太田述正コラム#3067(2009.1.31)
<ハンデと戦う女性ピアニスト達>(2009.3.18公開)
(これは、本日、東京の西大井で行うオフ会の際の私の講演の原稿です。)
1 始めに
女性の知的能力の標準偏差は男性に比べて小さい。
ということは、知的に傑出した女性は男性に比べると少ないということです。
しかも、女性は平均的に男性より筋力が劣るし体格も小さい。
だから、スポーツはもとより、科学研究や囲碁将棋の分野でも男性と同じ土俵で女性は戦えません。
作曲家を含む芸術家の世界も料理人の世界もそうですよね。
じゃ、どういう分野で女性は一流の男性にまけずに活躍しているのでしょうか。
歌手や俳優の世界は男女全く対等ですが、これは男性じゃ女性の声が出せないし、女性を演じられないからです。宝塚や歌舞伎や大衆演劇の世界はちょっと横に置いておきましょう。
結局残るのは、小説家/詩人と器楽演奏家の世界くらいです。
本日は器楽演奏、とりわけクラシックのピアノ演奏においてハンデを女性達がいかに「乗り越えて」頑張っているかについてお話したいと思います。
2 バイオリンとピアノの違い
グリュック(Christoph Willibald Ritter von Gluck。1714~87年)作曲のオペラ「オルフェとユリディース」よりメロディーの演奏を4通りお聞き下さい。
一、ヨッシャ・ハイフェッツ(Jascha Heifetz) 演奏時間:2.43
http://jp.youtube.com/watch?v=tenI_FyFeZ0&feature=related
二、サラ・チャン(Sarah Chang)3.10
http://jp.youtube.com/watch?v=utmG3OAjBXs&NR=1
三、セルゲイ・ラフマニノフ(Sergey Rachmaninov)3.30
http://jp.youtube.com/watch?v=_XQ6tjxuJ6g&feature=related
四、エフゲニー・キーシン(Evgeny Kissin)4.45
http://jp.youtube.com/watch?v=YjDHQwLbGms&feature=related
バイオリンとピアノの違いが分かりますか?
バイオリンの方はピアノの伴奏がついてますよね。
他方、ピアノの方はピアノ単独です。
バイオリン単独では基本的に一つの旋律を奏でられるだけで和声(harmony)は出せない。ピアノの伴奏をつけて和声を確保することによって演奏に奥行きが出てくる。
他方、ピアノは単独で和声が出すことができます。
なお、ピアノは12平均律(12 mean temperament)に調律されているのに対し、バイオリンはいかなる音も出すことができるという違いもありますが、今回はこの点には立ち入りません。
ただし、ピアノをバイオリンと比べた場合、弱点がないわけではなりません。
ピアノは、原理的には打楽器ですから、音が急速に減衰する。ペダルを踏んでも、減衰の程度を緩和できるだけです。これに対し、バイオリンの方は、音を長く伸ばすことができます。
さて、4人の演奏者によってそれぞれ演奏されたグリュックの曲を、一部だけお聞かせしましたが、テンポが速かった順番が分かりますか?
1,2,3,4の順番です。
ピアノよりバイオリンの方がテンポが速いとは感じなかった方も多いのではないでしょうか。どうしてそうなのか、どなたか教えていただければありがたい。
いずれにせよ、テンポを決めるのは演奏者です。
これに加えて、演奏者は、個々の音の長短・・楽譜に書いてある相対的長短通りに演奏しているわけではなく、微妙に長短を変えて演奏する・・と個々の音の強弱・・そもそも楽譜には強弱はアバウトにしか記入されていない・・によって演奏に個性を出します。それが器楽演奏の芸術性につながるわけです。
2 女性ピアニストの健闘と限界
(1)序
弦楽器に関しては、女性はハンデがほとんどないけれど、管楽器は肺活量のハンデ、ピアノは筋力と体格のハンデがあります。
ピアノについて、考えてみましょう。
(2)まともに勝負する
最初に、マーサ・アルゲリッチ(Martha Argerich)によるチャイコフスキー・ピアノ協奏曲第1番の演奏を聴いてみましょう。
http://jp.youtube.com/watch?v=JbsvPMbC55A&feature=related
見事な演奏ですよね。ミスタッチ(弾き損じ)なんてほとんどありません。
ではもう一つ。彼女によるショパンのポロネーズ第6番作品53「英雄」です。
http://jp.youtube.com/watch?v=KCSEwfqs-VM&feature=related
こちらも一見完璧な演奏のように聞こえたかと思いますが、実は、スピードと大きい音の連打が求められる箇所で10回くらいミスタッチがあります。
