狩猟も行われていたという点で、縄文社会と似通っている部分があるが、初期ヘブライ社会が原始共産制社会たりえたのはどうしてかは究明される必要があるところ、さしあたりの仮説としては、それが宗教共同体であったから、ではなかろうか。
だからこそ、(キリスト教はユダヤ教の分派であるところ、)初期キリスト教社会もまた、原始共産制社会であった(このウィキペディア)のである、と。
また、ピタゴラスが率いたピタゴラス教団も、原始共産制社会であった(このウィキペディア)ところ、それも、それが(ユダヤ教系統ではないけれど)教団であったからだから、と、言えよう。(太田)
・・・one of the first writers to espouse a belief in the primitive communism of the past was the Roman Stoic philosopher Seneca who stated, “How happy was the primitive age when the bounties of nature lay in common … They held all nature in common which gave them secure possession of the public wealth.” Because of this he believed that such primitive societies were the richest as there was no poverty. According to Erik van Ree, other Greco-Roman writers that expressed a belief in a prehistoric humanity that had a communist-like societal structure include Diodorus Siculus, Virgil, and Ovid.・・・
⇒プラトンの哲人政治の社会も原始共産制社会に類似している(このウィキペディア)けれど、プラトンの場合は、過去社会の「記憶」ではなく、将来当為として招来すべき原始共産制社会的な社会の樹立を唱えた、ということから、過去社会の「記憶」を踏まえ、過去への回帰を唱えた最初の人物は、(少なくとも西欧/地中海世界においては、)トマス・モアではなくセネカだった、ということになりそうだ。(太田)
Karl Marx and other early communist theorists believed that hunter-gatherer societies as were found in the Paleolithic through to horticultural societies as found in the Chalcolithic were essentially egalitarian and he, therefore, termed their ideology to be primitive communism. Since Marx, sociologists and archaeologists have developed the idea of and research on primitive communism.・・・’
https://en.wikipedia.org/wiki/Pre-Marxist_communism
「原始共産主義<なる用語は、>・・・通常 カール・マルクスと結びつけて考えられている・・・が、詳細はフリードリヒ・エンゲルスによって『家族・私有財産・国家の起源』の中で叙述された<という経緯がある>。・・・
<それは、>アメリカ州の先住民族の村落の構造を「古代氏族の自由、平等、友愛」や「生活における共産主義」と語ったルイス・ヘンリー・モーガンの大きな影響を受け<ている>。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E5%A7%8B%E5%85%B1%E7%94%A3%E5%88%B6
但し、「モーガンは・・・、インディアンの社会の観察から導き出した結果として、人間社会の発展を、「野蛮」、「未開」、「文明」の三つの段階に分けられる、と主張し<、>・・・インディアンはせいぜい「上位の野蛮人」であって、ヨーロッパ白人こそが文明段階にあり、支配者たるものだと考えた。白人種は他の「有色人種」よりも、より進化しているとの含みで、彼の論理的結論は、「文化的な社会は原始社会の文化よりはるかに進んでいる」というものだった。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%98%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%B3
⇒原始共産主義なる言葉を創ったのはマルクス/エンゲルスであるわけだが、彼らが参考にしたところのモーガンのインディアン社会論は結果的に間違っていたし、そもそも、人種差別的含意が最初からあった、ということになる。
いずれにせよ、彼らがモーガンに注目したのは、トマス・モアの『ユートピア』が2人をそれまでに感化していたからであろうことは、「マルクス<が、>『資本論』で、モアを引用し本源的蓄積について論じている」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%A2%E3%82%A2 前掲
くらいなので、間違いなかろう。
この2人にセネカら古代ローマの識者達の議論もインプットされていたかどうかは、深入りしないでおくことにする。(太田)
(続く)