太田述正コラム#14556(2024.11.1)
<G・クラーク『ユニークな日本人』を読む(その21)>(2025.1.27公開)
[アングロサクソン文明の誕生を巡って(続x3)]
バスク神話は失われてしまっているが、主神が女性神たるマリ(Mari)・・地上の神で、It is believed that Mari is a modification of “Emari” (gift) or, “Amari” (mother + the suffix of profession) by losing the first vowel. ・・であったことは間違いなさそうだ。
このために、キリスト教普及後、バスク地区で名前がほぼ同じ生母マリア信仰が生れたのではないかとの説がある。
https://en.wikipedia.org/wiki/Mari_(goddess)
カトリシズムがキリスト教諸派中、最もマリアを重視する
https://en.wikipedia.org/wiki/Mary,_mother_of_Jesus
のはそのためだ、と、私は考えるに至っている。
ここで、敬遠してきたところの、ガリア、を中心とする、北西欧州の神々「事情」に触れておこう。
’The Romans described a variety of deities worshipped by the people of Northwestern Europe. Barry Cunliffe perceives a division between one group of gods relating to masculinity, the sky and individual tribes and a second group of goddesses relating to associations with fertility, the earth and a universality that transcended tribal differences. Wells and springs had female, divine links exemplified by the goddess Sulis worshipped at Bath. In Tacitus’s Agricola (2.21), he notes the similarity between both religious and ritual practices of the pre-Roman British and the Gauls.’
https://en.wikipedia.org/wiki/British_Iron_Age
というのだから、ローマ人は自分達と同じ印欧語族であるところのケルト人等の部族共通の神々は女性神達であると見ていたというわけであり、ケルト人等においては主神こそ不在ながら女性神群が男性神群より優位にあった、と言えそうだ。
私は、バスク人の一部がブリテン諸島を目指している途中で北西欧州の印欧語族に文化的痕跡を残し、その結果、その後、BC6世紀からBC3世紀までの間に同地にケルト人が拡散・・なぜ、「拡散」と表現すべきなのかを含め、下掲
https://en.wikipedia.org/wiki/Celts
参照・・してきた時に先住印欧語族の文化の影響を受けて、女性神群が男性神群より優位な文化を形成した、と、見るに至っている。
何が言いたいかというと、印欧語族のギリシャ人のギリシャ神話にも、また、その影響下に形成されたところの、同じく印欧語族のローマ人のローマ神話にも、それぞれ、主神たる男性神のゼウス、ユーピテル、が存在することから、ケルト人の神話にも、もともとは主神たる男性神が存在したと思われるところ、それが、女性神を主神とするバスク人文化の痕跡の影響を受けて、上述のような形へと変容を遂げたのではないか、ということなのだ。
ちなみに、やはり印欧語族であるところのゲルマン人の神話を直接うかがうことができる史料は残されていない
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B2%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%83%B3%E7%A5%9E%E8%A9%B1
が、「北欧神話について現存する記録の大多数は13世紀にまで遡ることができ、少なくとも正式にキリスト教社会となった世界に、2世紀以上も口承の形で保存されていた。13世紀に学者たちはこの口伝えに残る神話の記録を始め、特にキリスト教以前の神々が実際の歴史上の人物にまで辿ることができると信じていた学者、スノッリ・ストゥルルソンにより、『エッダ(散文のエッダ、新エッダ)』や『ヘイムスクリングラ』が書き起こされた」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%97%E6%AC%A7%E7%A5%9E%E8%A9%B1
ところ、このように「復活記録」された北欧神話において、オーディンは、主神にして戦争と死の神とされ、男性神であるかどうかすら記す必要もないほど明白な男性神だ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%B3
だから、繰り返すが、ケルト人の神話に本来男性神たる主神が存在しなかったとは考えにくいわけだ。
(続く)
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