では、男性のブレハッチ(afal Blechacz)による同じ曲の演奏を聴いてみましょう。
http://jp.youtube.com/watch?v=NHV0ByoaKF0&feature=related
こちらは、ミスタッチがほとんどありません。
女性であることを、長い髪(うるさそうです)以外では捨て去ったようなアルゲリッチでも限界があることがお分かりでしょうか。
時間があったら、以下の3人による同じ曲の演奏も聴いてみてください。
外山啓介(keisuke toyama)
http://jp.youtube.com/watch?v=4bDtBJAumPs&feature=related
ルービンシュタイン(A. Rubinstein)
http://jp.youtube.com/watch?v=nsl7XDTBaJo
ホロヴィッツ(Horowitz)
http://jp.youtube.com/watch?v=KZGi49Bnghs&feature=related
(3)スピードを抑えて弾く
今度は、体格も容姿(!)もアルゲリッチよりはるかに女性らしい仲道郁代による、ショパンのノクターン(遺作)の演奏です。
http://jp.youtube.com/watch?v=PU6C1QQnSeY&feature=related
すばらしいですよね。
では今度は、スピードと大きい音の連打が求められるベートーベンのソナタ「月光」の第3楽章の仲道による演奏を聴きましょう。
http://jp.youtube.com/watch?v=-GvcHgBEzaw&feature=related
彼女はスピードを抑えて弾いているけど、それでもミスタッチが結構あります。
男性のグレン・グールド(Glenn Gould)の同じ曲の演奏を聴いて下さい。
http://jp.youtube.com/watch?v=DVZqAbbkdgw&feature=related
このようにものすごいスピードで弾くことの是非はともかく、こんなことは仲道には逆立ちしてもできないでしょう。
最後に、仲道さんよりは早いスピードですが、最も適切なスピードで模範演奏された例・・実はピアニストが男性か女性かも分からないのですが、恐らく男性です・・を聴いて下さい。
http://jp.youtube.com/watch?v=0ZaTzSWqXCU&feature=related
(4)作曲家ないし曲を選んで弾く
ほとんどモーツアルト一本槍なのが内田光子です。
モーツアルトにはスピードが速く、大きな音を連打しなければならない曲はまずありません。
彼女によるモーツアルトのピアノ協奏曲第20番第1楽章を聴いてみましょう。
http://jp.youtube.com/watch?v=3dkK1iw2SMk&feature=related
小編成のオケですが、内田が指揮しながらピアノも弾くというのも面白いですね。
女性は、一般に小柄でもあるので、手が小さく指も短い人が多い。
加羽沢美濃は、自分でも言っていますが、手が小さいため、基本的に自分が作曲した曲しか弾きません。日本映画の映画音楽も何曲かてがけていますよ。
彼女の映像入りの演奏がほとんどアップされていないので、彼女の作曲したピアノ曲をシロウトが弾いたもの
http://jp.youtube.com/watch?v=z91_uKqTxWA
と、彼女の写真
http://columbia.jp/~kabasawa/profile.html
をどうぞ。
仲道とはまた違った、しかし、やはり美人ですよね。
そう。女性のピアニストは美人であることも武器にすることができるわけです。
(蛇足です。バイオリニストの諏訪内晶子、高嶋ちさ子、宮本笑里は、どちらも高いレベルではあるけれど、技量と美人度(私の主観)が逆比例してますね。私は、ピアノ贔屓ということもあるのだろうけれど、彼女達よりもピアニストの仲道や加羽沢の方によりセックス・アピールを感じます。)
3 終わりに
男性諸君、ハンデを背負っているところの、女性の健闘に敬意を表しましょう!
ハンデと戦う女性ピアニスト達
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テンポだけを比較してもあまり意味がない。
内田は立って指揮をしてるから天下り役人とは大違いだ。出てる音から推察すると、指揮のがより才能があるようだ。
ピアノ演奏を聞く時には、左手が右手と同等に音楽を奏でてるかが気になって仕方ありません。例示された演奏者の中ではグールドが群を抜いてると思います。蛇足ですが、諏訪内と仲道はずっと前ですがお見かけしました。服のセンスがイマイチの印象でした。両者とも。
ちなみに太田さんの言及された演奏者は、グールドを除き、ぼくの趣味ではありませんね。