太田述正コラム#3070(2009.2.1)
<現在の戦争の最先端>(2009.3.19公開)
1 始めに
このコラムの前半は、オフ会で言及した話なのですが、後半の話と一緒に合わせてお伝えすることにしました。
2 兵器としてのバイアグラ
「・・・米国の諜報員達にとっては、<バイアグラ>こそ、アフガニスタンでのいくつかの重要な戦闘において勝利をもたらしたものなのだ。
CIAは情報をカネで買う長い歴史を有するが、・・・タリバンによる叛乱は、同国における最も険しい地域において新奇な誘因や創造的交渉の活用を促した。・・・
従来はカネと武器が賄賂の手段だったが、・・・これらはいつも最適な手段であるとは言えない。
・・・銃は、余りにもしばしば間違った相手の手に渡ってしまうし、カネ、宝石、車といった派手な贈り物は不必要に目を引いてしまう。・・・
本人が殺されないまでも、その人物が受け取ったことをみんなが知ってしまうので、情報源としては使い物にならなくなってしまうのだ・・・。
一番大事なことは、・・・その情報源の個人的ニーズに答えてやることによって、ほとんど痕跡を、あるいは目に付くような痕跡を、残すことなくその人物を自分の側にしっかりとつなぎ止めるような方法を見つけることなのだ・・・。
ソ連の諜報機関は、外国の外交官を情報源へと仕立て挙げる際、魅力的な女性を餌として用いることで悪名高かった。
KGBはいつも「ハニートラップ」を使ったがそれは効果的だった・・・。
これに対し、米国の諜報員達の一般的なやり方は、情報源候補者や彼らの近親者達に医学的支援を提供することだった。・・・
<このような背景の下、アフガニスタンで、米国の諜報員達はバイアグラを餌として用いるようになったのだ。>」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/12/25/AR2008122500931_pf.html
(12月26日アクセス)
「・・・一つの例が挙げよう。<イスラム教で許されているところの>4人の妻のいる60歳の軍閥に<バイアグラを>4錠与えたところ、4日後には、追加のバイアグラと引き替えに詳細なタリバンの動静を彼から聞き出すことができた。・・・」
http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/7800549.stm
(12月27日アクセス)
3 人間の限界とロボット兵器
「・・・重たい兵装によって<兵士の>筋肉と骨が痛みがちであり、それがアフガニスタンの山岳地帯での作戦行動に障害を及ぼすことへの懸念が増大している。
このため、・・・一定の米軍部隊を対象に、もっと軽い装備を導入しようとする動きが1ヶ月前から始まった。・・・
兵士達は、12~15ヶ月間戦地に派遣され、これを繰り返すわけだが、・・・戦地派遣不能(non-deployable)とされた者の数は2007年で257,000人と、その前年に比べて10,000人も増えている。・・・
いくら若いからといって、15ヶ月間にわたって海抜8,000から11,000フィートの場所に彼らを重たいリュックサックを担がせて派遣していれば、筋肉や骨がいかれるのは当たり前だ。・・・背中、脚、足の<骨が>ストレス骨折したり疲労骨折したりするわけだ。ただ歩いているだけでも、脚がストレス骨折したりするのだ。
米軍は、イラクやアフガニスタンでの即製爆弾等の脅威に備えるために防弾着を兵士に着用させているが、これは悩ましい結果をもたらしている。というのも、陸軍兵士や海兵隊員達は、いつも体重の半分もの重さのものを身につけて戦闘しなければならないからだ。
・・・<そもそも、>海兵隊員の戦闘時の負荷・・防弾着、武器、弾薬、水、食料、通信機器・・は97から135ポンドの重さがあり、これは推奨されている50ポンドをはるかに上回っている。アフガニスタンでは、3日間の出撃の際、兵士はいつも130から150ポンドの負荷を受けているときている。・・・」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/01/31/AR2009013101717_pf.html
(2月1日アクセス。以下同じ。)
「・・・米軍は、対イラク戦が始まった時点では、ロボットに関しては、空で若干のドローンを用いていただけで、地上ではロボットは皆無だった。しかも、ドローンは武装していなかった。
しかし、現在では米軍は、ドローンを5,300機も持っているし、地上用のロボットを12,000体も持っている。・・・
無人システム(unmanned system)の次世代の原型(prototype)は、単に致死性のミサイル、ロケット、機関銃といった兵装を持っているだけではない。標的を自分で探し出すといった自己決定を次第に行うようになってきている。・・・
我々は、核兵器の登場以来の、いや恐らくそれ以上の、戦争に関する最大の革命の始期に生きているのだ。
我々の新しい無人システムは、「いかに」戦争を戦うかを変えるだけでなく、それは最も根本的な所で、「誰が」戦うかを変え始めようとしているのだ。・・・」
http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-singer30-2009jan30,0,5620264,print.story
4 終わりに
生命科学の著しい発展により、男女関係や親子関係を含め、人間関係の神秘のベールがはがれ、これらの関係を薬学や遺伝子工学等の助けを借りて操作できる時代のとば口に我々はいるわけですが、それは当然戦争のやり方も変化させます。
また、情報工学や機械工学等の発展は、ロボットが人間でなければできないことの領域を急速に狭めつつあります。
10~50年のうちには、プロの将棋や囲碁の棋士やプロの器楽奏者等はいなくなっている可能性が高いし、ほとんどすべての生産活動はロボットが担うようになっているだろうという話が今回のオフ会でも出ました。
人間を武器ないし武器のプラットホームの操作員として戦場で使うなどという危険で贅沢ことだって、早晩許されなくなることは必至でしょう。
こんなことを考えていると、頭がくらくらしてきますね。
現在の戦争の最先端
- 公開日: